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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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無いものと有るもの 4

 

 

 




 霧が漂う早朝の朽ち果てた港に小さな人影があった。

 懐から取り出した物を空に向かって放り投げる。投げられた金色の物体は海面に落ちる事無く羽ばたいて、空の彼方へ吸い込まれるように消えて行った。

「これで借りは返したよ、白箔王」






「あんたらのいた国はけっこう荒れていたようだな。あのちび、随分な殺気を持つじゃないか」

 そう言ってマルハレータはライナの傍から離れないシメオンを眺めてにやりと笑った。


 シメオンが来た翌日、人工の日光が降り注ぐ植物園で朝ご飯を食べながらみんなの顔合わせをした。

 今は食後ののんびりとした時間で、私たちはご飯を食べていたテーブルで、子供達とゲオルギは離れた場所の芝生の上でゆったりとした時間を味わっている。

 ライナは昨日一昨日と長旅をしたゲオルギの身体の泥汚れを固いブラシでこすり落としていて、そのライナの後ろでシメオンが彼女の翼に水で湿らせた柔らかなブラシをあてている。


 私は洗ってきたラズベリーを盛ったお皿をテーブルに置いて、サヴァに尋ねた。

「彼も騎士団にいたの?」

「いいえ、将来的には入るつもりのようでしたが、勉強してライナの身体の治療法を探すつもりだと言ってました」

 じゃあ学者志望だったのね。

「だがあいつの目は随分と暗いな」

「……そうです。村が襲われたときも、今回ライナの事でも、あいつは随分と手を汚しています」

 マルハレータの言葉に、サヴァは重く答えた。


 シメオンが国を出る経緯は壮絶だったわ。

 そもそも、緑閑国で暮らしていたはずのサヴァとライナがくろやみ国へ来る直前に青嶺国にいたのには理由があって、大きな事件に巻き込まれていたのだそうよ。


 緑閑国には古くから存在する秘密組織があって、特殊体質の人間を捕まえては実験に使っていた。目的は不老不死やら新しい生命の創造やら様々に噂されていたけれど、実際の所不明。表立って公表出来ないような、命を弄ぶような行為を繰り返していた。

 そんな集団に特異な体質を持っているライナが目を付けられ、攫われてしまった。なんとか致命的な実験に使われる前にサヴァは彼の騎士仲間達の助けで彼女を救出すことに成功して、縁故を頼って青嶺国へ逃げ込んだ。

 何故国外に逃げたのかというと、組織の背後に緑閑国の大貴族が関係していて、さらに他国の貴族とも繋がりがあったので、緑閑国は彼らを守ってくれなかったのだそうよ。

 青嶺国で保護をうけて兄妹は一時の平和を得たけれど、騒動の結果としてライナの身体の症状が一気に酷くなって、手の施しようがない程に進行してしまった。

 そしてサヴァはライナを助けるために僅かな情報を頼りにゲオルギに乗ってこの国まで飛んできた。


「世の中には恐ろしい集団がいるのね」

「仲間がシメオンと共に滅ぼしたようですから、もうあまり心配はないと思います。事後処理にいくつかの国が動いているようですし……ですが、そのせいであいつ、シメオンは行き場を失いました」


 シメオン本人いわく「ライナを傷つけた奴らを徹底的に潰した」そうで、危険人物として子供ながらに捕まり、国王に組織の内部情報を提供することで取引をして、処刑ではなく国外追放処分になったらしい。

 裏の意味では、秘密組織や大貴族の罪を暴いた事であちこちから恨みを買ってしまい、後ろ盾の無い十三歳のシメオンは彼らの権力が届かない国外追放という形で生き延びることができた。そして国を出た所でちょうど騎士団を抜け出してきたゲオルギと再会して、連れられるままにくろやみ国へ来たのだそうよ。

 貴族の権力で殺されそうになって国を出て来た所は私とちょっと似てるわね……シメオンの方が話が大きいけれど。


 ちなみに現在の緑閑国は内部に巣食っていた秘密組織が暴かれて、国内が大混乱状態だそうよ。青嶺国が介入して調停を試みているらしいわ。


「あいつの家族は早くに死んでしまって、村の孤児院で育ったんです。村が焼かれた後は俺がライナと一緒に引き取って三人で暮らしていました。あいつらは本当に仲がいいんです」

 ライナの白い羽根を優しく撫でているシメオンの顔は、とても安らいでいた。

 ライナが振り返り、シメオンを見て微笑む。彼はそれをみて頬をかいた後、心から嬉しそうに笑った。



「シメオンが気になるの?」

 マルハレータは彼をじっと見つめていた。年下が好みなのかしら?

「いや……ちょっと懐かしい奴を思いだしただけだ。似てるようで、やはり似てないな」

 つまらなさそうね、誰に似ていると思ったのかしら。

「あいつはあんな風には笑わない」



 サヴァがライナ達のところへラズベリーの皿を持って行き、ベウォルクト達がテーブルにやって来たところでマルハレータが口を開いた。

「追跡はどうだった」

「うまく行きましたよ」

 私が真っ赤な林檎にナイフを入れている横で、ベウォルクト達が何かの情報をマルハレータに伝えている。

「なにかあったの?」

「外からの捜索の動きがありましたので、こちらからも一応たどってみたのです」

「まだ想定の範囲内でしたし、今はあえて深く探らない方がいいでしょう」

 ゲオルギかシメオンの荷物に何か術がかけられていたのかしら?

「今回はいいけど、次からは何かあったら私にも事前に教えてちょうだいね。私に理解出来ない事でも情報が見えない所で素通りするのって不安になるから」

「「はい」」



「ちょうどいい機会だ。この国……くろやみ国のセキュリティについて確認しておきたい」

 テーブルの上にあるプラムを指で転がしながらマルハレータは言った。

「せきゅりちい?」

 あっ、睨まないで、あなたが睨むと本当に怖いから。

「もっと女王の教育をしっかりしろよ。ざっとみてきたがこの城にはかなり物騒なものがあったぞ」

「すみません」

 私と一緒に睨まれたベウォルクトが謝っている。

「この城はすべてあんたの指示で動く。もとからいた精霊やあんたに創られた影霊もそれなりに城のシステムを使う事が出来る。だが新しくやってきた人間はそういったことができない」

「一応みんなには居住範囲は自由に使えるようにしているわ。登録しないと使えないものや慣れないと使うのが難しいものが多いから、今は日常で使う施設がある場所だけ行き来出来るようにしてあるの」

「当分それだけにしろ。用事があって他の区域に行く際は精霊達をつけろ。そうだな……あのウサギも動けるようにしておけ」

 ハーシェにもお仕事ができたわね……


 マルハレータは私たちにいくつか助言をくれて、ライナには気脈を整える方法を伝授してくれた。シメオンがライナと一緒に自分の事のように一生懸命聞いていたのが、なんだか微笑ましかった。



「単騎ビークルがまだあるなんてな」

「すぐに動かせるのは平野用の簡単なものだけです。気になるものを見かけたら記録を撮ってきてください」

「了解した。三日ほどで帰ってくる」

 午後になって、マルハレータは銀色の馬の背のような不思議な機械にまたがって国内を見て回りに出かけていった。

「いってらっしゃい! 気をつけてね!」


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