表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くろやみ国の女王  作者: やまく
第四章 王子、噂、船出
50/120

青と翼と 3

 

 

 




 女王からの来客の知らせを受けて、ライナとシメオンは王の間に散らかった資料の片付けを行っていた。掃除などは女王の指示を受けたらしい小型機械が現れて自動的に行ってくれている。

「シメオン、今度は暴れちゃだめだよ」

 ライナがまとめたメモの束の上に重しがわりのデータボードを乗せながら言う。

「わかってるよ。今回は大丈夫。ライナの傍から離れないようにするから。さあ、もうお客さんが来るから別室に移動しよう」

 記憶ブロックを机の上に並べ終えると、シメオンはライナの手をとり急かした。

「うん。でも、ちょっとグリフォンは見てみたいな……あれ?」


 ふと王座の傍らにおいてある銀色の卵を見て、ライナは顔色を変えた。







 列車を城内の途中駅でいったん停めて、ジェスルさんを治療室に運びこむ。彼の治療のためにベウォルクトが残り、残り全員で王の間へ向かう。

 控え室にあたる部屋まで来るとレーヘンに後を頼んで、先に私だけ王の間に入ると、ライナとシメオンが片付けてくれた机を上に乗っている物も全部まとめて床下に収納した。

「あとは家具が必要かしら」

 王の間に指示を出してお客さん用の椅子とテーブルを窓際に配置する。ついでに照明も落ち着いた色に変えてみた。

 そして呼吸を落ち着けると髪を整え、着ている黒いワンピースの襟元と裾を整えて王座に座る。

「ファムさま、これを」

 来客用のティーセットを運んできたハーシェが、黒い布を首にかけてくる。

「謁見用のものです。略式ですが」

「ありがとう」

 広げてみると細かい刺繍の入った細身のストールだった。



「レーヘン、いいわよ」

 ハーシェが別室に移動して、合図をするとまず青嶺国からの使者がレーヘンに案内されながら王の間に入ってくる。


 レーヘンが王座の傍に待機すると、私は王座からある程度距離をおいて静かに佇むグリフォンを見た。

『改めまして。くろやみ国の女王よ、我はソル。青嶺国の精霊の使いで参った。どうかお見知りおきを』

 そう言うとソルは頭をゆっくりと下げた。動きに合わせて首の毛並みがつやりと光る。

「ようこそ青嶺国の使者ソル、アナタが来るのは精霊達から聞いています。資料を受け取りに来たのでしょう」

『そうです』

「渡す形式は記憶ブロックと紙とを用意してあります。アナタが運ぶにはどちらの形式がいいかしら?」

『記憶ブロックで』


 王座の脇に置いてある箱からレーヘンが光沢のある黒い記憶ブロックを一つ取り出し、ソルの額の石の前にかざす。ソルは目を閉じた。

『くろやみ国の精霊の証紋を確認した』

「この中に会場の情報が入っています。各国に仕える特級精霊の証紋で見ることが出来るようになりますから、皆さんにそう伝えてください」

『了解した』

 ベルトの付いた鞄に記憶ブロックを入れると、レーヘンはそれをソルの首にかけ、金具で固定した。

 これで使者の用事は済んだわね。付き添いの人、大丈夫かしら?







 目覚めると箱の中だった。

 薄暗い、身動きできない狭さ。低い振動音も聞こえ、ジェスルの意識は状況を確認するために急速に覚醒した。

 まるで棺桶に入れられているかのようだと、思った瞬間手足に“加速“と“強化”の法術をまとい目の前に迫る天井板を叩き、蹴る。何度か繰り返すと箱は壊れ、空気の抜ける音と共に蓋が外れた。

 這いずり出てみると箱の外は闇だった。照明が全て落ち、何かの光が周囲でまたたき、箱が開いたことを知らせているらしい甲高い音が響きわたっている。


「なんだここは」

 攫われるようにして青嶺国から海上へ飛び出した後の記憶は無かった。国獣であるグリフォンに乱暴するわけにもいかず、されるがままだった。

「元気がよろしいようですね」

 声に振り向くと、一気に周囲が明るくなった。

「うわっ、なんだ一体」

 眩しさに思わず目を閉じる。

「ようこそ、くろやみ国へ。ワタクシはこの国の精霊ベウォルクトです」

 すぐ傍で聞こえる声にジェスルは身構えるが、まだ目が慣れずまぶたを開くことが出来ない。

「せいれい……なのか?」

 こじ開けるように無理やり目を開くと、顔を布で包んだ人の形をした精霊が立っていた。







「次は黒堤組ね。レーヘン、お願い」

「はい」

 レーヘンに誘導されながら誘導してソルと入れ替わるようにして黒堤組が王の間に入ってくる。

「天井、高っ!」

「見事なもんだな、こりゃ」

 カラノス達が王の間を見渡しながらちょっと驚いている。さすがにこういった部屋は海賊たちの船にもないみたいね。

「おい、さっきの話忘れんなよ」

『ああ。我はあくまでアクシャム様の使いだ。お前のことは気にしない』

 すれ違う瞬間、カラノスとソルが小声でそんな会話をしているのが王座に座る私の耳に聞こえてきた。どうも、王の間経由で声を拾ってるみたい。

 便利ね。今はあんまり有効活用できてないけど。


「ファムさま、付き添い人が起きたそうです」

 レーヘンが小声で伝えてくる。

「わかったわ。こちらに案内してちょうだい」

 正面を向いたままそう返事をすると、レーヘンは珍しく返事を濁す。

「それがその、すでにこちらに向かっているのですが少々……」

 どうしたのかしら?



「アンタこの国のお偉いさんか? 聞きたいことがある」

 案内されてきたはずのジェスルさんは、ベウォルクトを盾にしていた。

「ちゃんと答えてくれないとコイツの首が飛ぶぜ」

 腰の剣を抜き、ベウォルクトの首に当てる。

 なんてこと!


「やめなさい!」

 あまりの出来事に思わず叫び声が出た。

「お客さんに手荒な真似しちゃ駄目! ベウォルクト!」

 私の声で闇の精霊の動きが止まる。

「何? げっ!」

 一瞬不思議そうな顔をしたジェスル青年は背後を振り向き、驚きの声を上げる。そこには銀色の太い金属製のワイヤーの束のようなものがうごめいていて、今にも驚いている青嶺国の青年に襲いかかろうとしていた。銀のワイヤーはたどっていくと首に剣をあてられ直立しているベウォルクトの左の袖口から出ている。


「せっかく正当防衛が成り立つ場面ですのに」

 いつの間にか私をかばうようにして前に出ていたレーヘンが表情を変えずに目だけ細めてこちらを見る。こちらも右手が細長い刃物のように変化していて、すぐにでも斬りかかれるように身構えている。

「せっかく実験体に使える口実ができましたのに」

 ベウォルクト、そこは残念そうな声を出さないでほしいわ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番外編・登場人物紹介





ランキングに参加しています。
小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=847013892&s


未經許可請勿轉載
Do not use my text without my permission.
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ