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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第24話 拷問か、脱ぐか




 屋敷に歩いて戻るうち、強い雨で冷やされた私の頭は、徐々に冷静さを取り戻してきた。

 最初は勇ましかった足取りも、濡れたドレスが絡みついてどんどん重くなっていく。


 屋敷の玄関ポーチまで戻ってきた私は、ドアの前で蹲って頭を抱えた。


「私、とんでもないことを言ってしまったのでは……」


 後悔しても後の祭りだった。

 勢いに任せて、到底出来そうにないことをやると言ってしまった。


 私は魔法のまの字も知らない、ずぶの素人だ。

 そんな自分が、幽霊が生きていると証明するなど、いったいどうすればいいのだろうか。


 自分でも、どうしてあんなことを言ってしまったのかわからなかった。

 ただ、リュシオンに突き放されて、自分でも驚くほど動揺してしまったのだ。


 彼とは、たった二週間と少しの間しか一緒に過ごしていない。


 あちらは英雄、こちらはただの貧乏令嬢。

 そもそも生きてきた世界すら違う相手。

 その上、私たちの間には生と死という越えられない壁がある。


 彼のことなど本当は何も知らないくせに、彼の拒絶を聞いて思ってしまったのだ。


 彼らしくない、と。


 いつもあんなに自信満々で、人のことなどお構いなしに振る舞って。

 時々ついて行けない時もあるが、きちんと話せることは話してくれる。

 たまに気遣ってくれる優しさもある。


 あんなに……楽しそうに私の側に居た彼が、急に離れると言い出すなんて、信じられなかった。

 だから私は頭にきてしまったのだ。


 あの冷たい表情を思い出すと、胸が苦しくなる。

 家族と喧嘩した時とも違う痛みだ。

 大切なものが永遠に失われてしまいそうな恐怖。


 ……そうか、私は。

 知らず知らずのうちに、リュシオンの存在が、とても大切になっていたらしい。


 そこで一旦、思考が停止していると、目の前にあった屋敷の扉が、おもむろにカチャリと開いた。


「あれー? モニカさんここに居たー」


 顔を出したのはミーシアだ。

 彼女は私の有り様に驚いて、目を丸くした。


「ずぶ濡れー! どーしたのー、はやく入ってー」


 ミーシアは私を引き摺るようにして、屋敷の中に迎えてくれた。


「モニカさんのことー、探してたのー」

「私を?」

「そー。お墓に行ったって聞いたからー、迎えにいこうとしてたのー」


 ミーシアは何かに気付いて、心配そうに私を覗き込んできた。


「泣いてたのー?」

「え?」


 言われて、自分の頬に手をやって確かめるが、雨で濡れたのか涙なのか、判別できない。

 母が亡くなった時以来泣いたことがなかったので、そんなに簡単に自分が泣くとは思えなかった。


「雨で冷えただけですよ。それより、私に何かご用でしたか?」

「そーそー。お願いがあってー。ちょっとこれ見てー」


 ミーシアはポンと両手を合わせると、玄関ロビーの壁際にある細い机の前まで私を連れて行った。


 調度品や花瓶が計算されて飾られているその横端に、なにやら違和感のある道具がふたつ、無造作に置かれている。

 外へ私を迎えに行こうとして、ミーシアが適当に置いておいたのだろう。


「前にー、モニカさんー、ちょびっと魔力あるって言ってたでしょー。せっかくだからー、もうちょっと調べたくてー」

「構いませんが、私なんかがお役に立てるんでしょうか?」

「もちー。あたしー、いろんな人のー、魔力の性質研究してるのー。ちょびっとだけの人ー、逆に珍しくてー」


 私の魔力は、ほんの少しあるにはあるが、魔法使いになれる程ではない。

 これは地元の神官様にも計測してもらった、間違いない事実だ。


 確かに、伯爵家は魔法使いの名門でもあるので、ミーシアの周りにはそういう人間は珍しいだろう。

 なにせこの屋敷の使用人たちの中にすら、簡単な魔法を扱える者は多いのだ。


「でー、これー」


 ミーシアは、置いてあったふたつの物体をそれぞれ両手に持ち上げた。


「じゃーん、魔力性質測定機ー。カレシに送ってもらうのにー、時間かかっちゃったー」


 楽しそうに語るミーシアだが、私の視線はその、主に右手の魔道具に釘付けだった。


 どう見ても、拘束具か拷問器具にしか見えない。


 金属板を丸めた大きめのリングをいくつか組み合わせた構造体に、手首ほどの太さの鋭利なネジのような物体が何本も貫通して刺さっている。


 ネジの頭一つ一つには、材質不明の半透明の管がだらりと繋がっていた。

 中には針金のようなものが通っているのが薄っすらと見える。


「ええと……そちらは?」

「これはー、頭にかぶってー、ネジ締めてー、ピカピカーバチーンってやるのー。すぐ終わって楽ー」


 私は現実逃避の気持ちでもう一方、左手の道具に視線を逸らした。


 こちらは簡素な構造で、給仕用のお盆のような円盤形だ。

 綺麗な紫色の石材で出来ている。

 表面には時計の文字盤のように、美しく複雑な魔法陣が彫られていた。


「こっちもー、測定内容はいっしょー。触るだけー。でもー、時間かかるしー、服脱いで肌につけないとー……」

「脱ぐ方でお願いします」


 私はミーシアの言葉を遮って必死に訴えた。


「そうねー、ちょうどずぶ濡れだしー、着替えるついでにやらせてねー。…………ざーんねん……」


 何が!?


 連れ立って私の部屋へと戻り(ミーシアは右手の道具の管をずるずると引き摺りながら付いてきた)、ひとまず冷えた身体を温めるために、軽くシャワーを浴びさせてもらった。


 湯上がり用のローブとガウンだけ羽織り、ソファに腰掛けると、ミーシアはお盆型魔道具を私に手渡した。


「ちょっと胸広げてー……そーそー。両手でしっかり持ってー、胸に当ててー。おっけー。しばらくそのままー」


 言われるがまま、お盆を胸に当てる。

 湯上がりの身体に、ひやりとした石材の感触は冷たくて、つい肩を竦めた。


 しばらくすると、胸に当たっている部分がほんのりと温かくなってきた。

 ミーシアが凝視している表面には、小さな光の点が浮かび上がり、盤上を縦横に移動し始める。


「ちょーっとー……集中させてー……」


 光の軌道を真剣に目で追うミーシアに、迂闊に声をかけるわけにはいかない。


 手持ち無沙汰になった私の頭に、無意識に浮かんできたのは、こんな無防備な姿をリュシオンに見られなくてよかった、という安堵だった。


 例え彼が居ても脱ぐ方を選んだとは思うが、その場合の羞恥心は比べるまでもなかっただろう。

 きっとリュシオンは、ここぞとばかりにからかい倒してくるはずだ。ミーシアも居る前で、どうやって追い出しただろうか……。


 そんな自分の思考に気付いた瞬間、また胸の奥が染みるように痛んだ。

 彼が側に居ることが、すっかり当たり前になっている自分に戸惑う。


 窓の外に目をやると、既に日は暮れ、何も見えない暗黒に染まっている。

 雨足はますます強くなっていて、ガラスに雨粒が叩きつけられる音が激しく聞こえていた。


 こんな雨の中、リュシオンはまだたった一人、冷たい石の墓の上で蹲っているのだろうか。


「うーーーーんー……」


 ミーシアの唸り声が聞こえて、私は意識を部屋の中に戻した。


「……終わりましたか?」

「だいたいー。やっぱりー、どこからかどー見てもー、ふつーのちょびっと魔力ねー、モニカさんー」

「それは、私は普通ですからね」

「そーねー…………んー?」


 顔を上げかけたミーシアが、不意に首を傾げて、魔道具の一点を凝視する。

 そして、意外なことを口にした。


「モニカさんー、誰かと魔法契約してるー? 痕跡あるー」




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