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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
101/120

庭掃除 1

 

 

 

「はぁ? そんなもん全部まとめてぶっ潰せばいいじゃねぇか」

 マルハレータと同じ事をローデヴェイクが不満そうな顔つきで言う。

「それじゃ駄目なんだと」

 隣に立っていたマルハレータがローデヴェイクのふくらはぎあたりを蹴り(凄く痛そうな音がした)、よろめいた所で顎を掴んで引き寄せる。

「おれじゃ全部消しちまうから、お前がやれ」

「……わかった」

 ローデヴェイクがじっとマルハレータを見つめ返し、それからこちらを見た。

「女王、この城の動力炉を貸してくれ。こいつの動力に使いたい」

 そう言ってローデヴェイクは背中に担いでいた持ち手付きの黒い板状の物体を前に掲げた。マルハレータの私室に保管され、動かないまま旅に持っていっていた彼の武器。

《フツヌシと申します。以後お見知りおきを》

 喋った!

「修理して動くようになったのね。フツヌシさん、こちらこそよろしくお願いするわね」

 ところで動力炉を貸すって、いくつ必要なのかしら?

「使うのは二つで充分でしょう」

 王座の傍に控えているレーヘンが答えてくれる。

「ファムさま、フツヌシと城とを接続しますので座ったまま片手を出してください」

 言われるままに左手を前に差し出すと、レーヘンの合図でローデヴェイクが王座に歩み寄り、フツヌシを逆手に持ってこちらに差し出してくる。

「指一本だけ触れてください。それ以上だと中の回路が持たないので」

 言われた通りにおそるおそる人差し指で触れると、そこを起点としてフツヌシの表面に何本もの光の線が走る。

「慎重に利用してくださいね。アナタは城のシステムと源流は同じですが造られた時代がだいぶ違います。まずは通常の五十分の一くらいから試してみてください」

《了解した》

 レーヘンがフツヌシに語りかけ、次にローデヴェイクを見あげる。

「くれぐれも本体を精霊に触れさせないようにしてください。追々調整すれば問題ありませんが、今の段階だと精霊との接触は情報量が多すぎて故障の原因になります」

「気をつける」

 レーヘンがローデヴェイクとフツヌシを動力炉まで案内し、マルハレータが残った。

「仲は良好みたいでよかったわ」

「まあな」

 マルハレータは軽く視線を逸らした後、こちらを見た。

「こういった条件付きの防衛戦だと、あいつはおれ以上に役に立つ」

「ええ、信頼してるわ」

 あなたが頼りにする男ですもの。

「これからの皆の動きはあなたに指揮を任せていいかしら? マルハレータ」

「ああ、引き受ける。妥当だろうな。あんたは戦いにはまるで向いてない」

「こちらをどうぞ」

 マルハレータはハーシェから上位の認識票を受け取ると左手のグローブに取り付け、具合を確かめるように何度か指を開いて閉じるを繰り返す。

「その認識票でサヴァの鎧や他の影霊の子達と連絡ができるようになるわ。あとは城との通信も優先的に使えるようになるから」

「わかった」

「私達であと準備しておくことはある?」

 マルハレータは一度窓の外から海の方を見た。

「海の方は問題無いが、この城は別枠で守っておいた方がいいな」

「それなら考えているわ。結界で覆う予定なの」

「結界?」

 せっかく契約したんだし、使える人材はしっかり使わないとね。


「お連れしました」

「これは見事な光景ですね」

 王の間でマルハレータと打ち合わせを続けていると、騎士服のサヴァに案内されてヴィルがやってきた。二人は私達が空中に出していた海図などの半透明のデータ画面の隙間を縫うようにして王座まで歩いてくる。

「お疲れさま。結界の準備は順調?」

「ええ。材料に必要だった霊晶石、しかも土地の気質に合ったものを充分用意していただいたので問題なく作業できています。城を囲む陣を敷き終われば起動させて完成です。今はジェスルと、補助にシメオンが参加してくれて作業を続けています」

 穏やかな口調でヴィルが説明してくれる。王様の格好をしていないからか、かつてのように会話ができているわ。

「ありがとう。引き続きお願いするわね。それで、結界の強度について話し合いたいのだけれど……」

 私が言葉を切ると、それまで黙っていたマルハレータがヴィルに向き直る。

「よう」

「……どうも。その節はお世話になりましたね」

 マルハレータを見たヴィルは片眉をあげた。あんまり良くない反応ね。

「今回の総指揮を担当するマルハレータだ。あんたが結界の担当?」

「そうですが」

 マルハレータが一瞬王座に座る私とヴィルの隣にいたサヴァを見て、それからグローブに包まれた右手を前に出した。

「ヴィル!」

 マルハレータの右手周辺の景色が歪み、それが一直線にヴィルへと向かっていった。

 ヴィルは私の声に反応してマルハレータの攻撃より一瞬早く両手を前にかかげ、マルハレータの放ったものを金色の光の網のようなもので防ぐ。

 ヴィルの光の網がまぶしく輝き、思わず目をつぶる。

 再び目を開くとマルハレータもヴィルも手をおろしていて、二人の間にはヴィルをかばうようにサヴァが割り込んでいた。

「大丈夫?」

「ええ。驚きはしましたが」

 駆け寄りたくなるのをこらえてヴィルに声をかければ、普段通りの声が返ってきた。

「もう、いきなりだったから驚いちゃったわ」

「手っ取り早くていいだろ」

 そう時間もないからなとマルハレータは言うと、サヴァを押しのけヴィルの前に立つ。

「結界の強度は最低でも今の十倍、いや三十倍が来ても防げるものが必要だ。質は均等に、まんべんなく全方位から防御できるように調整しろ。この城を覆う規模でそれが出来るか?」

 ヴィルの昏い金色の瞳がマルハレータの重い灰色の瞳を見つめ返す。

「可能です」

「陣の設定もできる限り最高のものにしろ。あんたの考える最大級の攻撃の、その上が来ると仮定してだ」

「相当な荒事になるようですね。どんな事をするつもりですか?」

「見てのお楽しみだ」

 そう言うとマルハレータはどこか楽しげに微笑む。

「……わかりました。尽力しましょう」

 ヴィルは先ほどマルハレータからの攻撃を受けたグローブに包まれた両手を眺めると、表情は変わらずに、けれどしっかりと頷いた。

「ファム、急ぎで追加の陣が必要なので私はジェスル達の所へ戻りますね」

「ええ。引き続き作業をお願い。気をつけてね」

「はい」

 ヴィルはこちらを見て一度柔らかく微笑むと、すたすたと扉へと向かう。

「あ、お供にブルムとサユカを連れて行って!」

 私の声に王座の傍らにいた二羽が飛び立ちヴィルの後を追った。


「あの、俺は」

「お前は居残っておれ達と打ち合せだ」

 戸惑っていたサヴァの襟元を掴んでマルハレータが引っ張ってきた。


 打ち合わせを終えたサヴァが鎧の準備に行き、入れ替わるようにしてレーヘンとローデヴェイクが戻ってくる。

「先ほど王の間で物騒な事しませんでした?」

「ちょっと風が吹いただけだろ」

 レーヘンがひんやりとした声でマルハレータに尋ねるが、彼女はするりとはぐらかすとローデヴェイクに認識票と、もう一つ小さい認識票を投げつける。

「通信機も兼ねてる。ぶっ壊すなよ」

「ああ」

 受け取ったローデヴェイクはバッジの方を自分の襟元に、小さい方をフツヌシの持ち手部分の端に取り付ける。

「フツヌシの準備は出来たかしら?」

「はい。城の動力炉二つは当分休眠状態になりましたが、今回は城の機能をたいして動かさないので問題はないでしょう」

《存分に働きまずそ。しっかりと動力を補充させていただきましたからな》

 レーヘンの言葉に続いて、先ほどよりも力強くて満足気なフツヌシの声が返ってきた。


「ところでレーヘン、錆精霊のオジサンとの連絡はどうだった?」

「一応出来ましたが……意味が通じたのかどうか」

 王座の傍まで戻ってきたレーヘンがちょっと自信なさげに言う。

「……私の言ったとおりに伝えてくれたのなら、大丈夫よ。多分」

 もし駄目だったとしたら他の皆で頑張りましょう。



「さあ、これでひととおりの準備は出来たかしら?」

 お城のシステムを経由して全員の配置、とりわけ非戦闘員が安全な城内にいるのを確認してから既に外で待機しているマルハレータに問いかける。

『ああ。そろそろ始めてもいいだろ』

「それじゃあ庭掃除を始めましょう」


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