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くろやみ国の女王  作者: やまく
第三章 海からの客、くろの騎士、準備
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くろやみ国と準備 1

 

 

 

 ハーシェとレーヘンが闘技場のある街から転移門を使って帰って来たのは夕方になる前で、ハーシェは疲れたらしくてウサギの姿でレーヘンに抱えられていた。

 けれど王の間でレーヘンがひと通りの報告をしている間に回復して、初めてのおつかいの体験談を聞かせてくれた。

「ちゃんと外の方達とお話できましたの。しっかりとおつかい任務も果たせましたわ」

「ワタシだって、ちゃんと屋台のお土産を買ってきましたよ」

 どうして生まれたての子と張り合うのよレーヘン……。

 精霊と影霊の話を聞いているうちに日が暮れて、ようやくサヴァとゲオルギが帰って来た。


「ただいま戻りました」

「お疲れ様、サヴァ」

 試作の黒い鎧は見事に大破していて、パーツはかろうじて繋がっているけれど、もう機能はしていないみたい。ゲオルギから降りる時にも細かな破片がぽろぽろと落ちていた。

「大陸の騎士達って強いのね」

「その、大会中は右肩と右腕の亀裂以外はそう破損していないのですが、脱出時にやっかいな人物とやりあって、その時にだいぶやられました」

 サヴァは疲れた様子でそう言い、レーヘンに手伝ってもらいながら崩れかけた鎧を脱ぐ。

 槍を見てみると、こちらは細かな傷が入っているだけだった。

「こっちはそんなにひどい事にはなっていないみたいね」

「修理は必要ないかもしれませんが、今回のデータからさらにサヴァさんに使いやすいものに改良することができます」

 ベウォルクトが槍を灰色の布で包みながら言う。


「兄さん! 目が……!」

 驚く声にサヴァ達の方を見ると、兄の顔をライナが両頬を掴んで覗き込んでいた。サヴァは律儀に背を屈めてライナにされるがままになっている。

「どうしたの?」

 見ると、サヴァの右目が竜のような縦線の瞳孔になっており、数回瞬きをすると両目とも人間のものになった。瞳の色は前より少々明るい緑色になっている。

「サヴァ兄ちゃん、身体大丈夫?」

 シメオンがサヴァの腕を持ちあげて傷がないか調べる。

「なんともないな。むしろ、以前よりも身体が軽く調子が良いくらいだ」

「鎧で身体を覆っている間に命脈と竜脈の混ざり具合が調整できたようですね」

「確かに、腕の模様も左右対称になっている気がする」

 レーヘンの言葉にあまり自覚がないのか、シメオンに身体を調べられながらサヴァは答えた。


 黒いアンダースーツだけになったサヴァがシャワーを浴びに行き、ベウォルクトがついでに体調を調べるとついて行った。残ったライナとシメオンが外された鎧の破片を拾って何段もの浅い箱に丁寧に並べている。

「ゲオルギも慣れない身体でよく頑張ったわね」

 全速力で飛び続けたのでまだ荒い息をしているゲオルギの黒い肌を撫でて労る。元々灰色がかった緑色をしていたゲオルギの身体は、くろやみ国にいるうちに黒くなってしまった。この国の気脈、というよりも王の間で私が瘴気から変換した気脈を吸収しちゃったらしい。

 竜の個体判別は色と尻尾の形を元に行うらしいから、これでもう元々どこの国に所属していた竜なのか判別できないそうよ。そのおかげで今回ゲオルギもサヴァについて他国へ出かけることができた。

「竜って本当に不思議なのね……」

「竜脈の性質がそういった変質的なものなんですよ」

 ゲオルギのために水気のある瓜を持ってきたレーヘンが言った。




 黒のシャツとゆったりとした灰色のズボンに着替えてきたサヴァを囲んで、活躍の話をみんなでレーヘンのお土産の屋台の食べ物を食べながら聞くことにした。

 サヴァのかなりざっくりした話し方に加えて、時々レーヘンとハーシェが詳しい説明を加えたり、合いの手を入れる。各国の騎士を打ち倒してサヴァが大会を勝ち進んでいく様子をライナは目を輝かせて聴いていた。

「兄さんがちゃんと強いって証明できて、嬉しい」

「あの大会は法術も精霊術も使えないから、俺に有利だっただけだ。実戦ではどうなるかわからないぞ」

 ライナの隣に座るサヴァはそう言うと、妹の頭を手のひらで軽く撫でた。

「それで、すみません女王。脱出に全力をかけたので賞金は……」

「そうなの……」

「ファムさま、賞金は持って帰れませんでしたが、前日に出店で稼いだ分があります。元気を出して下さい。はい、暖め直した焼きマシュマロですよ」

「うん……そうね」

 微笑むレーヘンからピンク色の焼きマシュマロを受け取ってほおばる。手のひら大のビスケットに挟まれたとろける甘いマシュマロは、いつもは大好きなんだけれど、今はあんまり美味しく感じないわ……

「レーヘンさん、ファムさまはお金で落ち込んでるんじゃないんです。鳥の精霊が消されてからなんです」

 解説ありがとうライナ。そのとうりよ


 闘技場周辺で市場が開かれていると聞いて、うちの果物の中でも大陸で良く見かけるものと、作り置きのドライフルーツを竜のゲオルギに運んでもらって売ることにした。でも無口なサヴァとすっとぼけたレーヘンだけで売るのはどうにも心配だったので、精霊術が出来るシメオンに作ってもらった黒い小鳥型の人工精霊に、影霊の要領で私と繋がる簡単な連絡機能をつけて、レーヘン達に連れて行ってもらう事にした。

 おかげで露天商で果物を売る際に、私の花屋の経験から色々アドバイス出来たのだけれど……黒い小鳥は結局ハーシェが捕まりそうになった時の騒動で金の小鳥に消されちゃった。

 金の小鳥。

 あれ、ヴィルの人工精霊だわ。よく私との連絡用に手紙を運んでくれたから良く覚えているもの。

「攻撃されるなんて、何か行き違いでも起きているのかしら……」

 レーヘンが以前ヴィルと戦闘になった時も、防戦だけかと思ったらこちらからもかなり攻撃したって言うし(これについてはさっきたっぷりレーヘンを叱った)、もしかしてうちの国ってヴィルに敵認定されてるのかも。

「ううう、どうしよう」

 泣き出したい気持ちになりながら甘ったるいマシュマロをもうひとくち食べる。

「ファムさま、元気を出してください」

 心配そうな顔でライナが私のグラスに冷やしたザクロジュースを注いでくれた。

「うん、ありがとうライナ」



「ファムさま」

「なぁに、ベウォルクト」

 サヴァの鎧を運び終えたベウォルクトが王の間に戻ってきて、ゆっくりとした足取りで私に近づいてきた。

「先日コトヒトが運んで来た回覧板の内容についてお話したいのですが」

「ああ、国家ランキングの話ですね。ようやく完成しましたか」

 レーヘンが納得した顔で言う。

「国家? ランキング?」

 一体どんな話なのかしら。

「何名かの精霊達で趣味の一環として作っているものなのですが、国家の様々な項目でランキングを作っているんです。回覧板でデータを収集して、先日そちらの最新版が完成しました」

「それって、うちは載ってないんじゃないの?」

 何しろ建国したばかりだし、国民も十名もいないもの。ちゃんとした国家扱いさえしてもらえるのか怪しいものだわ。

「いえ、制作担当の中にワタクシもいますので、最新情報が反映されています」

 レーヘンがベウォルクトが説明を始めるのに合わせて王の間の空間に沢山の画像を映し出す。様々な項目の元に、国の名前が並んでいる。

「子供の平均寿命に睡眠時間に男女の人口比、平均的な親指の長さに、赤ちゃんの平均昼寝時間……? ずいぶん色々あるのね。なにこれ、夕食の献立に悩んでいる時間? これ本当に測ったの?」

「まあ各国の精霊が好きに調べているものなので、項目内容はかなりバラバラなんですよ。大まかな内容のものや細かいのものを合わせると一万項目くらいあります」

 今回自分は参加していないと言うレーヘンが指先で空中に浮かぶ画面を整理して、いくつかの画面を前面に出した。

「それで、我がくろやみ国なのですが、技術力の総合と開発力が他国を大きく引き離して最高値になりました」

「な……げほっ!」

 さらりとベウォルトが言うものだから思わずマシュマロを吹いちゃった。気管支にビスケットの破片が入って咳が止まらないわ!



レーヘンが露天商で売る〜のあたりの話を番外編「銀色の精霊、商売する」に載せました。

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