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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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無いものと有るもの 1

 

 

 

 私は目を潤ませて天を仰いだ。目に入るのは果てしなく高くて暗い色した天井だけど、感動のあまりなんだか輝いて見える。

「おいひい……お魚ってこんなに美味しい出汁がでるのね……」

 なんとサヴァが竜のゲオルギと一緒に遠方の海まで出かけて、網で魚を捕って来てくれたの!

 彼らの旅の荷物にあった干し肉をわけてもらった私が涙を流して喜んだのを見て、可哀想に思ってくれたらしいわ。

 下処理をしたお魚をぶつ切りにして油で炒めて野菜と一緒に煮込んだスープは、ひと匙でうっとりするようなコクのある味だった。

「喜んでいただけてよかったです」

「やったね兄さん」

 サヴァの隣でライナが楽しそうに笑っている。


 新鮮な野菜や穀物はあるんだけど、お肉やお魚、ないのよね……。代わりに植物油や豆やスパイスで作られたお肉っぽいものや人造の卵や牛乳とかは手に入るんだけど、時々あの脂ののったベーコンやこってりした貝のシチューが恋しくなる。

「ベウォルクト! レーヘン! 魚介類の保存食の作り方を調べるわよ!」

「学習意欲が高いのはよろしいのですが、王の間で干物をつくることはやめて下さいね」


 元気になったライナが翌日には固形の物も食べられるようになったので、回復のお祝いを兼ねて私はまた頑張ってご飯を作ったの!

 今晩の献立は魚と野菜の具沢山スープと焼きたてのパンが二種類、三種類の豆のパテと温野菜サラダ、デザートは果物のゼリー寄せとベリーのプディングよ。

 レーヘンにちょっと手伝わせたけれど、単純な下ごしらえは出来ても味の仕上がりに関わる細かい気配りが出来ないみたい。味見させてもいまいち分からないって顔をしていたわ。

 今日は品数が多いので食堂でご飯を食べる事にしたわ。

 精霊達は料理を食べたがらないから離れた席でゲオルギにご飯をあげたり、食器を運んだりしている。

 元人間の影霊のマルハレータは一緒に席についてなにやら難しい顔つきでサラダを食べている。彼女は大抵の料理に対して不思議そうな顔や難しい顔をするのだけど、生前は何を食べていたのかしら?


「そういえば、あなた達はいま何歳なの?」

 ちまちまとパンを食べていたライナが顔をあげた。

「兄は二十一歳で、私は十二歳です」

 彼女ははきはきと答えた。

「しっかりしてるわねえ」

「俺がしっかりしていないので……」

 サヴァは静けさと落ち着いた雰囲気を持っている青年で、肌の紋様の影響か表情が少なくて言葉数も少ない。そのかわりにライナは喋る子で、よく動く表情で明るく笑う。サヴァに言わせると、屈託なく笑うようになったのはこの国に来てからだそうよ。

 食後の団らんにお茶を飲みながらサヴァとライナの生い立ちを詳しく聞く事になった。


「戦争で村が無くなってしまい、二人きりの兄妹なんです」

 彼らが生まれ育ったのは緑閑国のさらに奥地にある山あいの小さな村だった。

 近くには野生の竜が多く生息する谷があって、扱いが難しい竜と仲良くなる人間が多く、竜関係の仕事につく村人が多かった。

 けれど六年前に起きた野生の竜が生息する谷の権利争いに巻き込まれて、村は消滅。ライナと彼女の幼馴染以外は全員殺されてしまった。

 うちの精霊達に言わせると、その村も竜の谷も、竜脈の影響があったに違いないそうで、その村には竜人と呼んでもいいくらい強く竜の力を持つ人達が沢山いたはずなんだそうよ。

「小さな争いでおそろしく貴重な資源を無駄にしていますね」


 一足早く村を出て自活していたサヴァは、なんとか生き延びた六歳のライナを引き取って一緒に暮らしはじめた。

 けれどライナの症状が一気に悪化し、治療法を求めて隣国の青嶺国に身を寄せた。

 その後、知り合った旅の精霊に海の彼方にある治療出来そうな国を教えられ、ほとんど賭けのような思いで海を渡ってくろやみ国までやって来た。


「ファムさま。私達をここへ置いてくれませんか」

 話が終わろうとしたところで、ライナが意を決したように言った。

「何でもします。私の身体を治してくれた恩返しがしたいんです」

 ちらっと隣のサヴァを見ると、目を見開いている。彼はライナの考えを知らなかったみたい。


 周りを見ると、精霊達は我関せずという様子なので、私の好きにして良いということらしい。マルハレータにも視線を送ると、『アンタが女王だろ』という声が頭に響いて来た。どうも影霊は全員創造主の私と思念で会話できるみたいね。


「私はかまわないけれど、ここ何も無いわよ」

「私達は身体のせいで緑閑国でも青嶺国でも辛い思いをしました。暖かく迎えてくれたこの国で生きていきたいんです」

 ライナのまっすぐな瞳はきらめいている。確かにここには山も森も自然の生き物もいないけれど、身体が消えかける子や身体に鱗模様がある人を嫌がる人間もいないわね。羽根や角を生やした責任もあるし、彼女達がここで暮らす事に問題はないわ。

「サヴァはどうなの?」

「俺も受け入れて貰えるのならありがたいですが……ゲオルギは国に戻さなければなりません。卵から俺が育てましたが、個人で所有権を持てないんです。コイツは頭がいいから、鞍を外せば自分で帰れるでしょう」

「そう……せっかく仲良くなれたばかりなのに」

 ゲオルギを見ると、何やら熱心にギイギイと鳴いている。それを見ていたレーヘンがうなずいて言った。

「大丈夫だそうですよ。一旦戻って、力ずくで脱走してくるそうです」

「レーヘン、アナタ言葉分かるの?」

「竜の言葉は簡単ですから」

 私には全部同じ鳴き声に聞こるのだけど、何がどう簡単なのかしら?

「ゲオルギ、オマエ言葉を喋るのか」

 サヴァも驚いているじゃない

「この世には人間が考えている以上に賢い生き物が沢山いるんですよ」




 ついに国民が出来たわ!

 祝杯をあげたいのに、お酒が無いなんて!

「ベウォルクト、一刻も早くお酒作りを開始しましょうね!」

「では明日の勉強は醸造技術にいたしましょう」

 とりあえず絞りたての林檎ジュースで乾杯したわ。

変更:ライナの年齢をひきあげました。

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