第一話 羽場野 玲
目を覚ますと俺は見知らぬ場所で倒れていた。
「ここは……」
上から下までびっしりと埋まった本棚が等間隔に置かれている。故に図書館のような場所。いや、図書館という表現では足りない程広い。本棚の列が地平線の彼方までどこまでも続いている神秘的な場所だ。
まだ上手く働かない頭を働かせてこれまでのことを思い返す。
確か、俺はトラックに轢かれた。あの全身に走る衝撃を鮮明に覚えている。あの状況を思い返すに俺は死んだのだろう。そう考えるとこの現実離れした場所は死後の世界に違いない。
「貴方が羽場野 玲様ですね」
後ろから透き通った声が耳を掠める。
振り向くと一人の女性が立っていた。透き通るほどに白い肌、白銀の長い髪に白いドレス調の服を纏っている。
全身白一色のその姿はまるでその部分だけ色が無くなったかのようだ。
「初めまして。私はダリア。ここの番人です」
彼女はスカートの丈を指で摘んで頭を軽く下げる。
その姿はまさに淑女の佇まいだ。
「ここはどこだ?死後の世界か?」
「死後の世界……そうですね。その解釈でも間違いないです」
彼女が手を振りかざすとその場に机と椅子が現れた。
「どうぞ、座って」
ダリアは自分が席に着くと、向かい側の席を手で指示している。
俺は彼女の言う通りに席に着くと彼女は話し始めた。
「簡単に言うとここは選ばれた者だけが来る事ができる現世と異世界を繋ぐ場所です。君は転生者に選ばれました」
ダリアそう言い、宙に手をかざす。すると何もない場所に画像が映し出された。
「その為にはモデルが必要です。だから貴方には自分のモデルを作成してもらいます」
――俺は高揚した。
これは夢にまで見てきた異世界転生とやつでは……!
小説やアニメで山ほど見てきたがまさか現実に起こるなんて……!
「どんな姿でも良いのか!」
「は、はい。お好きに……」
身を乗り出して目を輝かせているレイにダリアは少し引き気味に答えるとモニターを渡した。
レイは迷いない手つきで頭から自分の姿をメイキングしていく。
それもそうだ、理想の姿なんて考える必要もない。今までどれだけ妄想してきたか。
作り終えてモニターを返す。
「転生したらこの姿で始まるのか?」
「どこかの赤子として産まれ、成長したらモデルような姿になります」
ダリアがそう返すと、改めてレイは期待の目を向けて言った。
「それであれはないのか?」
「あれですか?」
「チート能力だよ。やっぱ異世界と言ったらこれでしょ!」
「後程もらえるでしょう」
「選べないの?」
「異世界に移動した際に勝手に付与されるものなので」
「そうなのか……」
ダリアが操作し終えたのか振り払うような動作をしてモニターを消す。
「指示があるまで少しお待ちください」
「そういえば、俺以外にも転生者はいたのか?」
「二百年くらい前でしょうか」
「そんな珍しいものなのか」
「昔は一年に二人程のペースでしたがそこからめっきり減りまして」
「どうして?」
「おそらく、転移者が増えたから――」
ジリリリ――
その時、会話を遮るように近くに置かれていた壁掛けの電話機が鳴った。
「すいません。少しお待ちください」
そう言うとダリアは電話機の方へ歩いて行った。
転移者もいるのか。
現世から異世界に文字通り転移すること。だったよな、実際はどうなのか分からないが……
ダリアの言う感じでは転移者はこの空間を通過しないのだろう。
そんなことよりチート能力だ。
どんなものになるのだろう。やっぱよく言うチート能力といえば「レベルアップ」とか「魔力無限」とか……
あれやこれやと思いを巡らせていると、突如として体が光の粒子となって消え始めた。
「何が起きてる?まさか転生が始まったのか!」
やっとだ!やっと俺の思い描いた世界がすぐそこに
レイがはしゃいでいるとそこに通話を終えたダリアがこちらに駆け寄って来て言った。
「すいませんが先ほどの転生の話はなくなりました」
「え?じゃあこれは何なの?」
俺が消え始める自分の体を示すとダリアは申し訳なさそうに頭を抱えた。
「私にも詳しくは……どうやら先約がいたみたいで、転移という形になりました」
「先約?」
「『羽場野 芽衣』って方らしいです。ご存じですか」
は?芽衣が……そんなわけ――
そこで俺の意識は完全に途切れた。
◇
次に目を覚ますと俺は仰向けで倒れていた。
此処は何かの廃墟だろうか。
半壊した天井の隙間から陽の光が差し込んでいる。
俺は立ち上がり状況を確認する。
「異世界……なのか?」
ここがどこかも疑問だが、それよりも俺にとって重要なことがあった。
ダリアの最後の言葉――
「芽衣がこの世界に……そんな訳ない……だってあいつはあの日……」
ギィィィ――
その時、後ろの方で音がした。
振り返るとそこには大扉があり、少し開いている。そして隙間から一人の少女が顔を出した。
俺はその少女の姿にどこか既視感があった。
肩まで伸びた金髪にあの長く尖った耳。ワンピース風の服を纏っている。
その姿はまさにアニメやゲームで散々みてきたエルフにそっくりだった。
少女は不思議そうな顔をして言う。
「誰……?」
どうやら俺は本当に異世界に来てしまったらしい。




