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くろやみ国の女王  作者: やまく
序章 はじまりのはじまり
3/120

転がり込んで来た銀色と炎 2

 

  

 

 連れて行かれた先は警察の建物ではなく、大貴族のものと思われる大きなお屋敷だった。

 そこで表情も言葉もない軍の警察隊に囲まれて、見知らぬ貴族の中年男性が私を待っていた。金の刺しゅうの入った豪華な上着、でも布で紋章の部分は隠されていた。


「君は今ヴィル氏とつき合っているのかね?」

「そうです……彼に、何かあったんですか?」

 私がそう言うと中年男性は鼻で笑った。相手を見下す、嫌な笑い方だった。


「何も無い…いや、これからあると言うべきか…。おじょうさん、君は彼がどの階級にいる者か知らんようだな」

 知らない。私はヴィルが何者なのか知らなかった。

 街で偶然知り合って、いつも街で待ち合わせたり、家に迎えに来てもらって会っていた。

 幸せすぎて、知ろうとも思わなかった。

「知らないのなら知らんままでよろしい。だが事情があってね、君と別れたいと言って私に頼んで来たんだ」



 言われた事の衝撃よりも、まず先に涙が出た。静かに、傷から溢れ出る血のように。

 目の前にいる中年男性は明らかに上級貴族だった。言う事にどれだけ真実が含まれていようとも、とにかく私に彼と縁を切れと言っていることは理解出来た。

「かれと……ヴィルと話をさせて下さい。それで納得できれば、彼の元を去ります」

 枯れた声で言いながら更に涙があふれた。靴のつま先に雫が落ちる音が聴こえた。けれど、歯を食いしばって目線は相手から外さなかった。

 脳裏には(「五日後に迎えに行きますから、絶対に家にいてくださいね」)という、数時間前に聞いたばかりの彼の声が蘇った。


「残念ながらそれはできない。彼はもう君とは会わないと言っているんだ」

 中年男性は例の笑い方をした。私は直感的に相手が嘘をついている事を知った。

 私にはまったく勝ち目が無かった。今ここで反発すれば、脅しという名の危害が襲ってくる可能性が高い。私にも、彼にも。


「わかりました。もう会いません。それが彼のためになるのなら」

「ものわかりが良くて助かるよ。しかしこの街にいる以上、どこかでばったり会うかもしれないね」

 目の前の中年男……もういいや、中年デブオヤジは、にやついた顔のまま召使いを呼び、封筒を握らせて来た。私は気色の悪さに手を振り払いたいのを我慢し、震えた。

「手切れ金と、立ち退き金、それに国を出る旅券もサービスしておいた。君はまだ若いんだからどこへでもいくといい」

 優しい口調でえらい侮辱をくれたものね。


 私はそれから一言も発さずに、家に帰った。分厚い封筒を持って。

 家に帰ると銀色の野良精霊はいなかった。

 やはり勘違いだったのねと、一息ついて、封筒を食卓の上に置きっぱなして、甘いハーブティーを飲んで、井戸に顔を洗いに行った。


 それから部屋着に着替えて、一眠りしようとベッドに入ったけれどまるで寝付けなかった。

 もやもやとしたものがまとまらなくって、結局起きて日に焼けた壁紙を眺めていると、窓の外に金色の小鳥が飛んでいた。

 ヴィルの精霊だわ!


 急いで窓をあけると、金色の小鳥は足で掴んでいた小箱を私の膝の上に落とした。

 空けてみると、黒い石がはめこまれたペンダントと、手紙が入っていた。


“愛しいファム

 このペンダントをいつも身につけていてください。危険から貴女を守ってくれるまじないをかけてあります。どうか無事で。五日後に待っていて下さい。絶対に迎えに行きます。   あなたのヴィルより”


 嬉しくって、涙が出て来た。彼は知っている。そして私を案じていてくれる。金色の小鳥が飛び去らないように押さえつけながら、私はあわててヴィルに返事を書いた。


“大好きなヴィル

 ペンダントをありがとう! 知らない貴族のおじさんと会ったわ。五日後に会うのは危ないかもしれないわ。あなたの身の回りにも危険が迫っているかもしれない。お願いだから気をつけて!  愛するファムより”


 慌てて書き上げた手紙と、身につけていた指輪をハンカチでくるんでキスをひとつ落とし、金色の小鳥に持たせた。

「押さえつけてごめんね、急いでたの。また荷物運んでね」

 頭を軽くなでると気持ち良さそうに目を細めて、金色の小鳥は開いたままの窓から飛び立って行った。



 それから私は動き回った。

 まずバイト先の花屋に行き、五日間のお休みを貰って、帰り道に、パンやチーズに卵、干し野菜などの保存のきく食べ物を買い込む。

 それから家じゅうの大事なものをかき集めて、もしも早くにヴィルが来てくれた時にいつでも出かけられるよう、準備をした。

 ひととおり思いつくことをやってしまって、とっておきのジャムをパンに塗ったものと、買ってきたプリン、バニラを効かせたホットミルクでお腹を満たして、これまたとっておきのエッセンシャルオイルでボディマッサージに精をだした。

 そしてベッドで深く眠った。

 ヴィルがくれたペンダントを握りしめながら。


2018/02/21:単語や台詞回しなどを手入れ

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