表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第一章:湯けむりの町(9)


京介は、畳に落ちる光の粒で目を覚ました。


障子越しの朝日は柔らかく、春特有の淡い明るさを帯びている。


(……朝か)


身体は、驚くほど軽い。

それが良いことなのかどうか、判断しかねるまま、京介は天井を見つめる。


昨夜の記憶が、ゆっくりと浮かび上がる。

湯守を名乗った少年、翔太。

館主の穏やかな笑顔。

そして、あの過剰なまでの「癒やし」の味。


(……考えすぎ、か)


そう結論づけようとした、そのとき。


――す、と。


襖が、音を立てないように静かに開いた。


「京介、起きてってば」


朝の光を背に、琴葉が立っていた。

京介の思考が、そこで止まる。


彼女の肌は、新雪のように白かった。

白というより、光を透かす色だ。

朝日を受けて、血の気さえ淡く滲む。

髪も、睫毛も、眉も、すべてが白。

瞳は薄い水色で、光を映して静かに揺れている。


――アルビノ


それは、この古びた旅館の一室に舞い降りた、一体の彫像のようだった。

あるいは、朝露だけで形作られた精霊か。

京介は、無意識に息を止めていた。


「……人の顔見ながら固まるのやめてくれる?」


琴葉の声で、現実に引き戻される。


「ごめん。……あまりに現実離れしてたから、美術館の展示品かと思った」


「褒めてるの? それ」


「最大級の褒め言葉だよ。……少し、ヴァンパイアっぽくもあるけど」


「失礼だよ」


琴葉は軽く肩をすくめ、京介の視線から逃れるように一歩部屋に入る。


「寝てる間はどうしても、こうなるんだよね。」


彼女の淡々とした口調。


「…日光に弱いからすぐ赤くなるし、ひどいと火傷みたいになる」


京介は頷いた。それも、以前に彼女から聞いたことがあった。


琴葉は小さく息を吐き、自分の手を顔の前に持ち上げる。


「だから、普段はこうしてる」


指先から、空気が歪むように揺らぐ。

白が、裏返るように変わっていく。

髪は黒へ。

肌は、健康的な褐色へ。

色だけでなく、存在そのものが”反転”したかのようだった。


彼女の異能「反転」

色、質感、状態――触れたもの、あるいは自分自身の性質を、裏返すことができる。

それは単なる変装ではない。世界の“表と裏”を、意識的に行き来する力。


「反転」の異能によって、普段は肌と髪の色を褐色に変えているが、無意識の状態――睡眠中には、その力は解けてしまう。だからこうして毎朝、自身の異能を使って変身しているのだ。

琴葉にとって、それは歯を磨くような、朝の支度の一部に過ぎなかった。


「……元の姿は、どうしても目立つしね」


少し含みを持たせた、彼女なりの処世術。


「まあ、朝から廊下であの白さの人が歩いてたら、宿泊客全員が二度見するだろうね。芸術的すぎて」


「それ、褒めてるの?怖がってるの?」


琴葉は苦笑し、軽く髪を整える。


「さて」


琴葉が振り返る。


「朝ごはん、行こ。お腹空いちゃった」

「了解」


京介は立ち上がり、黒い手袋を整える。


二人は襖を閉め、廊下へ出た。

宿は、もう完全に目を覚ましている。

朝の匂い。食堂から漂う、炊きたての米と出汁の気配。


二人は並んで、食堂へ向かう。

何も知らない、幸福な客のふりをしたまま。


日常×異能×ヒューマンドラマ、みたいなのが好みです。


評価のほど宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ