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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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真珠の守り手 3

 

 

 

 なんだかんだで、ローデヴェイクは元上司のマルハレータについて旅に出る事になった。

 彼の復活を頼んで来たマルハレータ本人は最初、「国において護衛にでも使え」と言ったわ。でも、

「国に一人で置いておくと逆に危険なので、あなたが責任持って管理してください」

 とベウォルクトが言うので、連れて行く事にしたみたい。

 王の間、びっくりするくらい大きな穴が開いちゃって、当分は修理終らないものね。

 必要な物を準備するのと、復活したばかりのローデヴェイクの身体の調子をみる時間を考えて、マルハレータ達の出発は三日後という事になった。


「ちなみにローデヴェイクってどれくらい強いの?」

「おそらく本気になると我々では押さえきれないでしょう」

 精霊たちの警戒の仕方がマルハレータ以上だったので尋ねてみると、レーヘンが即答した。

「ワタクシが彼を取り押さえる事が出来たのは、復活直後の錯乱状態だったからです。戦闘経験もあちらの方が上です」

 精霊達がそう断言するのなら、相当の危険人物ね……。頼もしいのか、危ないのか、いまいち判断がつけられないわ。

「とりあえず、しばらく彼の事はマルハレータに任せましょう」


 三日間、ローデヴェイクには影霊として安定するためになるべく私がいる王の間にいてもらっていた。もちろん監視役のマルハレータも一緒に。

 たいていの時間はマルハレータと私がお茶を飲んでいる横でベウォルクトが王の間の修理を手伝わせていた。ローデヴェイクはふてくされた顔をしつつも、見た目に似合わない丁寧な手つきで繊細そうな検査器具や道具を使って作業していた。

 どうも昔の時代って、複雑な道具や機械が普通に使われていたみたい。マルハレータもお城の壁の所々にとりつけてある板を触っていたし。あれで城内のどこに誰がいるかとか、部屋の明るさとか暑さ寒さを操作できるなんてすごいわよね。仕組みについて説明してもらったら法術みたいな技術が使われていなくて驚いちゃったわ。

 ちなみに、私は王の間にいなくても簡単なお城の操作なら手ぶらでできるようになったわ。不思議だけど、気がついたらできちゃった。

 うちの精霊達はまた私に何か告げ忘れてるんじゃないかしら……



 王の間でマルハレータと二人分の荷物の最終確認をしていたら、ローデヴェイクが珍しく私に話しかけて来た。ベウォルクトの修理手伝いは一段落したみたい。

「今の女王さまよ、旅に持ってく武器をよこせ」

 ローデヴェイクはポケットが沢山ある皮のような生地の暗い色の上着にこれまたポケットのたくさんついた灰色のゆったりしたズボンに着替えていた。うーん、彼らの時代の服って今より形が複雑よね。生地も丈夫そうだし。

「そうね、あちこち歩くんだから護身用の物が必要よね。剣がいいかしら?」

「普通の物だとこいつはすぐにぶっ壊す。おい、おまえの相棒はおれの部屋に置いてある。良い出来だったからとっておいた」

 驚いた表情でローデヴェイクはマルハレータを見た。

「ちゃんと手入れはしてあるんだろうな」

「さあな」

 そっけない返事に、ローデヴェイクは唸った。

 結局、彼の武器はすぐには使える状態じゃなかったらしいので、小型の整備道具セットと一緒に丈夫な黒い袋に入れて担いでいくことになった。随分と変わった形をしていたけれど、いったいどんな使い方をするのかしら、アレ。

「マルハレータは武器とか必要ある?」

「いらん、下手に兵器を持つと怪しまれる。おれは素手で十分だ」

「ローデヴェイクの武器は良いの?」

「あれはアイツの一部みたいなもんだったからな。たとえ動かなくても持ってりゃ少しは落ち着くだろ」

 動く? 剣に似たような、そうでないような不思議な形をしていたけれど、どう動くのかしら。


「これで必要そうなものは大体そろったかしら?」

「あとは……そうだな、現在この国はどの程度まで外部に情報を出しているのか確認しておきたい」

 確かに、そのあたりの話はまだしてなかったわね。

「この国はまだ人間の地図には載ってないの。伝説上の国としてや、おとぎ話に出てくる闇の国として存在が知られている程度ね」

「ファムさまの言った通り、この国はほとんど外に存在を知られていない状態です。他国とのつながりも定期的なやりとりすらもありません。白箔国とは二度ほど接触がありましたが、それきりの状態です」

 レーヘンが私の言葉に続けた。

「サヴァが言うには、青嶺国の王室図書の古い文献には『暗病国』の名前があったらしいけど、『くろやみ国』という名前を知っている人間は今の所いないんじゃないかしら」

「わかった」

 マルハレータはうなずいて、それから銀糸のような前髪をゆらしながらゆったりと首を横に傾けた。

「それで、女王サマ、あんたはおれ達に外でどう振る舞って欲しい?」

 なんだか学校の先生に問題の答えを聞かれているみたいね。

 でもこの場合、正しい答えなんてない。

 必要なのは、私の意思。女王としての指示だわ。

「しばらくただの旅人ということで、見聞を広めて来てちょうだい。精霊達の情報網じゃ得られない、人間の目から世界を見て来て欲しいの。よその人間の国が今どう動いているのか。そして暮らしている人達の生活や文化、価値観や考え方、何を日々感じているのかを私に教えてちょうだい。あなた達の情報は、このくろやみ国が外の国と喧嘩をしないで済む助けになるわ」

 マルハレータは私の言葉を聞いてやわらかく微笑んで、ゆっくりお辞儀をした。

「その命令、承った。ファム女王」


「それと、私たちが何かしなければならない事が起きそうな時や、誰かにくろやみ国の話をする時は事前に相談してね。私とあなた達影霊は離れた場所でも会話ができるから」

「ああ。わかった」



「アナタ達は何か言う事ある?」

 古くからこの国を守っていた存在の意見は大事よね。

「暴れるのは好きにしてけっこうですが、くれぐれも他国に侵略の口実を作る真似は避けて下さいね」

 尋ねてみたら、レーヘンがそう言った。暴れるのはいいの……


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