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くろやみ国の女王  作者: やまく
第四章 王子、噂、船出
48/120

青と翼と 1

 

 

 

「ふ〜ふ〜ふ〜ん、ふふーん」

「どうしたんです、ファムさま。朝から粉だらけになって。新しい美容法かなにかですか?」

「お菓子焼いてるのよ! 調理室で小麦粉を練ってるんだから察しなさいよ。きいてレーヘン。今日はね、私の二十歳の誕生日なのよ!」

 ちゃんと白箔国と、この国の暦表を確認したもの。この国の暦といっても精霊の主観でふわっとしたものだったから大陸共通暦で補ったものだけど。

「私の生まれた国だと、五年ごとに大きなお祝いをするの。これはそのための特別なケーキなのよ」

 ちなみに二十歳すぎは嫁き遅……なんでもないわ。この国ではそんなもの関係ない。自分で自分の誕生日ケーキを焼くのも、この国ではまったく問題ないんだから! とっておきの、素敵なケーキを作るわ!

「ちなみに晩ご飯はライナとシメオンが作ってくれるそうよ。折角だからアナタもなにか作って祝ってみない?」

「うーん、ではこの間上手く出来たパンケーキを焼きましょうか」

 あれ、三十枚失敗してようやく一枚成功しただけじゃない。

「多分、もう失敗しませんよ」

「気持ちは嬉しいんだけど、私、これからスポンジケーキを焼くから今度にしてくれないかしら」

「パンケーキはスポンジケーキの付け合せになりませんか?」

「同じような味だからならないわよ」

 どうしてそこで心底不思議そうな顔をするのかしら。

「お菓子って難しいんですね」

 私は精霊に味覚を教える事のほうが難しいと思うんだけれど。


「今夜は試作のお酒も出して、皆で楽しく過ごしたいわ」



 ところがそうもいかなくなってしまった。

 スポンジケーキが焼きあがるのを待ちながらケーキを飾るクリームや果物や砂糖漬けの花を吟味していたら、お城から近海に接近する船があると知らせが来て(勝手に頭の中に映像が浮かんできた)、詳しく確認したらこの間来た海賊の黒堤組の小型船だった。



 前回と同じように港で腕組みをして、私は船から降りてくる黒堤組の代表マヴロを睨む。

「もう少し後か、早い時間帯に来てくれると助かるのだけど」

 もうこれでケーキは夕食に間に合わなくなっちゃったわ。

「俺達は商売相手だぞ。時々挨拶しに来たっていいだろ。時間の都合は波に聞いてくれ」

 形の良い眉を上げ、風に揺れる黒髪をかきあげながらカラノスは言う。

 相変わらず態度が大きいわね。それに、私が何を言っても見上げた先の黒と青の瞳は笑っている。

「別に挨拶だけならコトヒトとシシだけ寄越してくれてもいいのよ。ねぇコトヒト、シシ」

「こんにちはファム女王。そう言っていただけると、組頭には悪いですが嬉しいですね」

「ガウ」

 私がいつものように傍に精霊を待機させているからか、前回と違ってコトヒトとシシはカラノスが船を降りる時から姿を現している。白灰色の髪をした若者姿のコトヒトはにこやかに、艶のある灰色毛の長い四足の獣姿のシシはやや警戒しながら挨拶をしてくれた。

「シシはいつもとっても素敵な毛並みね」

 あのふさふさした体毛を触りたいけれど、私が近寄るとシシに後ずさりされちゃうのよね。

「そいつは俺が寂しい。わざわざあんたに会いに来たんだぜ? それにシシは用心深い上に忠誠心も篤いからな。懐いて欲しいなら俺に近づくのが手っ取り早いぞ」

「うう」

 それは避けたいんだけれど。

「まあいい。今回の商品はこれとそっちの箱だ」

 そう言ってカラノスは肩に抱えたずっしりと重そうな黒い箱と、三人の黒尽くめの男達が船から積み降ろしている大きな箱を指さす。

「依頼通り収集した情報と、あっちの箱には他国の書籍が入っている」

「ありがとう。こちらもあなた達と交渉できそうなものをリストアップしているから、確認してちょうだい。それから取引といきましょう」

「ああ」







「荷物はちゃんと持った? 忘れ物はない? ハンカチ持った? ほら、襟が曲がってるじゃないの」

「……なあ、……ナンデオレナンデスカ?」

「あんたあの子の事応援したいんでしょ、ならしゃんとしなさい!」

「これって普通は精霊がやるんだろ? 俺他に仕事が……ナンデ俺」

「滅多にできない経験じゃないの。何事も経験が大事よ? あと夜の冷えに気をつけなさい。お腹壊しやすいんだから」

『時間がない。急ぐぞ』

「あーもうわかったからって、ちゃんと役目は果たしますって、うわ!」

「向こうの……と仲良くね。くれぐれも怒らせちゃダメよ? 命に関わるから」

「ちょ、待てえええええ!」







「ベウォルクト、詳しい確認をお願い」

「……我が国のものではありませんね」

 一瞬耳を傾けるような仕草をしたベウォルクトが答える。落ち着いている様子だから、危険な物ではないみたいね。

「どうした」

 カラノスが私たちの様子に気付いて声をかけてきた。

 港の傍に建てた待合室と会議室が一緒になった施設で黒堤組と取引内容の確認をしていると、海賊が来たときとは違う、もっと別の、警報のようなものがお城から伝わってきた。何かわからないものがうちの領域内に出現したらしい。

 というか、私は外にいるのに普通にお城と連絡が取れちゃって……まあとにかく、何が来たか調べないと!


 黒堤組はコトヒトや他の仲間たち含めて皆不思議そうな、必要とあれば警戒状態に入りそうな様子をしているから、今のところは無関係とみていいわね。

「取引中にごめんなさい、ちょっと近海に不審な物が出てきたらしくって……これ、空を飛んでるわね」

 サヴァとゲオルギは今城内にいるから、別よね。

「まもなくここから目視できる領域に入りますね。どうします? ファムさま」

 レーヘンが私の傍らで待機しながら言う。

「一応お城の皆には待機していてと伝えてちょうだい。んー、こっちに誘導できそうね」

 なんだかそういった事ができそうだわ。

「わかりました。無理はしないでくださいね」


24日、タイトルを「青と翼」から「青と翼と」に変えました。

2018/02/25:暦について一文追加。

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