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くろやみ国の女王  作者: やまく
第三章 海からの客、くろの騎士、準備
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くろの騎士と闘技場 4

 

 

 

「すまんが、闇属性の精霊は問答無用で捕獲するよう依頼がでている。あんたが精霊なのか人間なのかいまいちわからんが、とりあえず連行されてくれ」

 中心に立つ青い髪の男が言った。彼と同じ制服を着た無言の男達に囲まれ、ハーシェは身構えた。

 影霊であることを知られてはならないとベウォルクトに言われている。どこかに連れて行かれる訳にはいかない。さらには創造主から受け継いだ記憶から制服を着た男達に殺されかけた事を思い出し、不安を感じて後ずさる。

 先ほどまで話しをしていた女性を探すと、こちらの状況を無視して窓の外を眺めていた。

「おっと、逃げないでくれよ」

 取り囲んでいた男の一人が素早くハーシェの腕を掴んだ。振りほどこうと腕を振るが、相手の手はびくともしない。

「暴れると拘束するぞ」

「は、離して」

 ハーシェが小さく叫んだ瞬間、男とハーシェの間に剣が突き刺さった。

「なにっ」

 男が思わず手を離した隙をついて、ハーシェは走った。






「敵襲か!?」

 ジェスルが剣が飛んで来た方向を見ると、開いた窓の外、かなり離れた会場の真ん中に小さく立つ“くろの騎士”からだった。

「牽制のつもりか…? おい、今のは競技違反になるのか?」

「試合中の不慮の事故でしょう。“くろの騎士”も手がすべることがあるようですね」

 眼鏡をかけなおし、ユリアは言う。

「思いっきり狙ってるだろうがこれ。かなり深く刺さってるぞ」

「暴投は暴投ですよ。ちょうど試合の勝敗もついたようです」

 見れば試合相手の男は会場の端に座り込んで、やはり驚いた顔でこちらを見ている。剣は男の物だったようだ。

「これで“くろの騎士”は決勝戦まで到達しましたね」

 ユリアは穏やかな表情で言った。


 “くろの騎士”がしばしこちらを見つめた後、早足で退場するのを見て、ジェスルは悟った。

「まずい、あいつも動き出したぞ」

 ジェスルは衛士に撤収の合図を出して移動を開始しながら、隣で涼しい顔をして歩くユリアを睨んだ。

「お前わざとあの女を逃がしたろ」

「私はただ彼に熱い視線を送っただけですよ」

「“くろの騎士”が気付くように強い殺気を込めただろうが」

「あの女性を追いますか?」

 ジェスルの言葉には応えず、ユリアは静かに言った。この調子になると彼女は融通が利かなくなる。舌打ちしたくなるのをこらえ、ジェスルは思考を切り替えた。

「ああ。手分けして闘技場内を探すぞ。外はいい。別のが待機しているからな」







 ハーシェは走りに走って階段を下り、裏門を目指してさらに走った。

 しかし出口付近にまた数名の人間がいるのを見て立ち止まる。

「どうしましょう…」

 どうすべきか迷っていると階段の上からざわめきが聴こえ、見上げると“くろの騎士”が降って来た。

 彼は数階分飛び降りたはずなのに柔らかく着地し、ハーシェを見る。

「無事か」

「はい」

「レーヘンがすぐ外で待っている。そこまでたどり着けば無事に帰れる」

 サヴァの言葉にハーシェは深くうなづき、二人はそのまま外へ向かって走り出した。ほとんどの人間は驚いて避けてくれたが、立ちふさがろうとする衛士はサヴァが槍で牽制して道をあけてくれた。

 走りながらハーシェが闇の精霊を探すと、裏門の向こう側で数人の男達と対峙しているようだった。

「あちらでも問題が起きているようですわね」



「よく知った術の気配がしたので彼が現れたのかと思いましたが、違いましたね」

 黒髪の青年は残念そうに言った。

「本人は今すんごく忙しいんでね。俺らが代理で動いてるの。まあ術は正真正銘あの人のなんだがね」

 真っ白い襟が特徴的な外套を着た男達が青年を取り囲むようにして立っており、その中で代表格らしき男が茶化した調子で言う。

「忙しいなら忙しいなりに余計な事をしないで欲しいのですが」

 そう言いながら青年は持っていた食べ物を肩から下げていた布袋に放り込み、両手を空けた。

「そう言うなって。あんただろ、白箔国で血のついた手紙を運んで、ヴィルヘルムス様を襲ったのって」

 男の言葉を聞いて上空を飛んでいた黒い小鳥が降下して青年を突っつきだした。

「…そうですが、何か?」

 小鳥の攻撃をものともせず、青年は答える。

「おまえさんはくろやみ国の者かい?」

「今回は“お忍び”ですので、お答え出来ません」

 青年は微笑んだ。


 黒い小鳥が一声鳴き、青年が裏門を見ると、ハーシェが飛び出して来る所だった。サヴァは衛士の足止めをして門の内側に残っている。


「おっと、待ちな」

 青年に向かって駆け寄ろうとするハーシェを白襟の外套を着た男が捕らえようとする。状況がよく解らず、戸惑っていたハーシェは男と目が合う。

「あんたは…」

 男はずれたショールの間からハーシェの顔を覗き込んだ。

「あの、あなたはどなたですか?」

 食いつくようにして顔を覗き込んでくる男に対して、不思議そうにハーシェは言った。

「俺はルトガー。白箔国の者だ。あんた、名前は?」

「私は…」

 ハーシェが答える前に、黒い小鳥がルトガーの視界を遮るように顔の前に飛び込んで来た。

「なんだ、この鳥は。精霊術か?」

 その時、どこからともなく現れた金の小鳥が黒い小鳥を襲った。鋭い足の爪で捕まえると地面へ押さえ込む。

 その隙にハーシェは青年の元まで走った。

「“おつかい”ご苦労様です」

「はい…」

 息を整えながらハーシェは言う。


 押さえ込まれた黒い小鳥は何度か羽ばたき、もがきながら苦しそうに一声鳴く。金の小鳥が強く爪を立てると、そのまま煙のように消えてしまった。

 青年の顔が曇った。

「ずいぶんと乱暴な」

 金の小鳥は地面から飛び立つと男の方にとまった。

「俺の主もだいぶ余裕がなくなってきてね。ずっと探し人が見つからないもんだから術も荒っぽくなっちまって」

「探し続ければいい」

 冷たい響きを持つ声で青年は言う。

「だが貴方達が探そうとすればするほど、あの方が傷つくだけですよ」


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