第一章:湯けむりの町(4)
「おかえり。どうだった、極楽足湯」
「極楽すぎて、ちょっと怖かった」
「それはそれで贅沢な感想だね」
琴葉は肩をすくめ、騒ぎが気になって戻ってきた京介と合流した。
「京介も入ればよかったのに」
「遠慮しとくよ。僕が入ったら、温泉が逃げ出すかもしれない」
「なにそれ」
冗談めかして言うが、二人とも笑わなかった。
「ねえ」
琴葉が声を落とす。
「さっきね、ちょっと変な話を聞いたの」
不眠症が治る足湯、トラブル続きの宿、足湯でのぼせた客の話。
京介は歩きながら聞き、最後に小さく息を吐いた。
「……街に入ってから、何か違和感を感じるんだ」
「違和感?」
彼は言葉を探す。
「過剰サービスって感じかな」
琴葉は、思わず足を止めた。
同じ感覚を、別の言葉で言われた気がしたからだ。
「観光、続ける?」
「もちろん」
京介は笑う。
「琴が楽しまない旅は、だいたい失敗するから」
「なにそれ」
「経験則」
二人はそのまま、温泉街の坂道を上っていった。
泉源は、柵で囲われていた。
白い湯気。
ごぼ、ごぼと湧き上がる音。
「すご……生きてるみたい」
琴葉は柵に手をかけ、目を輝かせる。
「近づきすぎると、飲み込まれるよ」
「京介は詩人なの?」
泉源の周囲には、説明板が立っていた。
成分、温度、効能。
「疲労回復、神経痛、冷え性……」
琴葉が読み上げる。
「普通だね」
「普通だね」
観光客は多い。
満足そうな顔で美味しいものを食べている。
地元の人の笑い声が絶えない。
偽りの贅沢を享受しているかのようだった。
日常×異能×ヒューマンドラマ、みたいなのが好みです。
評価のほど宜しくお願いします。




