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くろやみ国の女王  作者: やまく
第七章 国内騒動
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精霊と 2

  

 

 

「さあ、帰りましょう」

 立ち上がってワンピースについた砂を払い落とし、掘り出した水色の髪の精霊を抱きかかえ、ベウォルクトに声をかける。

 次に自分の身体にまとわりつく数本のリボンの中から銀色のものを掴んで引っ張る。合図が届くと残りのリボンは消え、すぐ目の前に見覚えのある空が映り込んだ湖が現れた。

「うえぇ、またこれなの」

 恐る恐る湖面を覗き込んでいると、ベウォルクトが隣にやってきた。

「今回はワタクシもご一緒しますよ」

「それは心強いわね、ひゃっ」

 闇の精霊は片腕で私を軽々と抱えあげ、もう片方の腕で水色の髪の精霊を脇に抱えた。相変わらず力持ちね!

「しっかり掴まっていてください。目は閉じないで」

 私があわてて布で覆われた頭を抱えるようにしがみついたのを合図に、ベウォルクトはそのまま湖に一歩を踏み出した。


 落下するのは二度目なので、緊張しつつも足元に広がる景色を観察していると、地図で見た地形を発見できた。あのやたら雲に覆われているあたりがたぶんうちの国で、そこから近い大陸の方にあるひときわ大きな山脈があるのが青嶺国だから、あっちの山が多い方が赤麗国で、青嶺国を挟んで赤麗国と反対側にあるのが白箔国のはずで……えっ、いま見えたのは……


「レーヘン!」

 べウォルクトが足元に向け声を張った。

 落下の勢いが一気に増し、私はベウォルクトにしがみつく。私達の足元に見える、海の上のやたら雲の多い場所がどんどん近づいてくる。外海と銀鏡海の境目もわかるようになってきた。

 身体がバラバラになりそうだと思った時、左腕を強く引っ張られる感覚がして、どこかに放り出された。



 そっと目を開けると、見覚えのある色が見えた。銀で縁取られている、とても良く知っている青みがかった灰色の瞳。

「……ただいま」

「おかえりなさい、ファムさま」

 額がつきそうなほど近くからこちらを覗き込んでいる闇の精霊に声をかけると、そっとささやくように、穏やかな挨拶が返ってきた。

 お互いそのまま動かず、王座に座ったままの姿勢で私が二回まばたきをすると「全部戻ってきていますね」と言い、離れていく。

 続いてレーヘンはとても真剣な顔つきで私の首に触れ命脈の様子を調べ始めた。右腕だけをあげて手をゆっくり動かしてみる。

「私は無事に帰れたのね?」

「はい。彼女がいてくれたので疲労も想定より軽いです」

 王座の隣を見ると、私の左手を握って立っているシュダがいた。目が合うと様々な色が混ざった髪を揺らし、優しく微笑む。

 最後の、あなたが引っ張ってくれたのね。

「ありがとうシュダ」

「わたしがお役に立ってよかったです」

 精霊界から戻ってくる時は誰か人が立ち会っていた方がいいというので、居残り組にシュダが名乗りを上げてくれた。

「レーヘンも、ありがとう」

 そう言うとレーヘンはようやく微笑んだ。

「はい」


 あとで協力してくれた他の精霊達にもお礼を言わなくちゃね。

「さぁレーヘン」

 ゆっくりと立ち上がり、こちらを伺うように見てくる精霊に私は笑顔で窓際の空間を指さした。

「ちゃんと連れ戻してきたわよ」

 その先にはベウォルクトが立っていた。いつもどおりの、顔を布で覆った姿で。

 近づいてみると全身のところどころがキラキラと銀色に光っている。身体を再構成している途中らしい。

「その格好は変わらないのね。顔が覆われているのも」

「いまさら顔面を造っても、皆さんにワタクシだと分かってもらえないでしょうから」

 相変わらずのすました物言いに嬉しくなる。

「また改めてよろしくね、ベウォルクト」

「はい。こちらこそ、ファム様」

 ベウォルクトの両腕には水色の髪の精霊。見ると王座前の台に置いてあったはずの、精霊兵器から引っ張り出した方の身体は消えている。

「本当に中身を見つけて来ちゃったんですか」

 レーヘンが呆れた声を出しながらも、ぼろぼろの精霊の身体をベウォルクトから受け取って台の上に改めて置いた。

「もちろん。さあ、少し休憩したら準備に入るわよ。ベウォルクト、そのままでいいから今の国の様子を説明するから聞いてちょうだい」

「わかりました」

「わたしは軽食を用意してきますね」

「ありがとう、お願いするわねシュダ」



「このゼリー、美味しい!」

「よかった。ライナさんの助言のおかげです」

 窓際に机と椅子を出し、シュダと一緒に果物と花のゼリーを食べる。様々な色が層になっているゼリーは中に食用の花が入っていてとても綺麗。以前は味が薄かったけれど、上から煮詰めたシロップをかけることで甘さが増している。

「そういえばレーヘン、今回は食後に薬を飲まなくていいの?」

「ここではそういった処置は必要ないですよ」 

 王の間だと私への負担は本当に少ないらしく、シュダのおかげもあって船の上の時のような薬を飲む必要はないらしい。

 ゼリーを完食していつもの香草茶を飲みながら、レーヘンが向かいの寝椅子に横たわる身体に薄い布を掛けているのを眺める。

「それって毛布じゃなくていいの?」

「これはほこり避けですから。ベウォルクトと会話しますか? なら首元までにしておきますね」

「もしかして全身覆うつもりだったの?」

「このまま数日はこの状態ですよ」

 ……置物っぽくなるのは怖いから後で毛布と枕を持ってくるわね。


「ベウォルクト、アナタ大丈夫?」

「……はい」

 力の入らない声ね。精霊の表情は見えないけれど、さっきから寝椅子の上でぐったりと仰向けになったまま動かない。

「レーヘンが齧られたのと、錆精霊と、私が陥っていた状況と、一体どのあたりに驚いたのよ」

 国への襲撃や城の状態についてはわりと落ち着いて聞いていたけれど、海の上での騒動の話をすると復活したばかりの精霊は倒れてしまった。

「全部です……ああ、確かにうちの精霊の登録情報がおかしい……」

「アナタが勝手に接続解除するからですよ。そこらへんの整理はベウォルクト側から触ってください。ワタシの情報は錆精霊にも使われてしまっているので」

 レーヘンが珍しくベウォルクトに小言を言っている。

「国精霊の方はしばらくワタシのみでやってみせますから」

 頼もしくなったわね!


「ところで先程から気になるんですが……」

 ベウォルクトの顔はレーヘンから私、それから様々な色を含んだ不思議な髪の女性に向かう。

「シュダ? あのシュダですか?」


久しぶりの更新です。よろしくおねがいします。

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