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くろやみ国の女王  作者: やまく
第三章 海からの客、くろの騎士、準備
42/120

くろの騎士と闘技場 5

 

 

 

「ここを出れば闘技場の外だからな。中と違って術の制限がないからアンタらの拘束くらいなら訳ないぜ? それくらいの準備はしてある」

 衛士達とともに追って来た青い髪の男が言う。

 サヴァは強行突破するために身構えようとしたが、背後から威圧感を感じ、振り返った。


「そいつらを逃がせ」

 声を発したのは獣のように荒々しい紅の髪をした大男だった。乱れに乱れた髪で目元はおろか顔つきまで隠れて見えないが、赤を基調とした風格のある服装から赤麗国の身分ある人物なのだと判断出来る。赤麗国軍の紋章が入っているので、おそらく軍籍で騎士なのだろう。だが男の言葉に衛士達が動かないので、サヴァは警戒体勢を解かずに状況をうかがった。

「聞こえなかったのか。そいつらを見逃せと言っている」

「将軍。一応この場では指揮権は大空騎士団にあります。どいてくれませんか」

「エシル団長」

 紅の髪の大男の隣にはサヴァも見知った大空騎士団長がいた。

「という訳なので、全衛士に通達を。彼らを追うな」

「おいエシル! どういうつもりだ!」

 青い髪の青年が驚いて叫ぶ。

「もう一度言うがこの場では大空騎士団が全ての判断を下します」

 長い両腕をゆったりとひろげ、良く通る声を響かせ、堂々とエシル団長が言った。

「白箔の依頼だろうがなんだろうが知らねえ。決勝で俺の相手が消えるのが一番困る」

 赤よりも濃く鮮やかな紅色をした髪を振り、大男は言う。

「まさか……あんた赤麗国の紅濫こうらん将軍か? 前回優勝者の」

 目を見開いて青い髪の青年は言う。

「おう、青嶺の坊主か。お前とは初めて会うな。親父殿は元気にしているか?」

 紅濫将軍は乱れた髪で表情はよく見えないが笑っているようだ。


「普段は所属先の意向に縛られる我々騎士が、心置きなく闘える場を設けるというのがこの大会のそもそもの主旨。つまり、この場で一番優先されるのは協闘大会の決勝の遂行。このまま“くろの騎士”を捕らえ決勝が無くなってしまえば、今大会に参加した全ての騎士だけでなく、最愛のユリアからも恨まれてしまう」

 苦悩の表情を作りエシル団長は言う。

「お前はいつだって副団長命なんだな」

「ええもちろん」

 青年から投げかけられた呆れ気味の言葉にエシル団長は力強い頷きで返した。

「それに、不完全燃焼は健康に良くありません」

「不完全燃焼はまずいよな。思わず手当たり次第に殺したくなるもんな」

 エシル団長の言葉に腕組みをしてうんうんと頷く紅濫将軍に、周囲の一般衛士たちは一歩距離を置いた。

「という訳で、そこのお二人、どうぞ逃げてください」

「では遠慮なく」

 黒髪の青年はエシル団長の言葉に応じて素早くハーシェを抱える。彼らを取り囲んでいた衛士達はいつの間にか昏倒していた。

 青年は目線だけでサヴァに挨拶をすると、掻き消えるようにしていなくなった。


 エシル団長は倒れた一人の元へ行き、首筋に触れた。脈はあり、死んではおらず外傷も無く、ただ意識が無い状態だった。

「流石ですね。良い仕事だ。特級あたりでしょうか」


 サヴァはこの隙に自分も去ろうかと考えていたが、エシル団長が周囲の衛士に指示を出しながらもこちらの動向を探っているので下手に動けずにいた。

「おい、“くろの騎士”」

 思いがけず傍で声をかけられ、見上げると紅濫将軍が紅色の髪の隙間から、橙色の瞳で見つめてきていた。

「お前は俺と闘え。それでこの貸し借りは無しだ」

 サヴァは相手の言葉にうなずくと、かぶとの顎に軽く指をかけて通信機能を立ち上げた。

「聴こえるか? 俺は後から戻る」

『わかりました。闘技場、さらに包囲されていますから帰りは気をつけて下さいね』

 連絡を待っていたらしく間髪入れず精霊からの返事があった。

「ああ。なんとかしてみる」

『それとくれぐれも設置した転移門の場所を悟られないようにしてください。バレそうでしたら破壊して構いません。それではくろやみ国でお待ちしています』







「ほんと騎士ってのは、どこの奴も我が道を突き進んでるよな……一応今回の責任者は俺だってのに、都合の良い所だけ意見しやがって」

 運営室の椅子に力なく座り、ジェスルはぼやいた。

「我々大空が決定権を持つのは大会終了時まで。その後はまた各国の意見に従いますよ」

 エシル団長が腕を組んで壁にもたれ掛かりながら言った。

「わかったよ。あーあ、この結果、あいつにどう報告すりゃ良いんだ」

 青い髪をかき乱すジェスルに、ルトガーが申し訳なさそうに近づく。

「色々すんませんね」

「気にするな。お前はこのまま赤麗国に向かって例の銀髪の二人組を追え。こっちの報告は俺がヴィルヘルムスに届けておく」

「お手数かけます。ジェスル王子」

「いいさ。あいつには今まで山のように借りを作ってるしな。友人のよしみってやつだ」

 青嶺国のジェスル王子はそう言い、伸びをした。

「さあて、決勝が終われば“くろの騎士”の確保だ。今度こそ逃がすなよ!」






 紅濫将軍は主審に手元に残った線香の全てを使う事を宣言した。

「この線香は残せば残すほど賞金が増えるらしいが、俺は存分にこの闘いを楽しみたい。まあ金と比べて望んだ相手と闘える時間を惜しむなんざ、騎士としちゃあとんだ笑われ者になるだろうがな」

 サヴァも残った線香全てを使用する事を主審に告げる。これでさらに闘える時間が増えた。この鎧が持つかどうか解らないが、出場目的は達成出来そうだった。

 精霊達がくろやみ国にたどり着くまでの時間稼ぎにもなるだろう。決勝が終了すればまた追っ手が動き出すに違いない。

「『竜槍』はこの世で闘いたいが叶いそうにない相手の一人だった。他の二人は運営だのなんだので今回は出られないと言いやがったが、こうして叶わなかった相手と勝負出来るなら、わざわざ遠出して参加したかいがあったわけだ」

「大陸に名を轟かせる武人にそう言われるとは、光栄だ」

 サヴァは槍を軽く振って握り具合を確認すると、わずかに腰を落として構えた。

 紅濫将軍は笑い、駆けた。


2018/02/24:少し加筆。

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