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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第26話 思いがけない契約




 夕食のあと、ミーシアは有無を言わさずクライブを私の部屋に引きずり込んだ。


 私たちから話を聞き終わったクライブは、深いため息をつきながら、放心していた。


「兄さんが、生きてる……?」

「かもしれないってことー」


 さすがのクライブも動揺を隠しきれなかったが、次第に状況を飲み込んでくれた。


「むしろ、色々と納得がいきました。モニカさんがこんなにも熱心に、見ず知らずの兄を弔ってくれていたのも、本人が側にいたからだったんですね」

「信じていただけるんですか?」


 問うと、クライブは強く頷いた。


「もちろん。兄なら、この程度の奇跡、簡単に起こしてしまっても不思議ではありません」

「クライブ兄さん、リュシー兄さんが絡むと相変わらずー……」


 瞳を輝かせているクライブの横で、ミーシアは呆れたように肩を竦めていた。


「もう少し、状況を整理させてください。モニカさんが冥婚の儀で行った宣誓が、魔法契約として有効に働いているということなんですよね。あの時の宣誓の内容は、確か……」


 クライブに促され、私は自分の行動を覚えているまま答えた。


「“ジェイムの息子リュシオンを夫とし、その魂が楽園へ昇るまでこれを支え、尽くし、導く”という宣誓でした。神官様と参列者の前で誓い、同じ内容の誓約書にもその場でサインしています」


 例え形式的なものでも、交わした契約内容はきちんと覚えておくのが私の性分だ。恐らく覚え違いなどはないと思う。


 そこで、ミーシアが横から手を挙げて割り込んだ。


「忘れてるー。あとー、ちゅーしたー」


 改めて指摘されると、少し気恥ずかしくなった。


「あの、それ、関係あります?」

「モニカさん、実はかなり重要です」


 照れ隠しの言葉を拾ったのは、意外にもクライブだった。


「魔法契約は、魂の契約になるので、手段は言葉や書面だけに限りません。特定の身体的接触……まさに、口付けなんかは、とても強い魔法契約になるんです」


 そんなこと、魔法素人の私が知るわけがない。

 あの時、ほんの少しの誠意のつもりで取った行動が、まさかそんな大きな意味を持っているなど、寝耳に水だった。


「しかし、整理してみるとこれは……」


 クライブが、若干青い顔をしながら、顎に手をやった。


「モニカさん、なんだか、冥婚を依頼した家族としても申し訳ないくらい、強固な魔法契約になってます。本当にすみません」

「あ、謝るほどのことなんですか!?」


 深刻な顔で謝罪され、私はだんだん恐ろしくなってきた。


「まず、契約内容です。モニカさんが一方的かつ無条件に、兄に尽くすような状態になっています。文面が曖昧なぶん、解釈の幅が……つまり、適用範囲がかなり広いです」


 リュシオンの魂を支え、尽くし、導く。

 どのように、という制限は一切無い。


「しかもー、契約方法もフルコンボー」


 公衆の面前での宣誓、署名、さらには口付け。

 契約としても、言い逃れようのない明確な結びつきだ。


「これ以上強力な結びつきは、そうそうありません。それこそ、生涯を共にする本当の婚姻契約と変わらないほどの……いえ、期限設定が“魂が楽園へ昇るまで”なので、“死が二人を分かつまで”の婚姻よりも上かもしれません」


 淡々と説明される内容を把握した私は、頭がくらくらしてきた。


 普通の結婚でも、似たような、一生を相手に捧げる宣誓をお互いに交わす。

 そして私は、魔法使いは身持ちが固い人が多い、と俗説程度に聞いたことがあった。

 確かに、結婚も魔法契約のひとつと考えているならば、その宣誓の重さも理解して、大切にするだろう。


 しかし今回の場合は、リュシオンが死んで、いや、沈黙していたせいで、私だけ一方的に重すぎる宣誓をしたことになっている。


「どうしてそんな契約させたんですか! 不当契約です!」

「本当にすみません! 相手が死者では契約自体が成立しないものなんです! まさか兄があの状態で、欠片でも生きている可能性があるなんて……!」


 クライブに詰め寄っても仕方がないことはわかっているが、とんでもない契約を結んでしまった自分の迂闊さに私も焦った。


「この契約が、具体的にどう作用しているのかはわかりませんが、モニカさんが兄の姿を視認できるのは、この契約が原因だと考えていいでしょうね」


 納得したくないが、色々と納得できてしまう結論だった。


「幸い、契約を破った際の条件は設定されていないので、モニカさんの行動自体を制限するものではないはずです」

「そ、それならいいのですが……」


 ひとまず冷静になった私を見て、ミーシアが話を進める。


「でー、もういっこの不思議はー、なんでリュシー兄さんが“生きてる”扱いなのかってことー」


 こちらの方が、今回二人の力を借りた核心だ。

 クライブがまずは前提を確認する。


「ちなみに、僕たちが他人の遺体と取り違えたわけではありませんよね?」

「はい。リュシオン様も、あの遺体は間違いなく自分のものだと認めていました」

「それでも“死んでいない”と言い張っていた、と」


 クライブがふむと唸る。


「リュシオン様も根拠は定かではなかったようですが……かなり自信を持って、“勘”だと仰っていました」

「え……勘? 兄が?」


 クライブは少し驚いた様子で訊き返してきた。


「いえ、兄のことなので、もっとなにか根拠があるものだと……常人より何倍も思考が深い、隙のない人でしたから」


 思考はともかく、隙がない……?

 肝心なところはいつも勘と勢いで進んでいる気がするが。


「そうなんですか? だいぶ適当……いえ、おおらかな方だとお見受けしましたが……」

「え? まあ、大胆なところもありますから、真面目なモニカさんから見たらそう見えるかもしれませんね」


 私が知っているリュシオンと本当に同一人物だろうか。

 家族の前での態度と差がありすぎる気がする……。




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