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くろやみ国の女王  作者: やまく
第六章 国への襲撃、防衛戦
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反撃 2 ー帰還、着替えー

  

 

 


 くろやみ国との通信を終えしばらく経った黒堤組のカラノスが船橋で海図を見ていると、部下が船の接近を知らせてきた。

「所属は?」

「大空騎士団の旗艦です。面会を求めてきています」

 海の上で直接会うのは珍しい相手だったので、不思議に思いつつカラノスは了承の返事をすると甲板に向かい、小舟でやって来たさらに意外な人物を見て片眉をあげた。

「こんなところに何であんたがいるんだ?」

「玄執組を追ってきてね」

 海風に紫の髪をなびかせてカラノスに微笑みかけてきたのは大空騎士団団長のエシルだった。

「騎士団あげての大捕り物って訳か?」

「ああ。大陸で追いつめた輩ごと海に逃げられてね。そのまま追いかけて来た」

 カラノスはエシルの背後に見える大空騎士団の大型戦艦を観察する。

「戦闘でもやったのかい? だいぶ損傷しているようだが」

「出がけに少々。ユリアが頑張ってくれたから大事にはならなかったが。ああちなみに彼女は艦で休んでいるから顔は見せられない」

「そりゃ残念だ」

 相変わらず特定の人物に関する事だけは心が狭い騎士団長に内心苦笑しつつ、カラノスは気にする事無く話をすすめる。

「それで、ご依頼は船の修理と物資の補給で?」

「加えて小回りの効く船の部隊を借りたい。なるべく頑丈なものがいい」

「大空の船だけじゃ手が足りないのか?」

「どうもそうなるらしい。遭難中の部下から連絡が入った。玄執組の目的地はくろやみ国らしいんだが、占拠される前に追いつかないと……」

 そう言ってエシルが騎士団の制服の胸ポケットから何かを取り出す。よく見ればそれは見覚えのある金色の人工精霊の小鳥だった。カラノスの眉間に皺が寄る。

「……なんであの王様の鳥がここにいるんだ?」


 二人が話していると、突如黒堤組の古い通信装置が立ち上がる。

『えー、こちらくろやみ国代表のナハトです。この通信は近海にいらっしゃる方々に強制的に通達しています。もう間もなくすると我々は海上の敵船の鎮圧を開始いたしますので、関係のない船は撤退をお願い致します。もし万一この放送が受信できる範囲にいて、かつ撤退なさらなかった場合、その後生じるいかなる損害もご自身の責任としてお考えください。もう一度繰り返します……』

 一方的な通達が終わると、通信は自動的に終了した。

 カラノスはにやりと笑った。

「あいつらついにおっ始めるのか。おい、ここからもっと離れるぞ。全船に通達しろ」

 カラノスが側近に指示を送ると同時に、エシルの元にも部下がかけ足でやってくる。

「そうだな、一番頑丈な小型船に一班だけ残して、後は黒堤組と同じように下がろう。結界を動かせる者には防御壁の用意を」





 サヴァはゲオルギと共にマルハレータが捕らえた玄執組の人間たちの回収をしていた。

 彼らは皆強制的に眠らされた状態だったので抵抗されることもなく、ただ拾い集めていくだけの単調な作業なので、サヴァは生身に黒い騎士服を着ている。久々に肌に感じる風が心地良い。今まで着ていた漆黒の鎧は装備の調整中だ。

 捕虜を乗せるカートを引いているゲオルギもサヴァと久しぶりに行動を共に出来るのが嬉しいらしく、尻尾がゆらりゆらりと左右に揺れている。

 ご機嫌なゲオルギを撫でつつ、ふと海の方を見れば灰色の水平線上にちらほらと船影を肉眼で確認する事が出来た。敵船団は既に島をぐるりと囲んでいるため、どの方角を見ても同じ光景だった。

 くろやみ国周辺の銀鏡海は本来なら渡るのが難しい海だが、玄執組はその独自の技術力を駆使し、時間をかけつつも島を目指しており、見た目ではわかりにくいが着々とこちらへと接近している。

 彼らが転移門経由で先行してきた潜入組が既に失敗していると知っているかわからないが、敵船の数からして、おそらく潜入組が失敗しても問題ないほどの戦力が準備され、くろやみ国を侵略しに来ているのだろう。

 自国の存続が脅かされつつある光景を目の前にして、サヴァは不安といった感情をまったく抱いてなかった。この国はそんなに弱くない。


 ゲオルギが何かに気付き海とは反対の方へ視線を向ける。サヴァが同じ方向を見ればマルハレータがこちらへ歩いてくるのが見えた。

「回収は済んだか」

「索敵に反応のあった分は終わりました。後は収容室に運ぶだけです。そちらは?」

「転移門の向こうはぶっ潰してきた。向こうに知り合いがいたから捕まえた奴らはしばらく任せてきた。こっちが落ち着くまでな。転移門は凍結中だ」

 ポケットに両手を突っ込み、海を見ながらマルハレータが答える。水面を見つめたり、空を見上げたりと視線が定まらない。

「何か探しているんですか?」

「ああ、そろそろだと思ってな……下がれ!」

 マルハレータが突然警告の声を発する。

 突然目の前の海が盛り上がり、黒い塊が波しぶきをあげて飛び出してきた。岩場に着地し、ゆっくりと起き上がったのは人の形をした何かだった。

 マルハレータは動かないが、ゲオルギは警戒しサヴァは数歩前に出て迎撃体勢にはいる。


 漆黒の人の形をしたものはサヴァ達に向かって攻撃する様子を見せず、その場から動かずに身震いする。すると黒い影のような表面が震え、溶け落ちた。中から出てきたのは大きな体躯に銀髪、ぎらつく灰色の瞳をした男。マルハレータの片割れことローデヴェイクだった。

 ローデヴェイクは影から開放されると疲れた様子で膝に手をつき、荒く息を吐く。上着はずいぶんとボロボロになっていたが本人に怪我はなさそうだった。

「あの」

 サヴァが声をかけると、姿が目に入ったらしく苛ついた気配をまとい大股歩きで近づいてくる。

「あの女はどこにいる!?」

 掴みかからんばかりの勢いで睨んでくるローデヴェイクはいつにも増して凶悪な顔つきだったが、サヴァは「どうも機嫌が悪いみたいだな」とどこか呑気に思いつつ自分の背後を示す。


「ずいぶん遅かったな」

 ローデヴェイクはマルハレータに気付くとすぐさま駆け寄り、胸元を掴みあげて怒鳴りつける。

「あんた一人で先行するなっつったろうが!」

「ああ? 何のことだ? 覚えてないな。追いつけないお前が悪いだけだろ」

 ローデヴェイクの手を振り払いながら、ふんとマルハレータは鼻で笑う。

「ちっ……途中で変な奴に絡まれたんだよ!」

 悪態をつきながらもローデヴェイクは説明する。

「相手は殺してないだろうな」

「あ? おう、今の女王の指示は守ったぞ。それに向こうの障壁が頑丈で全部ぶち壊せなかった」

 ローデヴェイクの言葉に、マルハレータは片眉を動かし意外そうな顔をする。

「へぇ、フツヌシを使ってもか? そりゃあ面白い。この時代でそんなものがあるなんてな」

《やれやれ、遭遇した身にもなって欲しいがね》

 突如彼らの会話に知らない声が混じり、サヴァは辺りを見回したが、マルハレータとローデヴェイクの他に人影はない。

「ご苦労だったな」

《道具としての面目丸つぶれだよ》

「あの、今の声は?」

「あー、こいつだ」

 サヴァの問いかけにローデヴェイクが答え、手に持っていた漆黒の縦に長い物体を持ち上げる。一見大剣に見えなくもないが、刃がなく、持ち手に変な凹凸があり、象眼が一箇所だけ目立つ他は装飾が極端に少ない。

《はじめまして、竜の青年》

 声は掲げられた漆黒の物体から聴こえた。

「……何者ですか?」

「俺様の武器だ。この時代じゃ機甲器と呼ぶもんらしい」

《フツヌシだ。よろしくしてくれたまえ》

「えっと、サヴァです。こちらこそよろしくおねがいします」

 喋る武器という異様な相手だったが、これもくろやみ国が管理する過去の遺産関連の存在なのだろうと判断し、サヴァも自己紹介をした。





「そう、戻ってきたのね」

 マルハレータからの連絡に耳を傾ける。

「ええ、ええ、そうしてちょうだい。疲れてるようなら休息をとって、それから王の間に来て」

 連絡を終えて、ほっと一息ついて温かいお茶を飲む。

 これで全員が帰ってきたわね。


「ファムさま、例の術士として借り入れた男の準備が整ったようです。ただ今シメオンの案内で控えの間まで来ています」

 傍らに立つレーヘンの報告に思わず背筋が伸びる。

「そう、じゃあそのまま王の間に通してちょうだい」

「わかりました」

 レーヘンに合図を送ると扉が開き、彼が入ってきた。

 

 その姿を見て、思わず言葉をかけるのも忘れてじっと見つめてしまった。

 用意しておいた服に着替えたヴィルがこちらを向いて立っている。白箔王の上着より数段簡素な黒の上下に、黒のブーツ。陽の光が差さないこの国では白金色の髪はやや重い色合いになり、小麦色の瞳もより深みが増して見える。

 窓に見える曇り空と枯れた大地を背景に色白の肌は黒に映えていて、もの静かな様子も城の雰囲気にしっくりと馴染み、白箔王の衣裳の時とはまったくの別人に見えた。

 正直に言って、びっくりするくらいよく似合っている。

「どうかしましたか?」

 本人は自覚してないようで、無言のままの私にヴィルは首を傾げつつ、法術士のグローブを両手にはめながらが尋ねてくる。

「な、なんでもないわ、その、とても格好いいわよヴィル」

 ごまかしつつ王座から立つと彼に近寄って、くろやみ国の認識票を彼の胸元と右の二の腕に取り付ける。

 ヴィルは不思議そうな顔をしたあと、少年のように微笑む。

「……今までどんな服を着ても何も感じませんでしたが、ファムに格好良いと言われるのは、なんだか照れますね」

「そ、そう?」

 思わず顔が熱くなってうつむいてしまう。

「その、よく似合っているわ!」

 ええ本当に。

 うちの陰気臭い空が似合う人なんていないと思っていたのに。

「嬉しいです」

「内面の陰険さがにじみ出てるんじゃないですか?」

 レーヘンが投げつけるように言ってくる。こちらは同じく黒い服だけれど、法術士のヴィルと違って上着の丈は短く、より動きやすい格好になっている。

「その言葉、そっくり返しますよ」

 ヴィルが冷静に言い返す。

 私はレーヘンとヴィルとを交互に見比べて、首を傾げた。

「あなた達って、結構似てない?」

「「どこがですか」」

 返事が揃って返ってきた。


フツヌシはスピンオフの方ででてきたやーつーです。

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