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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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無いものと有るもの 3

 

 

 

 翌日の午後も同じように練兵場で遊んでいると、ふとレーヘンが天井を見あげた。

「どうやらゲオルギが戻って来たようです。まだ海洋上ですがしばらくすると到着するでしょう」

「えっ、もう? 帰って来るの早すぎない?」

「おかしいですね。移動だけでもっと時間がかかるはずですが……」

 サヴァも首を傾げている。

「とにかく到着予定の港へ向かいましょう」

 レーヘンの言葉を合図に皆で手分けして練兵場を片付け始める。

 それにしても港なんてものがあったのね、この国。


 マルハレータに留守をお願いして、私はライナとサヴァと一緒にレーヘンに誘導されるまま城内から列車に乗って移動した。駅から降りるといつの間にか外に出ていたので、急いでいつものコートを着た。

 かつてはきちんと舗装されていたらしい、幅広い荒れた道をしばらく歩いて行くと、どんよりした暗い灰色の海に面して朽ち果てた港が広がっていた。港といっても海に面した一帯が人工の岸壁で整えられている程度で、それも半分以上崩れている状態。防波堤や桟橋もない。さびた金属と砕けた石垣に波がぶつかってしぶきが飛び、物悲しげな風が吹いている。

「港というか、人工物の跡しか残ってないわね……」

「この方向に青嶺国などがある大陸があるんですよ、ファムさま」

「そうなの……」

 私は風になびく髪を手で押さえながらレーヘンが指差した方向を見つめた。

 青嶺国の向こうには、緑閑国や白箔国があるのよね……

 私たちが港に到着してそう時間が経過しないうちに、空にごま粒のようなゲオルギが見えて来た。

「……何か乗せてるわね。子供かしら?」

「兄さん! ゲオルギの背を見て!」

 隣で見ていたライナが叫んで、ゲオルギが着地した場所へ向かった。

 まだ羽根に慣れてないからかふらつきながら小走りで駆けて行く。

「シメオン!」

「ライナ!」

 ゲオルギの背に乗っている何かはライナと同じくらいの年の旅装の男の子だった。明るい黄緑色のさらさらした髪に、女の子のように整った顔立ちをしている。

「ライナ! ライナ、ライナ、ライナ!」

 つけていたゴーグルを外して急いで竜の背から降り、泣きそうな顔でまっすぐにライナへ向かって走る。

 そのまま猛烈な勢いを殺す事無くライナに抱きついた。

 ……あんな勢いでぶつかってライナ大丈夫かしら?


「シメオン、どうしてここに?」

「そんなのライナがいるからに決まってるからじゃないか! ライナ、外に出て、身体は大丈夫?」

 男の子は必死な顔でライナに尋ねる。

「うん……あの、あのね」

 ライナは顔を伏せた

「私の身体、いろいろ変わっちゃって……」

 シメオンと呼ばれた男の子の手をとって頭の角に触らせる。

「角とか」

 それから背中の羽根を大きく広げて、動かしてみせた。

「羽根が生えちゃったの」

 シメオンはライナを見つめたまま硬直して動かない。

「で、でもね! もう身体がおかしくなる事はないんだ。私、こんな姿だけど、元気になったんだ!」

 そう言って目を潤ませて震えながらライナは一生懸命に笑おうとしていた。


 ライナを見つめていたシメオンは震えて、叫んだ。

「髪! ライナの長い髪が!」

 シメオンに驚いた拍子にライナの緊張が解けたようで、顔のこわばりが溶けていた。ぽかんとした顔で自分の顎の長さで切りそろえられた髪を触る。

「ええ? あ、うん、長いと旅に邪魔だから切っちゃった」

 あらら、あの子泣き始めちゃった。

 ひとしきりシメオンは泣いて、ライナに慰められていた。


「でも……よかった」

 そう言って、シメオンは再びライナを抱きしめた。

「ライナが元気になったのが一番嬉しいよ。どんな姿になってもライナはライナだよ」

「……ありがとう、シメオン」

 そう言って、ライナも泣き始めて、二人は涙を流しながら笑いあった。



 しばらく私たちが遠くから眺めていると、ライナがシメオンと呼ばれた男の子と手をつないで私の元へやってきた。

「ファムさま、幼馴染のシメオンです」

「はじめまして、女王さま」

 綺麗な顔をした男の子だけど、私をまっすぐに見てくる青みがかった緑の目には鋭さがある。どうも普通の子供じゃなさそうな感じね……

「私の一つ年上で、緑閑国では神童ってよばれていた凄い子なんです。村が襲われた時も、シメオンのお陰で生き残れたんです」

「はじめまして、シメオン。私は……」

「女王さま、僕をライナと同じ身体にしてください!」

 シメオンは私をまっすぐ見つめたまま言った。

「ええっ?」

「シ、シメオン、何を言うの!」

 ライナが驚いている。

「ライナを世界で一人きりにしたくないんです」

「やめてよ。シメオンは身体どこも悪くないんだよ」

「ライナの言う通りよ。生まれ持った身体をそんなに軽く扱うもんじゃないわ。とりあえず、成長期が終わってからもう一度言いなさい。その時まで願っていられたらちょっと考えてみるわ」

 なんだか激しい子ね……


 ゲオルギの様子を見ていたサヴァが近づいてきて言った。

「シメオン、お前、国は? 学院試験があったんじゃなかったのか」

「無理。緑閑の国外追放受けた」

「はぁ!? 一体何をしたらそんなことに」

「兄ちゃんやライナを実験に使おうとした組織を潰した」

「……全員か?」

「ああ。それで、全部王様に報告した。そしたら、命だけは助けてくれた」

 なんだか物騒な話をしているわね……。彼らは彼らなりの状況があるみたいだし、落ち着いたらゆっくり話を聞かせてもらいましょうか。


「あのね、シメオン、私この国で暮らすことにしたんだ」

「わかった。僕も一緒だからね」

 即決だわ! この子!


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