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くろやみ国の女王  作者: やまく
第一章 国づくり
14/120

見つからない思いと消えない答え 1

 

 

 




「……ん?」

「どうしました」

「広場で異質な精霊の動きがありました。確認作業にはいります」

「その精霊の属性を最優先で調べて下さい」


「ヴィルヘルムス王、国民への挨拶の時間です」

「わかりました」

 ヴィルヘルムスはバルコニーから外に出て、彼を待ちわびた国民達へ国王就任の挨拶をした。冷静に、淡々と、適度な速度で喋り、早口になることも、言葉に詰まる事も無い。その内容は感動を与えるものではなかったが、聴く者に安心と信頼を抱かせるものだった。

 無事に挨拶を終えて手を振るヴィルヘルムスの耳元で、ささやく声がした。

「判明しました。闇です。人間の女性を抱えて広場から離れ、その後探知が途切れました」

「現場に案内しなさい」

「お、王、今夜の食事会の打ち合わせを……」

「任せます。しばらく休憩時間にしてください」

 ヴィルヘルムスは歩きながらマント、王冠と腰の飾りのついたサーベル、華やかな刺しゅうの入った上着を脱いで傍に控える側近隊に渡した。

「どちらへ……!」

「外です」


 先ほど人々の注目を浴びて演説していた人物が、まさか興奮冷めやらぬ広場に現れるとは誰も思わない。

 ヴィルヘルムスは広場の隅の、裏路地に立っていた。足元には、おびただしい血痕が残っている。彼は微動だにせずそれを見つめる。

「この血の持ち主を探知する事はできますか?」

「いえ……人物を特定することはできますが、探知が阻害されていますので、どこにいるのかは」

「かまいません。彼女かどうかの確認だけでも」

「わかりました」

「立ち去った闇の精霊の行き先には心当たりがあります」

 ヴィルヘルムスは淡々と言い、歩き始めた。

「ヴィルヘルムスさま、あなたはもう一国の王です。身辺の安全に気を配って下さい。……護衛に二等級精霊を五体つけますよ」

「ご自由にどうぞ」



 広場から南へ向かった先にある住宅街の片隅には、焼けただれた廃墟がある。そこには二日前の夜に現れたのと同じ黒髪の男が立っていた。

 あたりは夕暮れ色に染まり、男の無表情な顔に黒い影を落としていた。

 ヴィルヘルムスが仕掛けておいた結界は、またしても反応した様子がなかった。


「また君ですか。彼女をどこへやりました」

「どこへも。あの方はもうどこへも行きません」

 端正な顔を傾けて、男はひどく静かに言った。

 ヴィルヘルムスはわずかにだが、表情をゆがめた。


「その血は? 君のものではないでしょう」

 男の服は、あちこち赤茶けた色に染まっていた。見慣れた者ならば、それが乾燥した血液だとわかる。だが、男に怪我をした様子がない事から、それが誰か他の者の血であることは一目瞭然だった。

 男はヴィルヘルムスの言葉には答えず、うっすらと微笑みながら言った。

「いいんですかこんな所を出歩いて。約束も忘れてしまうくらい、とても忙しいのでは?」

「その血は誰のものだと聞いている!」

 ヴィルヘルムスは声を強め、走り出した。

 手にはめたグローブから、あらかじめ用意しておいた結界を発動させ、法術を動かす。


「目標へ向けて、“拘束と貫通”!」

 周囲に針金状の光の集合体がいくつも発生し、ヴィルヘルムスの声とともに男の身体へと飛んで行く。

 男は慌てる様子なく光の針を避けていくが、針達は男の動きに合わせて弧を描きながら追いかけ、数本が身体に突き刺さる。

 しかし身体に無数の光の針が刺さったにも関わらず、男の動きは更に加速する。

「そのまま“爆……くっ」

 一瞬の跳躍でヴィルヘルムスの前へ移動し、首筋には刃物が触れる気配がした。

 刃は男の手から伸びていた。よく見れば、両腕がそのまま銀色の刃へ変形しており、今すぐにでもヴィルヘルムスの首を刈ろうとしている。

 夕暮れの日差しを受けた男の腕が、一瞬光る。

「あの方の心を惑わせる存在がいなくなるというのは、とても素敵な案だと思いませんか?」

 ヴィルヘルムスの目をまっすぐ見据えながら、ささやくように男が言った。

 穏やかな声音に反して、男の青みがかった灰色の瞳は強く輝いている。


 だが、そう言った男は何もせずに刃物のようになっていた両腕を元の状態に戻した。

「ですが、どうもあなたを始末するの、かなり手間がかかるようですね」

 男の手足にはヴィルヘルムスが仕掛けた攻撃の他に、いつの間にか半透明な花びらのようなものがまとわりついていた。

「随分と大事にされているようで」

 男はヴィルヘルムスの周囲に浮かぶ五つの白い大輪の花のようなものを眺めて言った。

「そうでしょうね」

 ヴィルヘルムスは淡々と言った。


「あなたが探している人は生きています」

 男は赤茶けた色の封筒を掲げた。

「ですがもうこの国には帰ってきませんよ。すでに新しい居場所で楽しく過ごされています」

 それまでの冷静で、ゆらぎなかったヴィルヘルムスの雰囲気が一変する。瞳には、怒りがこもっていた。

「そんな血まみれの手紙を見せられて信じられるとでも?」

「信じる信じないは関係ありません。事実ですから。この国があの方の居場所を奪った以上、もう自ら戻る事はない」

 男は言いながら掲げていた封筒をヴィルヘルムスの前へさし出した。


「なにがあっても見つけ出します」

 封筒を受け取ると、黒髪の男は一歩後ろへ下がり、冷たい笑みを浮かべた。


「それはどうぞ、ご自由に」




レーヘンが頑張り(?)ました。



2018/02/22:少し手入れ。


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