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くろやみ国の女王  作者: やまく
第一章 国づくり
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消えない思いと見つからない答え 2

 

 

 

「うちから北の方角にはこの国の王宮があって、そこに面した広場は宮廷広場と呼ばれているのよ。そこで何かやっているみたいね」

「様子を見に行きますか?」

「……ちょっとだけ見てきましょう」

 私は万一ヴィルが来てもわかるように、手紙を燃え落ちた家の門の所にはさんで、宮廷広場の方へ向かった。

 レーヘンに抱えられて屋根伝いに向かうと、広場の方から大規模な騒ぎの様子が聞こえてきた。かなりの人が集まっているようで、音はどんどん大きくなる。

 屋根の上から見ると、広場は人で埋め尽くされていた。みな一同に王宮の方を向いている。


「王宮に何かあるみたいね」

 王宮のメインバルコニーから何人か人が立っているけれど、さすがに遠すぎてよく見えないわ。

「レーヘン、これ以上屋根伝いで広場に近寄ると目立つわ。下に降りましょう」

「わかりました。体に不調を感じたらすぐに言って下さいね」


 広場の隅に降り立ったとき、足元に号外新聞が落ちているのを見つけて、拾いあげた。

「新国王……」

「どうやらこの国の新しい王を祝っているみたいですね……ファムさま?」

 紙に印刷された写真の人物は、私がとても良く知る顔だった。

「まさかね、た、他人のそら似かもしれないじゃない……」


 そのとき、法術で拡大された声が広場に響いた。

『国民のみなさん』

 ちょっと低くて甘い音。私の、大好きな声だった。

『本日は祝って下さりありがとうございます……この国の国王となったヴィルヘルムスです……』


「ヴィル……ヴィルヘルムス王、即位……」

 足元が崩れ落ちるような感覚がした。

 私は王宮を見上げた。私が待っていたヴィルは、今、あの遠くの、バルコニーに立っている。

 人々をかき分けて、前へ進もうとした。

 こんな群衆の中で、ちっぽけな私なんて見えるわけがない。

 けれど、歩く足が次第に遅くなり、横へ逸れ、私はうつむきながら広場の隅の路地へ入った。

 胸が熱くなり、いきなりこみ上げて来る物があった。

 耐えられなくなって、足元の地面に吐き出した。

「げほっ、かはっ」

 それは大量の血の固まりだった。

「ファムさま!」

「じ、時間切れみたいね……」

 一瞬にして、私の体は震えが止まらなくなり、喉の奥からはどんどん熱い血の固まりが溢れ出て来た。

「ゲホゲホッ、と……とりあえず家まで戻るわよ、レーヘン」



 焼け跡の家に戻ってくると、私は焼け残った門に背を預けるようにしてしゃがみ込んだ。

「手伝ってくれる者がいます。すぐに連れて来るので、落ち着いて待っていて下さい」

 そう言うとレーヘンはどこかへ走って行った。


 私は時折咽せそうになるのに耐えながら、気持ちを落ち着けるつもりで昨日のやり取りを思い出していた。




 お城の案内に疲れたので王の間に戻って休んでいると、ベウォルクトが丸い球体に絵と文字が沢山書かれているものを持って来た。

 手渡されて私も持ってみると、両腕に抱えるほど大きいのに、とても軽かった。

「これは世界地図です」

 触ってみるとただの球体じゃなくて、山や平野のような地形が凹凸で再現されている。

「私、世界地図って初めて見たわ。へえ、この世界ってこんな丸い形しているのね! なんでみんな落っこちないの? 空や雲や太陽はどこにあるの?」

「……そちら方面については、また追々説明します」

 なんだか今ベウォルクトに可哀想な目で見られた気がするわ。布越しだけど。


「ちなみにファムさまが持っているのが今の人間社会で一般的に出回っているもので、こっちが精霊達で作った人類未公開版です」

 そう言ってレーヘンがもう一つの地図を出してきた。

「そんなの私が見ちゃっていいの?」

「今の所、数で言うとこの国は精霊が多いので、大丈夫です」

「多いっていっても一対二だけどね。それにしても、国の数や地形がずいぶん違うみたいだけど」

「くろやみ国のように、人々の間では存在が忘れられた国や、人間の国ではないものなども載っていますからね」

 星の亀裂やら忘却の穴なんていう、あきらかに胡散臭うさんくさい名前が地図のあちこちにあったけれど、見なかった事にしましょう。


「この国はどこにあるの?」

「ここですよ」

 ベウォルクトが指差した所は海だった。

「なにもないじゃない」

「人間版ですから記録から抜け落ちているのです。おなじ場所を精霊版の方で見つけてみてください。そちらにはちゃんと載っていますよ」

 私は精霊版の地図に持ち替えて、ぐるぐるとまわしたあげく、ようやく見つけた。ちゃんと卵くらいの大きさの島があり、「暗病国」の文字が書かれていた。

「島国なのね! この国」

「昔はもっと国土があったのですが、沈んでしまったんです」

 レーヘンが青灰の瞳をちょっと陰らせて言った。

「国の名前が変更されてません……」

 ベウォルクトが地図上の海の一箇所を押し、何かつぶやくと「暗病国」の字が「くろやみ国」に置き換わった。

「わお」

「今ので他の場所にある世界地図でも国名が更新されました。といっても精霊版ですから、知るのは精霊がほとんどですが」

 地図ってすごいのね!


「私、いろんな国が書かれた地図って初めて見たわ。へぇ、白箔国はっぱくこくってこんな所にあったのね。くろやみ国とは、海と青嶺国しょうれいこくを挟んでいるのね」

 レーヘンが一点を指差した。

「ファムさまがいたのは白箔国のこのあたりですよね」

「ええそうよ。王都のはずれの街よ」

「白箔王はいるのですか?」

 ベウォルクトが言った。

「いるわ、見た事はないけれど、高齢だからそろそろ退位するってずっと前から噂になっていたわ。子供が沢山いるから次の王様選びが大変だろうって」

「長子が継ぐのではないのですか?」

「それで過去に何人もの子供が殺されたらしいから、王様や偉い人達が出来がいい子を選ぶようになったらしいの。でも、今は一番の有望株がずっと拒み続けているって話だったわ」




「選ばれたのね……ヴィル。おめでとう」

 あなた貴族じゃなくて王族だったのね。

「お祝い、直接言ってあげたいけど、ごめんね」

 遠い喧噪を背景に静かな裏路地で一人で血を吐いていると、いままでこらえて来た悲しさと寂しさが溢れ出て来た。

 汗が止まらないのに、寒くてたまらない……


2018/02/22:少し手入れ。

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