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くろやみ国の女王  作者: やまく
第二章 国民たち
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影霊と再生 2

 

 

 

 ちょっとずつだけど、私は女王さまとして一歩ずつ歩き始めていた。

 まずは知ることから!

「私は自分の生まれた国についてもあまり知らないの。この国のことはアナタ達に教えてもらうとして、他の国の事も知りたいわ」

 いずれ他国と渡り合うことになるんだし、情報は大事よね。

「我々の伝手で各国の精霊からの情報なら手に入れられますが、断片的ですし、具体的な人間達の様子はわからないですね……」

「実際に見に行った方が早いってこと?」

「ファムさまの外遊は認められませんよ。しばらくは国内で大人しくしてください」

「わかってるわよ」

 私の意見に、ベウォルクトが間髪入れずに言ってきた。

 私の行動に関して精霊達はとても厳しくなった気がするわ。まああれだけ死にかけてばかりだから無理も無いけど。

「使者をたてるのはいかがですか」

「私は行きませんよ。ファムさまをお守りするんですから」

 今度はベウォルクトの言葉に間髪入れずレーヘンが言う。

「……ワタクシにひとつ考えがあります。ですが、時間がかかりますのでしばらくは手持ちの情報を知る所から始めましょう。大丈夫ですファムさまに学んで頂きたいことは沢山ありますから」

 ベウォルクトの最後の一言には、なんだかいままでにないくらい強い決意というか、意思を感じたわ。私に向かって

「……おてやわらかにお願いします」

「ファムさまが楽しく、そして興味を持って学習出来るよう、全力を尽くさせて頂きます」


 そんなこんなで、わりと穏やかな日々が続いたある日、私はあることに気付いた。

「なによこれ……」


「ねえレーヘン」

「はい、ファムさま、なんでしょう」

「髪の汚れがおちないのよ。違う洗髪剤ないかしら?」

 毛先から中程までがまばらな灰色の汚れがついて、洗ってもこすっても落ちないのよ。

 私の話をきいたレーヘンは、にっこり笑って言った。

「ファムさま、それは汚れではありません。髪そのものの色です」

「……どういうことかしら」

「王座から変換された瘴気がファムさまの体に蓄積されていいる証です」

「どうしてくれるよ、私の自慢の黒髪が……!」

「もうしばらくの辛抱ですよ」


 それから数日過ごすうちに、私の髪は根元まで灰色に染まり、ついにはレーヘンと同じ銀髪になってしまった。

 おほほほ、見事な輝きだこと。

「おそろいですね、ファムさま」

 ……私、人間やめちゃうの?


「そろそろ頃合いですね」

 どこをどう判断したのかわからないけれど、ベウォルクトが言った。うちの精霊達には、そろそろ当事者に事前に説明する事の大事さを理解してもらいたいわね。

「すっかり体に変換された瘴気が貯まったようですので、影霊を創りましょう」

「影霊?」

 いったいなにが起きちゃうの?

「まずは媒体を用意しましょう」

「何でも良いのなら花の苗なんてどうかしら? 可愛いと思うけど」

「かまいませんが……おそらく寿命がかなり短いですよ」

 それはちょっと寂しいわね。

「はじめてですから、媒体にはファムさまの気脈が馴染んだ物がいいかと」


 私達は影霊創りのために王の間にいた。

 最近は身体の痺れもなくなって、王の間で過ごす時間も増えたのでここには私の私物がいくつか置いてある。鏡や身だしなみ用の道具やハンカチなどを入れた小箱、体の調子を整えるための体操をするマット、いつでも休息できるようにお茶セットと保存のきくお菓子。あとは良い香りのする花を乾燥させて入れたポプリボール。

 一度、王座のまわりにごちゃごちゃと物を置いたらベウォルクトが「王の間は特別な場所ですから品格を〜云々〜」と言いだしたので、王座の裏に棚を置いて、細々とした物をだけ収納するようにしたわ。

 王の間はとっても不思議な場所で、私が「こうだったらいいな」と思うと、希望にあった形に変形してくれる。

 王座が無骨で可愛くないって思った時は、気がつくと表面に繊細な彫刻が施されたものになっていたし、お茶を楽しむ場所が無いとなげくと、椅子やテーブルが現れてくれた。

 一度レーヘン達とゆっくり話をしたいと思った時には、即座にソファやローテーブルが床から出てきてびっくりしちゃったわ

 ちなみに王の間や王座と同じ素材で出来ているらしくって、全部暗い色なのがちょっと寂しいのよね。あと出来ないこともけっこうあって、食べ物や服や本は出てこないみたい。

 私は王座の裏の棚の扉を開けて、媒体になりそうなものを探してみた。


「じゃあ、子供の頃から使ってるこの櫛なんてどうかしら?」

「理想的ですね」


 ベウォルクトが何か合図をすると、ちょうど王座の正面の床が立ち上がり、腰の高さあたりで止まった。

「こちらに媒体を」

「ええ」

 私は手に持っていた桃色と白の花の絵が描かれた櫛をそこに置いた。

「それでは背筋を伸ばして王座に座ってください。心を落ち着かせて、穏やかな気持ちを心がけていてください。あとはレーヘンのときと同じです」

「うーん」

 私が心の中で思い浮かべると、台の上に置いた櫛が黒いもやもやとした物につつまれ、空中に浮かんで人の形になる。

 あら?

 しばらくして黒いもやが溶け去るように消えると、そこには人の姿をした存在が立っていた。背中を越える長さのゆるやかなカーブをえがく銀色の髪、アーモンド型よりちょっと尖っている目、低くもないけど高くもない鼻、血色の良い唇に、筋トレで鍛えたやわらかくあがる口角……

「って、私じゃないの」

 銀髪の、私そっくりの人物がそこにいた。

 着ているのは今まさに私が着ているのとまったく同じ細かい花柄の膝下ワンピースに、白いリボンで編まれたサンダルをはいている。


『はじめまして、ファムさま。わたしはあなたによって生み出された影霊です。よろしくおねがいいたしますわ』

 どうしてかは解らないけれど、影霊は口を開かずにそう言って、微笑みながら優雅にスカートの裾を持ってお辞儀をした。お上品だわ!

 それからお辞儀が終ったもう一人の私は、間をおかずに灰色の子うさぎになった。

 近寄って抱き上げると手のひらに乗る大きさで、すごくちっちゃい!

「はじめて創った影霊ですから、まだ身体が安定しないようですね」

「いいえ、この姿で合っているわ。私がお友達が欲しいって思って、それから動物ならいいなって思って、うさちゃんなら、なお素敵って思ったのよ」

「……姿はひとつの方が安定しやすいのですが」

 ベウォルクトがちょっと疲れたような声を出した。

 私、だいぶベウォルクトの感情に気付けるようになってきたわ!

「次からは気をつけるわ。で、影霊って何?」

 王座に戻って膝の上に子うさぎちゃんを乗せ、そっとなでてみる。暖かくて柔らかくって、ふわふわ……うふふ、かわいい……

「影霊は媒体を元に構成した精霊の一種です。王の間の機能として、一定量ファムさまの身体に瘴気が貯まったら、それを用いて影霊が創れるようになっているのです」

 じゃあこれからも定期的に影霊を創る事になるのね。

「ファムさまにしか出来ないことですよ」

 子うさぎちゃんの耳をそっと人差し指でつついていたレーヘンが微笑んで言った。

 鏡で確認すると、私の髪はすっかり黒髪に戻っていた。

 あはは、精霊なんて創っちゃったわ。


 子うさぎちゃんはハーシェという名前にしたわ。

 まだ身体が安定してないからか、最初の一言以来何も喋ってくれないけれどいつも私の後をとてとてと歩いて、とっても可愛い。


「ファムさま、以前話していた国外の情報収集の件ですが、使者に影霊を使うのはいかがでしょうか」

 私がハーシェを愛でているとベウォルクトがそんな事を言出した。

「アンタ、こんなか弱いうさちゃんに何をさせようっていうのよ!」

「ハーシェは現在のファムさまと同程度の記憶と知識しか持ち合わせていないので、旅に出しても危ないだけですよ」

 一応、分かるけど、ちょおっとはっきり言い過ぎじゃない? 国王舐めてる? レーヘン、んん?

「ハーシェではありません」

 私がレーヘンに文句を言おうとしたところで、ベウォルクトが言った。


 ハーシェには王の間でおるすばんしてもらい、私は列車に乗って随分と長い時間移動した先に連れて行かれた。

 床がぼんやりと光るだけなので、部屋全体がよく見えない。まるで空気そのものが固まっているかのように、肌にまとわりつく感じがする。慣れない感覚に私が身震いすると、レーヘンがどこからともなく取り出した暖かい灰色のショールを肩にかけてくれた。

「ここはどこなの?」

「過去の王達の霊廟です」

 ベウォルクトが奥に消えて、しばらくしてから小さな箱を持って来た。手のひらに乗るくらいの大きさで、光の具合で色がかわる綺麗な白っぽい布に包まれている。

「ファムさま。今回の影霊はこちらを媒体にしましょう」

「それってなに?」

「古の王です」

ハーシェ=野うさぎちゃんの意(多分)

オランダ語です。

猫と迷ったけれど、ウサギで。


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