表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第一章:湯けむりの町(13)


湯本の拳に凝縮された暴力的なエネルギーが、空気を切り裂く音を立てて僕の顔面に迫る。


(……ここまでか)


「――『反転』ッ!」


聞き慣れた、けれど今は誰よりも頼もしい声が、管理室の入り口から響いた。


ドォン! と空気が爆ぜるような衝撃。


「が、は……っ!?」


驚愕の声を上げたのは、湯本の方だった。


僕の喉元を掴んでいた彼の剛腕が、まるで目に見えない巨大な力に弾かれたように、真後ろへと跳ね上がったのだ。


強引に壁に叩きつけられていた僕の身体が、解放されて床に崩れ落ちる。


「……遅いよ、琴」


僕は激しく咳き込みながら、入口に立つ影を見上げた。


そこには、黒髪をなびかせ、不機嫌そうに眉を寄せた琴葉が立っていた。


「人のこと置いて一人でヒーローごっこなんて、百年早いのよ。京介」


彼女はそう言い放つと、迷いのない足取りで湯本との距離を詰める。


「貴様……! 何をした!」


湯本が吠える。石を飲み込み、異常なまでに膨れ上がった彼の筋肉が、不気味に脈打っている。


「別に。あなたの拳の『ベクトル』を、反対側にひっくり返しただけだよ」


琴葉は淡々と言い捨てた。


彼女の異能「反転」。

それは色や質感だけでなく、力の働く方向さえも裏返すことができる。


「ふざけるな……! この圧倒的なエネルギーの前に、小細工など!」


湯本が再び床を蹴った。人智を超えた速度で、彼は琴葉へと肉薄する。


琴葉は真っ向から湯本の胸元へと掌を伸ばす。

湯本の衣服に触れたその瞬間。


「!?…何をした! !身体が、動かん……!」


湯本が狼狽した声を漏らす。


「あんた、力を増幅させてるんでしょ?」


琴葉が、ゆっくりと、けれど確かな足取りで歩み寄る。


「だから、その状態を『反転』させたの。エネルギーの減衰。」


彼女の指先が、空中で円を描くように小さく動く。


「ぐ、あ……ぁ……っ」


湯本は膝から崩れ落ち、床に這いつくばる。


石の力で無理やり引き上げられた生命力。それが今は逆に、彼の意識を奪うまでの負のエネルギーへと変貌していた。


僕は壁に手をつき、ふらつきながらも立ち上がる。


「京介、大丈夫?」


琴葉が僕のそばに駆け寄り、肩を支えてくれる。


「……ああ。助かったよ、琴。あと少しで極楽に飛ばされるところだった」


「冗談言えるなら大丈夫そうね」


琴葉は呆れたように笑うと、すぐに視線を床の湯本へと戻した。


狂気に染まっていた彼の瞳からは、ようやく光が消え、深い絶望と疲労が滲み出していた。


(……)


「……翔太君」


僕は、椅子の横で震えていた少年に歩み寄った。


彼を繋いでいたパイプから手を離させると、翔太は力なく僕の腕の中に倒れ込んだ。


その身体は驚くほど軽く、そして氷のように冷たかった。


「終わったよ、翔太君。もう、頑張らなくていいんだ」


僕は彼を安心させるように、努めて穏やかな声で言った。


背後では、鋭い観察眼で管理室のモニターを見据えていた。


「京介、急いで。ここのエネルギーバランス、もう限界みたい」


彼女の言葉通り、部屋中のパイプが悲鳴のような音を立てて震え始めていた。


温泉街に偽りの繁栄をもたらしていた「歪み」が、今、臨界点を迎えようとしていた。



日常×異能×ヒューマンドラマ、みたいなのが好みです。


評価のほど宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ