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くろやみ国の女王  作者: やまく
第三章 海からの客、くろの騎士、準備
33/120

海の波と国民たち 3

 

 

 

「アンタらこそ何者だ? ここは俺たちの先祖の土地だぞ」

 ……どういうことかしら?

 私は男と私の間に立つベウォルクトを見た。


「すでに血による統治は終わりました」

 ベウォルクトが落ち着いた様子で言った。

「確かに彼らは数千年前にこの国を見捨てた者達の末裔です。崩壊して行くこの国を捨てるという誓約もなされています。もう別の民族ですよ」

 私の隣に控えるレーヘンが言った。

「そう」

 自分の肩の力が抜けたのがわかった。

 また家を追われるのはいやだもの

「それにあの男では王位に就けません。国や城のシステムを使うことはできませんよ」

 レーヘンが口をほとんど動かさず小声でささやいた。


「まあいいか。俺たちは今さらここに戻る気もないしな」

 そう言って海賊達の代表は首の後ろに手をやってもみはじめ、あくびをした。そのまま横目でベウォルクトとレーヘンをちらりと見る。

「オマエら、伝承にあるあの錆びた山の精霊か。二体もいたのか」

 独り言のようにそう言ったあと、大股で近づいて来て、私を見下ろして来た。……背が高いわね。サヴァとどちらが高いのかしら? 首の後ろがちょっと疲れるのを感じながら、私は男を見上げる。


 首筋の中程までの黒い髪は波のように豊かに波打ち、はっきりした二重の目は左が黒で、右は透き通った青い瞳。どちらも強い視線でぎらっと周囲を射抜いている。顔つきは精悍だけれど、若そうだし、整った容貌は女性にもてそうね。

 脚をぴったりと覆う荒い生地のズボンに胸元の開いたシャツ。ちょっと光沢のあるジャケットは丈が短い。

 そして左手には黒のグローブをはめている。

 ということは、法術を使うわね。

 さらには、幅広の腰布に四本も剣を差している。武器は詳しくないけれど、使い分けでもしているのかしら?

 そういえばテントの外で待ってもらっている他の海賊達も、何かしらの武器や道具、法術用のグローブや腕輪をつけていたわね。

 目の前にいる海賊の代表も、外にいる仲間達も、きっと何かあれば即座に動いて、私達なんてあっというまに切り伏せちゃうわね。


 でも、私の傍にはレーヘンとベウォルクトがいる。

 子供達にはサヴァとゲオルギがついてくれている。

「アンタも精霊か何かか?」

「一応人間よ。出身は大陸なの」

 私は声の調子に気をつけながら、朗らかに話し続ける。


「何にも無い土地で、寂しくはないのかい」

「景色が味気ないのを気にしなければそれなりに楽しいわ。荒々しい海賊には解らないでしょうけれど。ところで、あなた達どうやって来たの? 今、海は波がない状態のはずよ」

 男はにやりと笑った。

「確かにこの近海は“銀鏡海”って言われるくらい強烈な凪の海だ。だが俺達の祖先はその海を渡ってこの国から出たんだぜ? その時と同じ方法を使ったまでだ」

「もしや、ジェットエンジンの技術がまだ残っているのですか」

 ベウォルクトがちょっと驚いた調子で言う。

「まあ、あれがあると便利だからな。だがいまだ一から作るのは難しくて既存のを小型舟にしかつけられないままだ」

「燃料は何を使っているの?」

「海水を加工して使っている。元々使っていた燃料は俺達だけだといまだに再現出来ないんでね」

 元々は何だったのかしら? あとでベウォルクトに聞けば教えてくれるかしら?


「それで、話は戻るけどあなた達は何をしに来たの? 私としては侵略ではないと嬉しいのだけど」

 男はますます笑みを深めた。やわらかく動く口元ね。

「失礼、女王。俺達は『黒堤組』という海賊だ。普段はこの島の近海と大陸の間を主に縄張りとして活動している。俺はその組の首領、通称“マヴロ”だ」

 そう言うと、マヴロと名乗った男は腰に着けていた鞄から手のひらに乗る大きさの壷を出した。

「俺達はオジ貴を弔いにきた」

 ……マルハレータの壷に似ているわね。


「偉大な黒堤組の男は死ぬと船の炉の火で焼かれる習いがある。志半ばで無念の死を遂げた者は海に、そして満足して死んだ男の灰はこの祖先の土地に葬ってきた。先代の首領だったオジ貴は最後まで偉大で、そして満足いくまで生き抜いて死んだ」

 男は黒くてツヤのある小さな壷にそっともう片方の手を添えながら言った。

「そう、それであなた達はここまで来た訳ね」


「まあ、それに加え最近この島がいきなり国名つきで地図に出て来たのは気になっていた……な。それを確かめに来たってのもある。そこでだ」

 マヴロと名乗った男は壷を差し出してきた。

「頼みがある」

「どういうこと?」

「いままでここは無人の、閉じられた場所だった。今は開かれているのなら、オジ貴をちゃんとした場所で眠らせてやってくれないか。野ざらしの場所に一人眠らせておくのは忍びないんでね」

「それくらいなら、まあ……いいけど」

 私は壷を見つめて言った。

「大切な人にはゆっくり休んでもらいたいものね」

 私が壷を受け取ろうと両手を差し出すと、男は目元を緩め、それから壷を持った手を後ろへ引いた。

 いきなりだったのでバランスを崩してよろめいた拍子に顎をつかまれて、向こうがぐいと顔を近づけてきた。

 唇と唇が重なる―――― 

 

 

 触れたか触れないかのその瞬間、私はめいっぱい右手を振りかぶった。



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