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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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無いものと有るもの 2

 

 

 

「よく似合っているわよ、ライナちゃん」

 二日経ってだいぶ歩けるようになったライナは、もう病人服ではなくて身体を締め付けないふんわりとしたワンピースを着ている。

 羽根があるので背中があいたホルダーネックになっていて、首元にはふわふわした生地のスカーフが巻かれて、同じ生地の花飾りがついたサンダルをはいていて、とても可愛らしい姿だわ。

「ありがとうございます、ファムさま!」

 ライナは照れながら笑う。

 昨日ガラス板の画像を操って彼女の服を作った時、はじめ顔を赤らめて遠慮していたけれど、次第に一緒に服の柄えらびを楽しんでくれた。

「体力が回復したら色んな仕事を手伝って貰うから、それ用の服も沢山作りましょうね。もちろんおしゃれ着も!」

「はい……!」


「ギャオギャオ」

「そう、君の言うそれが結界。壊すには鼻息に工夫が必要なんだ」

 レーヘンは竜のゲオルギと随分仲良くなったらしくて、無事に戻って来るためにいろいろと助言をしていた。

「ギー、フー」

「もっと力を混ぜることは出来るかい? あとは厩舎を抜け出す時は暴れるよりも鍵を解錠して逃走した方が、君自身の仕業と思われにくくなるから」

「ギュー」

 鍵の開け方の練習をしているらしくて、顔を突き合わせて一緒に何かを練習している。


「なんだかどちらも可愛いわね」

「俺もゲオルギと会話してみたいですよ」

 ゲオルギから外した鞍を布袋にしまいながらサヴァが言った。

「ベウォルクトに尋ねてみたら? あなたなら竜と会話出来そうよ」

 レーヘンとゲオルギの様子を眺めながらサヴァと会話していると、マルハレータがずんずんと近づいて来た。

「お前、その身のこなしからしてそれなりに強いんだろ」

「え、ええ。一応ですが国の騎士団に所属していました」

 確かに、サヴァは背が高くて見た目は細身だけど肩周りを中心にしっかりとした筋肉がついているし、力強い歩き方をする。

「騎士団にいたということは、もしかしてサヴァは騎士なの?」

「ええ、一応は。もう騎士団を抜けたので剣は返してしまいましたが」

「ゲオルギと一緒なら竜騎士というわけね。格好いいわぁ」

 でもわりと大人しそうな人だし、マルハレータに圧倒されて布袋を抱きしめながら答える姿はちょっと戦う人に見えないわね。


「なら、おれの身体慣らしにつき合え。おれが身体の扱いに慣れたらお前の妹の身体慣らしを手伝ってやれる」

「おや、ワタシではだめですか」

 声が聞こえていたようで遠くからレーヘンが言う。なに、そのにやっとした笑い方。どこで覚えて来たのかしら

「オマエは卑怯な手ばかりで慣らしにならん」

 マルハレータは精霊達に慣れて来たようで、復活したばかりの時のように感情をあらわにして言い返す事がなくなった。一体どんな手口で闘ったのかしら、レーヘン。

「ファム女王」

「なにかしら、マルハレータ」

「おれはライナの身体の慣らしが済んだらまずこの国の状態を見てまわってくる。おれの時代の後に国がどうなったか気になるしな。帰って来たらあんたが言ってた他国の情報収集に出かける。それでいいか」

「いいわよ。国内のことを調べたら内容をベウォルクトに報告してね。あと私も報告を聞きたいわ」

「了解した。あと、それから……」

 彼女は胸元から金色のペンダントを取り出し、私に差し出してきた。

「いつでもいい、影霊の核にこれを使ってくれないか」

「わかったわ」




 ゲオルギが飛び去るのを見送った後、みんなでマルハレータの身体慣らしを行う事になった。

「身体慣らしとは、俺は何をすればいいんですか?」

「格闘の模擬戦みたいなもんだ」

「暴れるのでしたら、練兵場がありますのでそちらでやりましょう」

 そう言ってベウォルクトが私たちを案内してくれた。

 お城の中層階あたりにある練兵場は、とてつもなく広かった。王の間を三つほどつなげたくらいの広さで、壁や天井がぼんやり光るだけの、何も無い部屋。

「この部屋はファムさま以外でも登録さえすれば誰でも扱えます」

 レーヘンがそう言うと、床に四角い穴が開いて金属製の棚がせり出して来た。

「練習用の防具です。どうぞ」

 サヴァは棚の中から黒と灰色の胴あてと厚みのある篭手、すね当てを取り出して身につけた。マルハレータは防具に見向きもしないで軽く伸びをしている。ちなみにいつもの高いヒールのブーツもそのままよ、あの人。

 私とライナはマルハレータとサヴァが立つ場所から離れて、王の間と同じように床から椅子を出して座る。


「何ですかこの鎧。金属でもないし、皮でもない。布のような……」

「はじめるぞ」

 篭手の感触に不思議そうなサヴァの言葉を無視してマルハレータは素手で飛びかかった。

「うわっ」

 サヴァは驚きつつもわずかな動きでかわし、大きく後ろへ飛び退いた。

 マルハレータの手足は陽炎のような透明なもやに包まれていた。彼女が腕を振ると大風のような音がする。

「あれは空気をいじってるの?」

「そうです。マルハレータの手足は高速震動する空気で包まれており、触れるだけで岩も砕けます」

「あれが法術というものなんですか?」

 一緒に見学しているライナも興味津々でレーヘンに質問する。

「似ていますが違います。あれは純粋に気脈を操る技です。法術ほど繊細な制御ができない分、破壊力があるんですよ」

「まだ法術は使わない。原始的な術の方があんたらも目で理解できる事が多いはずだ」

 ちらりとこちらを見てマルハレータが言った。

 確かに、彼女が操る気脈の流れがよく分かるわ。あなた先生に向いてるかもしれないわね。

「ライナはわかる?」

「なんとなくですが……」


 長い手足でしなやかに動く二人の姿は格好よかった。

「こうやって目で追える動きを見ると、レーヘンの動き方がいかに異常だったかわかるわね」

「お褒めにあずかり光栄です」

 褒めているつもりないわよ。


「おまえ、少しは反撃したらどうだ」

 物足りなそうにマルハレータが言う。

「女性と素手で闘うのは苦手で……模擬戦用の槍か剣はありませんか?」

 サヴァがマルハレータの蹴りを篭手で受けながらこちらへ向けて言ってきた。

「槍とか剣とか触った事がないから、棒でいいかしら?」

「かまいません」

 私が形を思い浮かべると、床から台座に乗った何本かの棒が現れた。どれも真っ黒で頑丈そうな素材でできていて、それぞれ長さが違う。

「ありがとうございます」

 サヴァは篭手を素早く外して放り投げ、彼の腰の高さを越える位の長さの棒を掴んで、マルハレータに向かっていった。


 二人は二時間ほど模擬戦をして、ついでに私やライナも練兵場の機能を使って障害物を出したりして参加した。二人の動きを邪魔するようにブロックを出すのは面白かったわ!

 それにしてもあれだけ動き回って二人ともほとんど息が切れないのは凄いわね。マルハレータもだけど、サヴァも平気な顔をして疲れた様子がない。

「兄さんは騎士団の中で一、二を争う槍使いだったんですよ」

 やるわねぇ


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