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くろやみ国の女王  作者: やまく
第一章 国づくり
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地の果てと曇り空 1

 

 

 

 銀色の精霊は、焼け出された私と私の荷物を抱えて建物の屋根の上をひた走っていた。

 なんでもない時にはこの栗鼠のようにしなやかで、すばやい動きは楽しめたかもしれないけれど、今はいつ傷み止めが切れるかドキドキしながら大人しくしていた。



「これ、どこに向かっているの?」

「街の外です。そこに転移門を設置しました」

 昨日いなかったのはそれか……

「じゃあちょっと寝るわね……その門というのに着いたら起こしてちょうだい」

「はい、ファムさま」



 一度、街の外壁付近で異様に空高く飛び上がった気がするけど、眠くて覚えていないわ。

「ファムさま、着きました。転移門の前です」

 目を開けると、丘の上だった。

 私が寝ているあいだに銀色のが応急手当をしてくれたらしく、焼けただれた私の右足と右腕は包帯がきっちりと巻かれていた。痛みもかゆみも感じないけれど、感覚もない。右腕は動かない。

 立ち上がって周りを見ると、さっきまでいた街はおろか、街を含めた都市全体が見渡せる場所だった。私が育った区画も見える。あ、うちの火事の煙も…

 しばらく風に吹かれながらその光景を目に焼き付ける。


「さあ、私を連れていきなさい」

 もうどこへだって行ってやるわよ。







 ファムと銀色の精霊が街から消えて半日後。

 ファムが会った中年男性、れっきとした貴族でナールデン公爵というのだが、彼は今汗をかきながら情報を集めていた。

「む、娘の生死はどうなったんだ? 病院には運ばれてないんだろう?」

「部下達の意識が戻らない事には……。しかし火災現場に大量の血痕がみつかったそうで、おそらくは」

「ううむ、ひとまず失踪扱いにしておくか……あの方が気付いて調べ始めるまえに書類は全て燃やしておくように!」

「それは興味深い、なんの書類ですか?」

「それはおまえ……ひっ……あなた様は」

「あなたを拘束します。全て教えていただきますよ」

 近衛兵達がナールデン公爵を取り囲んだ。

「連れて行きなさい。そうです、次は軍警察へ向かいます。すぐにです」







 丘のふもとには小さなほこらがあった。旅人がちょっと拝むかする程度の、白い岩を組んだ粗野なものだった。

「これは妖精のほこらなんです。これの裏に転移門を作りました」

「妖精って……? アンタ知り合いなの?」

「はい。昨日話しをつけました。場所をお借りしているだけですよ」

 妖精は見た事ないのよね。いつか会ってみたいわ。


 ほこらの裏の地面には、手のひら大の白いすべすべした石が埋められていて、表面には複雑な文様が彫刻されていた。

 銀色はしゃがんで文様の一部をさらさらと指でなぞると、立ち上がって私と荷物を両腕に抱え上げた。

「ではしばらく目を閉じていて下さい。転移に慣れないうちはこれをかじっていて下さい。いきます」

 銀色の精霊が差し出して来たものは濃い緑色をした葉っぱだった。慌てて目を閉じてくわえてみる。

「まっず! にっがいし辛いし、土みたいだし、なによこれ!」


「着きました」

「えっ」

 目を開けるとそこは地の果てだった。

 見渡す限りかさついた大地。枯れているのかしおれているのか分からない草がまばらに生えている。空は土気色した雲に覆われ、青みがかった風が吹いている。灰色の世界だった。

「あ、あっという間なのね。さっきの葉っぱは何だったの?」

「はい。先ほどの葉を噛むことによって、人間の意識を集中させ、転移の失敗率を減らすことができます」

 不味さに意識を集中させるって、たしかにすっごい味だったけど……誰が考えついたのかしら。腹立つわね。


「それではファムさま、まずは体の治療をしましょう」

 そう言って銀色の精霊は私と荷物を両腕に抱えたまますたすたと歩いて行った。

 行く先に視線を巡らせると、巨大な鉄鉱石の固まりのようなものがどーんと建っていた。

「我々が向かっているのがファムさまに座して頂く王城です」

「優雅さのかけらも無い無骨な建物ね。広そうなのは楽しみだけど」

「城の中には他の国では失われた過去の文明の遺物や、施設が沢山保管されています。それであれだけの大きさがあるのです。地上百四十二階と、地下にも五百階層ほどあります」

「すごいのね……ホントここどこよ……」



 黒くて巨大な石で組まれた城の入り口らしき場所に到着すると、新たな精霊が立っていた。

 背格好は私を連れて来たのと似ていたけれど、ボロ布ではない、模様のない綺麗な布をたくさん使った、全身を覆うような変わった形の服を来ていた。顔まで布がぐるぐる巻かれている。全体的にくすんだ灰と銀色をした姿だった。

「やあ、おかえり。見事連れて来てくれたね。そして国主さま、ようこそ」

「ただいま戻りました」

「どうもごきげんよう、さあ細かい挨拶は後回しにして、さっさと私の怪我を治療してくれないかしら」

「これは……どうされたのかな」

 布で巻かれた顔でも一応見えているらしく、銀色の精霊その二は私の様子に驚いていた。

 そういえば一度も鏡を見ていなかったわ。私の顔、どんな事になっているのかしら。

「出発直前に火災事故に遭われました。ぼろぼろになってしまったので体組織を崩さないよう、包帯で固定しています。半身の痛覚も止めています」

「それは大変だ。すぐ実験室……いやいや、治療室へ行きましょう」

「痛覚を止めての転移門の影響も確かめてみましょう」

「そうだね、せっかくだから記録を取って検証してみよう」

 こいつら……ちゃんと治療してくれるのか不安になって来た……。


そして序幕のシーンにつながるのです。



2018/02/21:描写部分など少し加筆。

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