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くろやみ国の女王  作者: やまく
第四章 王子、噂、船出
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青と翼と 2

 

 

 

「ここまで成長されているとは」

 ベウォルクトが少し驚いた声でつぶやく。

「やりすぎちゃったかも。これ加減が難しいのね」

 海上にいる未確認飛行物体が私たちがいる港に辿りつくよう、突風を起こして誘導してみたけれど、風力が強かったみたいで空中で何度かきりもみ回転して、最後はふらつきながら港に降りたった。

 ……なんとなくで出来ちゃっていいものなのかしら、こういう事って。


「お城と私が繋がっているからできたみたいだけど、これって法術の一種なのかしら?」

「今のは純粋に海面温度と上空の温度を変動させただけですね。これは空気中の分子を操作しただけですから、法術が成立するよりもっと前の時代の原始的な技術ですよ」

 レーヘンが空を見上げながら言う。

 うん、戻ってから細かい説明をお願いするわ。

「まずはお客さんのお相手が先ね」

 そう言って、私は港に降り立った存在を見た。


「ベウォルクト、この世には羽毛の生えた竜がいるのね!」

「ファムさま、あれはグリフォンという青嶺国特産の生き物ですよ」

 やってきたのはゲオルギと同じくらいの大きさで、やや細身のグリフォンという生き物だった。

 頭の先から上半身と羽根の付け根まで薄青い羽毛で覆われていて、下半身はそれよりもやや濃い青で、どうも普通の動物と同じような毛みたい。尻尾は細く長くて、先っぽにふさふさの毛がはえている。前足の爪はかなり鋭くって、後ろ足はシシと似た形をしている。

 大きくて曲がったくちばしに、鋭い目付きは猛禽類に良く似ていて、そして眉間のやや上の額には宝石のように輝く拳ほどの大きさの石が埋まっていた。

「へぇー。あれがグリフォンなのね」

 輝くような艶のある毛並みに包まれたすっきりとした立ち姿は、青嶺国の絵本で見たことのある姿よりずっと優雅に見えるわ。

 厚ぼったい灰色の雲に覆われた空に同じく灰色の海を背にして、港の暗い色した石畳の上に立つグリフォンは、その青く輝く姿と背景の暗さとが似合わなさ過ぎて存在が浮いて見える。

 グリフォンは降り立った場所から動かず、鋭い目付きでじっとこちらを見ている。口に何かを咥えているわね

「ねえ、あれって……人かしら?」

「そのようです。先程から動きませんが」


「げっ」

 声をした方を振り返ると、カラノス達が待合室の建物の扉を半分ほどあけて顔を出していた。何故かカラノスが引きつった顔をしている。

『黒堤組か、こんなところで何をしている』

 不思議な響きの声がした。

「え、今、あのグリフォンが喋ったの?」


『失礼する。ここはくろやみ国だろうか』

 今度は私の方に声をかけてきた。じっとこちらを見つめながら、口元を動かさずに。どこから喋っているのかしら?

「え、ええ、そうよ」

『我は青嶺国の精霊、アクシャム様からの使いで来た。くろやみ国の代表者との面会を希望する』

「代表者は私よ。ところでその咥えている人、大丈夫なの?」

『ああ』

 グリフォンは今気がついたとばかりにくちばしをひらき、ぐったりしたままの人を地面へ落とす。前足でつつくが、反応はない。


『すまないが、こいつの世話をお願いしたい』

「ええ。面会はこの人が目覚めてからの方がいいかしら」

 私は精霊を連れてゆっくりとグリフォン達に近づきながら尋ねた。

『こいつはただの付き添いだ。使者は我だ』

「わかったわ。使者さん、お名前はなんというのかしら」

 そばまで来て見上げると、澄んだ緑色の瞳がじっと見下ろしてきた。

『我の名はソルだ』

「ソルね。ようこそくろやみ国へ。私はこの国の女王のファム。私の後ろにいるのがこの国の精霊のベウォルクトとレーヘンよ。ええっと付き添いの人、大丈夫?」

 声をかけながら観察すると、青と紺色のきっちりとした服をまとった青年だった。青い髪を後ろでひとまとめにして、腰には剣が差してある。

「うう……」

 返事のようなうめき声のようなものが聞こえてきたけれど、暗い表情で目を閉じたまま動かない。

「……治療室に連れていったほうが良さそうね」

『ちなみにこいつの名はジェスルだ』



「青嶺国の精霊の“証紋”を確認しました」

 いつの間にかソルの額の石に手をかざしていたレーヘンが言った。つまり、正式な国からの使者ということね。

「ベウォルクト、王の間の修理はもう完了しているのよね」

「ええ」

 この人を治療室に運ばなくちゃいけないし、使者との話もある。

「あなた達も、お城に来る? 取引の品物の受け渡しもあるし」

 もう全部まとめて相手をしようと思って、そう黒堤組に声をかけた。


 前回彼らが来た時はお城の機能が落ちていていたから用心のため海賊達を案内しなかったけれど、もう取引の契約をしたし、今回は万一おかしな動きをしても対処できるわ。

「おおよ。面白そうだしな。ついでにそいつも運んでやらあ」

 箱を担いで意気揚々とカラノス達が待合室から出てきた。

「それ、どうかしたの? さっきまで怪我してなかったじゃない」

 現れたカラノスは何故か黒い眼帯をつけて右目を隠していた。

「カッコイイだろ?」

 指摘するとにやりと笑う。

「物騒な感じが倍増するわね」

 事情がありそうだし、あんまり踏み込みたくない相手だからそれ以上は追求しないことにした。

「組頭、本当に大丈夫か?」

 黒堤組の精霊のコトヒトが心配そうな顔をしている。

「別にお城に罠なんてしかけてないわよ」

「いや、城の事というか……」

 珍しく言葉を濁し、コトヒトはちらりとソル達を見る。他の黒堤組の仲間の何人かも同じような顔つきをしている。

 何かあるのかしら。

「あっちは俺個人の事情だ。オマエ達は気にするな」

 そう言うとカラノスは安心させるように笑い、傍らのシシの背中を撫でた。



 港から歩いて数分の駅からグリフォン一名と付き添いの青年、カラノス含めた黒堤組の人たちを列車に乗せて、一気に城の中へ移動する。

 ソルは何も言わず案内されるままで、海賊たちも特に驚く様子がなかった。なんでも、彼らの母船にも同じような移動手段があるらしいので、見慣れているんだそうよ。

「あとであなた達のオジ貴さんが眠っている場所にも案内するわ」

「そいつはありがたい」


 まったく、慌ただしい誕生日になっちゃったわね。


毎話あとがきは活動報告に書いてます。

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