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くろやみ国の女王  作者: やまく
第七章 国内騒動
108/120

大空騎士団と 3

ご無沙汰しています。久々の更新です。

 

 

 

「いいんすか隊長。団長をあんな使い方して」

「ああ? いいんだよあれで。本人も久々の実戦で喜んでるだろうが」

 ジェスルが部下にぶっきらぼうに返事をする。この規模の集団を指揮するのは彼にとっても初めてのため、あまり余裕がない。

「よしエクレム、お前ちょっと団長達のところに伝令行って来い」

「そんな! 俺は事務処理担当で、戦闘には向いてないっす! ユミットでもあんなに苦戦してる所に行ったら死にますって!」

 ユミットはエクレムと同じジェスルの直属の部下で、剣の腕は騎士団内でもひと目おかれる実力を持つ。エクレムが怒鳴りながら示した先ではそのユミットを含め腕に自信のある騎士団員達が必死に団長と“くろの騎士”の激しい戦闘に追いつこうと駆けまわっている様子が見えた。

 

「別にお前に攻撃に参加しろとは言ってねぇよ。全力で自分の身を守って、あそこにいる奴らに俺の言葉を伝えてくるだけでいい。あの距離だと俺の法術が届かないからな」

「……それどうやって戻ってくるんすか」

「んなもん自分で考えろ。向こうは『一体』だけなんだぞ! って、ああ!」

 ジェスルが声をあげると同時に騎士達が吹き飛ばされ、見事な放物線を描きながら空を舞う。 

「着地点に救護行ったな?! くそっ、法術で足止めできてねぇじゃねぇか!」

「あの精霊とまともにやりあえてるのって団長と“くろの騎士”くらいじゃないっすか。これ死人が出ますよ!」

 大空騎士団とくろやみ国の合同演習場として選ばれたのはそこそこの規模のある小島だが、全体で戦闘が起きているわけではなく、常に一箇所で行われていた。

「それを出さないようにするのも演習の目的だ。そのために副団長に後衛にまわってもらってんだからな」

 ジェスルが後陣で遠隔防御と結界の維持役に徹しているユリアを示す。

 “くろの騎士”もといズヴァルトが大空騎士団側になると知った時はジェスルも驚いたが、それでも錆精霊一体に対して足りない戦力だと思い知らされ、なんとか逆転できないかと策を展開しているがことごとく打ち砕かれている。

「なんであの精霊は精霊術が効かねぇんだ……」

「人間の術は大体知ってるんだそうです」

「うぉわ! お前いつの間にきた」

「ひっ、く、“くろの騎士”!」

 海水混じりの砂と共に目の前に漆黒の甲冑が落ちてきて、ジェスルは思わず剣を構え、エクレムは上司にすがりつく。

「だいぶふっ飛ばされてきたみたいだが、大丈夫か?」

「俺は平気ですし、錆精霊は残った団員とエシルが引き受けています」

 さきほど大空騎士団員達と共に錆精霊に吹き飛ばされたのだろう、空中で姿勢を整えたらしく綺麗に足から着地したズヴァルトはそのままの流れでジェスルに話しかけてきた。まったく息が乱れていないどころか余裕もあるその様子に、ジェスルにしがみついたままのエクレムが顔を青白くする。

「あの精霊は法術や精霊術についてかなりの知識をもっています。方法はわからないんですがそういったものは自分で解除できるそうです」

「……そういう事は早く言え!」

「すみません。あと、もう一つお伝えしたいことが」

「なんだよ」

「うちの国の者がそろそろ動く頃なんで気をつけたほうがいいです」

 ズヴァルトが指し示す方向を見れば、マルハレータの姿が目に入る。彼女はジェスルも知らない何かしらの法術で海面の上に直接立ち、風にあおられる銀髪をそのままに両腕を組みこちらを見ている。そして右手で何か術を動かしている気配。

「……あいつは攻撃に参加しないんじゃなかったのか?」

「そうなんですが、それは『島を守る結界の内には入らない』のと『どちら側にもつかない』という取り決めだけで、始まる前に『暇つぶしに何かするかもな』と言っていたので、あの、そろそろ来ます」

 ズヴァルトの言葉がまるで合図だったかのように、突如騎士達の叫び声があがる。見れば錆精霊とそれを取り囲む騎士達とは別の場所で天高く砂の柱が立ち上がっている。

「……! 後陣生きてるか? 体勢立て直して次に備えろ!」

 ジェスルは素早く腕の連絡器に怒鳴った。





 ローデヴェイクはくろやみ国の移動船の船首部分の縁に腰掛け、釣りをしていた。

 船の操作はフツヌシの担当で、周囲の警戒と監視は船尾にいる鳥達とシメオンが分担している。マルハレータは先程から海の上で演習の様子を監視中。ローデヴェイクにはすることがなかった。

 彼にとって戦場にいるのに役割がないというのは初めての体験だった。手持ち無沙汰で、周囲には海しか無く、その結果思いついたのが釣りだった。マルハレータが用意した特製の釣り竿と糸はとても頑丈で、“ちょっと腕力が強め”のローデヴェイクにも使いやすい。試しに朝食の残りのパンくずを餌にすればすぐさま小魚を釣り上げた。この辺りはなかなか良い漁場らしい。次にその小魚を餌にしてほどほどの大物を釣り上げ、さらにそれを餌にして最終的に自分の身体の三倍ほども大きさのある巨大魚を水面から引っ張りあげると、甲板に重い音を響かせながら投げ出した。

「釣れたぞ」

 勢い良く跳ねる赤と青の鮮やかなまだら模様の巨大魚を前に、横で見学していたライナがローデヴェイクを見上げる。

「ローデヴェイクさん、これ大きすぎです! さっき釣ったのよりも大きいです!」

「またそれかよ。切り分けりぁいいだろうが。そこの竜も食うだろ」

「私達だけじゃ食べきれません! それに、ゲオルギは野菜の方が好きなの!」

「別に食えねぇ訳じゃねぇだろうが。なぁ?」

「ギュルルルル!」

 ローデヴェイクが竜に話しかけるが、そっけなく顔をそらされてしまう。

「もう! もっと小ぶりの、美味しそうなのも釣ってください」

「ちっ、わかったよ」

 ライナに下から睨まれたローデヴェイクは低い声で答えると、甲板に転がしていた釣り竿を持ちあげて釣りに戻った。

「……大空騎士団の人達、食べてくれるかな?」

 ライナはそうつぶやきながらゲオルギと協力してローデヴェイクが釣った巨大魚を甲板中央のいけすまで引きずっていく。


「ナハトさん、海水がはねるのでよけてください!」

 いけすの脇にしゃがんで中を覗きこんでいたナハトがいそいそと離れると、ゲオルギが身体で魚を押し込む。

「ありがとうゲオルギ。なんとか入ったね」

 ライナがいけすをのぞき込むと、隣にナハトがやってくる。

「本当に海にはいろんな魚がいますのね」

「あの魚とあの魚は兄さんがよく取ってきてくれたのと同じ種類です。今日の晩御飯にしましょう、ハーシェさん」

「はい」

 黒い霧のヴェールをまとったハーシェが頷いて、それから上を向いたので、ライナも一緒に見上げる。青く広がる空には綿を大きくちぎったような雲が浮かび、数羽の海鳥が飛んでいるのが見える。今日は風も穏やかで、すこし湿り気を帯びた空気がライナの羽を撫でていくのはなかなか楽しかった。

「ファムさま達、そろそろかなぁ」

「きっと大丈夫ですよ」




「イグサ族が全員城を出ました。城内の国民の反応も無し。ファムさま、準備ができました」

「ありがとうレーヘン。さあ、始めるわよ」


2020.05 テキスト少し修正。

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