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くろやみ国の女王  作者: やまく
第三章 海からの客、くろの騎士、準備
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海賊と情報 1

 

 

 

 精霊を連れて海賊の首領と一緒にテントの外に出ると、海賊の仲間達が集まってきた。黒堤組と名乗るだけあって、皆黒や灰色が多い服を着ている。ざっと見て六,七人いて、どちらかというと若い人が多い。

 みんな首領の周りに集まって、ほとんど顔しか出ていない格好をしている上に不機嫌顔が隠せていない私と、顔を布で覆ったべウォルクトに珍しい銀髪と綺麗な顔立ちをひんやりとした表情で覆ったレーヘンは遠巻きに観察されている。

「それで、あなたのオジさまを預かる話も受けたときの、さっきのは何かしら?」

「あの……うちの頭は一体何をしたんですか?」

 黒髪の壮年の男性が一人進み出て、私たちに話しかけてきた。


「女の唇は安くないって教えてあげただけよ」

 つい思い出してぶっきらぼうに答えちゃったわ。

「気に入ったもんは速攻で捕りにいくのが海賊の流儀だ」

 私の言葉に、マヴロと名乗った海賊の首領はまたにやりと笑う。

「まさか……」

 壮年の男性は顔を青くした。

「海の男には危険がつきまとう。いつだってその時その瞬間の情熱に命をかけている。何時死ぬか解らないからな。だから気に入ればその場で口説く」

 自信満々の姿にまた腹が立ってきたわ……!

 私は彼の周囲に集まった面々を眺めた。みんな口の端を下にまげて、呆れ返った顔つきをしている。

「ほかの海の人達は違うみたいだけど?」

「俺の流儀だからな」


「アホか」

「なにやってんすか」

「失礼にも程がある」

「死ね」

 ……個性的な海賊のみなさんね。


「ただのちょっかいなら早々に引き上げて欲しいわね。匿名のマヴロさん? 通称の名前ということは、本名ではないんでしょう?」

「ああ、たしかに口説く相手に名乗っていないのは悪かったな、俺の本当の名はカラノスだ。マヴロは仕事相手に黒堤組の代表が名乗る名前だ」

 キスしようとしたことはあくまで謝るつもりないみたいね。

「カラノス、ね。こっちのほうがあなたらしい響きだわ」

「そうか? ありがとよ」

 海賊の首領、カラノスは少年のように笑った。

 腹立たしいことに彼の頬の腫れはひいてきている。私の右手は未だに痛いのに。右手はカラノスと会話している間にレーヘンがそっと近づいてきて、冷たい包帯を巻いてくれていた。


「女王さんよ、あんた面白いな」

 波打つ黒髪を弾ませ楽しそうにそう言った後、笑みを含んだ表情のままカラノスの黒と青の瞳が鋭くなった。

「だが国主としてちょっと甘すぎるな。世間知らずのただの小娘と変わらないくらいだ。それじゃ他所の国に舐められちまうぞ?」

 ひとつの集団を率いるだけあって、しっかり見てるところは見ている男ね。

「……わかってるわ。まだ、女王になりたてなのよ」

「近いうちに他の海賊や国の調査団なんかがこぞってここにやってる。そん時は誰もあんたの都合なんて構ってくれないぜ。俺としては先祖の土地が他所の国に占領されるくらいなら、あんたらにいてもらった方がいいんでな。僭越だが言わせてもらう。このままじゃ、この国はいいように扱われる。それでいいのか?」

 最後の言葉は、私だけじゃなく背後に立つ精霊たちにも投げかけられているように感じた。

「なぜ、他の人達がここに来るって言えるの? 島だけなら地図に前から載っているし、何もない土地だって、あなたたちも知っていたじゃない。子孫にあたるあなた達はともかく、来るだけ無駄なのにどうして?」

「それが状況が違うんだな」

 カラノスは腰に差した剣に手をもたせかけて言った。

「いま大陸では青嶺国や白箔国、それに赤麗国なんかがこぞって新しいものをかき集めていてな。新しい土地、国、珍しい品物、情報でも良い値段で買い取ってくれるんだ。あんたらの事も、報告するだけでも報償がでるだろう」

「どうしてそうなっているの?」

「さあな……最初は一国の王がはじめたらしい。新事業開拓でもしたいんだろ。それを他の王達も真似しだしたようだ」


「さらに、この国の周囲の銀鏡海に波が生まれる日が増えている。この現象は数百年ぶりだそうだ」

 のんびり構えている場合じゃないってことは、わかったわ。

「教えてくれたことは感謝するわ。正直いって、外の状況なんて、知らなかったし」

 カラノスは思考に手一杯状態の私にゆっくりと近寄ってきて、外套から流れでていた毛先が灰色の髪を一房持ち上げながら、言った。

「なら改めて、俺と今夜どお?」

「レーヘン、沈めて」

「任せてください」

「うわっ。気配消して近づくな!」

「精霊ですから、あしからず」

 それからシシがまた出てきたり、レーヘンが追ったりと、騒動になった。

 しばらくして海賊の仲間たちが疲れた顔で謝ってきたので、なんとか苛立ちを静めて、その場を収めたわ。


 結局、怪我人の治療ももう少し時間がかかるので、海賊達には機材を撤去したテントに追加のテントを設置して、そこで夜を明かしてもらうことになった。

間違っても、あの男を城に入れるもんですか!


 怪我人以外も滞在するから一応食べ物も提供することにしたので、有り合わせの材料で急いで作ったシチューを二つの寸胴鍋に用意して、お芋と葉野菜のサラダをひと山、ハーブを練り込んで焼いたパンをこれまたひと山に、採れたての果物を一箱と癖のないハーブで香りをつけた水をガラスの瓶に詰めたものを二十本ほど届けた。

 運ぶのはシメオンが率先して引き受けてくれて、サヴァとゲオルギと、城の外に出るまでだけどハーシェが手伝っていた。シメオンは運んだついでに怪我させた人達に謝りに行ったみたい。



 今日の夕食は王の間で食べることにしたので、ライナが料理の仕上げをしている間に私とレーヘンが一緒にテーブルの上に食器や飲み物を並べていると、べウォルクトがコトヒトを連れて入ってきた。

「今回は私用で来ました」

 コトヒトは、先程の姿と同じだったけれど、肩から黒いケープを羽織っている。胸のあたりにはなにか模様のようなものが描かれているけれど、何か意味があるものなのかしら。

「組頭の許可は得てきました。まあ、内偵と思って頂いてかまいませんよ。ちょっと精霊として用事があったものでして」

「私も話を聞いているわ。精霊の用事なら仕方ないけれど、今回は手短にお願いね」

「ありがとうございます。女王さま」

「どうも、先程ぶりですね。コトヒトさん」

 レーヘンがコトヒトに言葉をかけて、握手した。

「やあ、さっきは挨拶できなかったねレーヘン? だっけ? 今の名前」

「ええ、その名前であっています。これからはそちらで通してくださいね」

「ねえべウォルクト、もしかしてコトヒトの方が先輩なの?」

「ええ。レーヘンは世界の一等級以上の精霊のほとんどよりも後に生まれましたから」


「ベウォルクトさん、これ青のからの回覧板です」

 そう言ってコトヒトは何も持っていない右手を差し出した。

「ああ、きいてるよ。ありがとう」

 ベウォルクトはそう答えて同じく右手で握り返した。

「例の話ですか……」

 レーヘンがなんだか暗い顔つきでベウォルクトの右の手のひらを覗き込んでいる。


「回覧板? もしかして精霊にはご近所付き合いがあるのかしら」

「ええ。特定の精霊達のやりとりを扱うときは時々こうやって仲間が運んで来てくれるんです」

 一体どんなやりとりなのかしら?

 私がじっと見ているのに気づいたらしく、べウォルクトが手のひらから顔をあげた。

「情報をまとめてからになりますが、この件は後ほどファムさまに御報告いたします」

「ありがとう。よろしくね」

「ファム女王」

 コトヒトの灰色の瞳がまっすぐ私を向く。

「ワタシはもうこの国の精霊ではありませんが、言わせてください。この国を蘇らせて頂き、王になって頂き、ありがとうございます」

「まだまだこれからよ。でも、嬉しい言葉をありがとう」

 コトヒトはそれからほどなくして海賊達のテントへ戻っていった。



 夕食後の食器を片付けたテーブルの真ん中に、私はお茶をたっぷり詰めた保温瓶と、棚から出してきたありったけのビスケットとドライフルーツを乗せたお皿をどんと置いた。


「さあ、みんな、会議をするわよ!」

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