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レイコ。

作者: 色堂

「最近彼女のことで病んでるらしい(けい)くん連れて三人でご飯行かない?」

「は?」

「こないだ久しぶりに啓くんとメールしてさ、そんな話になったの」



**



 実弥(みや)の提案で、わたしはすでに別れてからニ年と半年経った元彼と再会することになった。


 ニ年半ぶりに会った啓は、まるでイメージと違っていた。啓の写真うつりが悪いためか、思い出より幾分クリアな整った顔に少し見とれた。ガタイはでかくなっていたし背は、まあ元々高かったけれど、歩き方も喋り方も堂々として、笑った時にくしゃくしゃになるその顔が、かなりわたしの好みで、ああこんなにいい男だったんだ。今の啓なら別れなかったのに。なんて考えるけれど、わたしと付き合った啓がいるから今の啓があるんだ、なんて、どこか誇らしさまで感じてしまった。


「レイコが何をしたいのか俺にはわからん」

「わたしにもわからないよ、レイコちゃんが何考えてるのか。大体なんで喧嘩したのよ」


 冷房が心地よいファミレスに私たちは座っていた。本当は居酒屋で飲みたい気分だったのだけれど、金がない、ときっぱり言い切る貧乏学生である啓の主張に、私たちは渋々折れたのだった。

 啓の彼女のレイコは、啓と同じ大学の子で、わたしには全く関わりがない。ちなみに、わたしの隣で苺パフェを突いているわたしの幼なじみである実弥も、わたしと同じくレイコには一ミリも関わりがないクセに、彼女もこの場に呼ぼうとしていたらしい。「彼女の意見も聞きたい」ってそりゃそうなんだろうが、それじゃあ二人で話し合いさせた方が早いんじゃないの。まあレイコが誘いを拒否してくれたから良かったものの、本当に彼女も来ることになっていたらわたしはどうしただろう。取りあえず「こんにちは、はじめまして」かな。しかしながらその後彼女の前で啓とまともに会話できる勇気がない。彼女はわたしと啓の関係を知らないみたいだけど。



 啓とは別れてからほとんど連絡なんてしてなかったのだけれど、会うまでの緊張感とは裏腹に、意外と普通だった。寧ろ、うぶだった昔よりもわたしたちは大人になっていたから、ずいぶんお互いのことを冷静に理解出来るようになったと思う。



「……あのさ、つかぬ事を聞くけど、啓くんはレイコのどこが好きなの」


 実弥の素朴な、それでいてピンポイントな質問に、啓とわたしは思わず笑った。


「んー、どこだろ」

「喧嘩ばっかしてんじゃん、直して欲しいとこと好きなとこどっちが多い?」

「そこはやっぱりちょっとでも好きなとこなんじゃないの?付き合ってるんだし」


 正直な実弥と、口に出来ないわたしはきっと心の隅で思っていることは同じ。啓は少し唸ってから、やっぱ直して欲しいところは多いかな、と言った。


 レイコは啓がわたしの次に付き合った彼女で、写真を見せて貰ったけれど全く可愛くないし、話を聞いてもすぐ怒るし、わがままだし、他の男に気移りするし、良いところなんて分からない。そんなレイコの彼氏が一年と三ヶ月の間ずっと啓だなんて、本当に勿体ない。ほんの三ヶ月しか付き合ってなかったわたしに言えることじゃないのかもしれないけど。


 「情じゃないの?」というきっぱりとした実弥の問いに、うーん違うかな、一緒にいたいし、と真面目に答える啓をじっと見つめてみる。

 早く別れてしまえばいいのに。


「もしさ、今啓くんにすっごい可愛い子が猛アピールしたとして、それでもやっぱり靡かない?」

「ああ、どんなに可愛くても断るかな」


 ふうん、と頷くわたしは、啓の優しすぎる性格も愛情も心の広さも知っているから、安心して離れていってしまうレイコの気持ちが分かってしまう。だってわたしもそうだったから。そして余計にレイコが嫌いになる。


「啓は優しすぎるからなあ」

「いっつも言われる、それ」

「向こうは追い掛けてもらえるって分かってんじゃない?」

「ああ、ツンデレじゃん、あはは」

「向こうに合わせてばっかりじゃ、レイコももっとわがままになるよ」

 実弥の笑い声を聞き流して、わたしは続けた。


「レイコのわがままは、啓が直していかなきゃ」


 啓の優しい瞳がわたしを見つめる。元カノが元カレに対して言う台詞としては暴露し過ぎなのかもしれなくて、高い確率でそれがわたしの経験を伴ったものだと、啓にばれていると思う。だけど、わたしもそうだったの、ごめん、なんて言葉はまだ言えない。


「そうだよなあ、俺が直さなきゃいけないんだよなあ、でもさ、怖くてさ。前に喧嘩した時に別れる寸前までいったから。トラウマってやつ?」

 軽く笑う啓は、「まあ俺が重いんだけどさ」とぶっきらぼうに締めた。きっと本当にレイコのことが好きなんだと思う。


 いいなあそんな悩み、あたしも彼氏ほしい、と実弥が羨ましそうにため息をついたから、「遊んでる癖に」と冗談めかして罵ってやったら、啓と言うことは同時だった。綺麗に重なる声と声。こんな風に二人の気持ちが同じなら、喧嘩なんかしないのになあ。


 レイコは啓のこと好きなのかな。わたしの頭の中にあるクエスチョンマークは、実に単純なものだった。心にも無いクセに、もうほっといて!なんて言うあまのじゃくなレイコ。あまのじゃくが極まりすぎて、自分でも全くわかんなくなった馬鹿なレイコ。そんなレイコを放っておけない優しい優しい啓。

 早く別れてしまえばいいのに。振られてしまえばいい。そんな彼女なんて、いなくていいじゃない。

 でも振られた後の啓の悲しむ様が容易に想像出来てわたしまで悲しくなったから、啓が傷つくことは起こって欲しくないな、と思い直した。やっぱり啓がレイコを嫌いになれ。


 そんなことを願う自分が惨めで滑稽で、遠くからわたしたちを見下ろすもう一人のわたしは小さくほくそ笑む。性格は簡単には変わらないし、それだから状況だって仲直りしてもまた同じようなことがあるかもしれないし、だからまた同じ理由で集まることにもなるだろうし。

 「そろそろ出ようか」という明るい声色に、ふんわりとまだ形になっていない啓に対する好意を乗せて飛ばした。




終。



自ネタは描きやすかったです。

結局仲直りしたみたいですよかったね。笑


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