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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第15話 ウインドウショッピング




「さて、私がリュシオン様についてお話しできるのは、このくらいです。大してお役に立てず、申し訳ありません」


 残念そうに微笑む店主に、私も礼を述べた。


「いいえ。またひとつ、リュシオン様のお人柄を知ることができて、有意義な時間でした。貴重なお話をありがとうございます」

「勿体ないお言葉です」


 リュシオンの作品を見られなかったことは少し残念だったが、確かにいい気分転換になった。


「モニカ様、せっかくここまで出向いてくださったのですから、我が店の魔道具もご覧になっていきませんか。リュシオン様の作品はもう残っておりませんが、似た傾向の品もございます。リュシオン様の手仕事に思いを馳せる参考になるでしょう」


 ここまで来て、私自身も魔道具に少し興味が湧いてきていたので、有り難い申し出だった。

 この流れなら、高級な魔道具を無理に売りつけられる心配もないだろう。美しい魔道具を堂々と見物できる機会など、そうそう無い。


「願ってもないことですわ。ぜひ見学させてください。なにぶん田舎から出てきた世間知らずの女でして、魔道具というもの自体、あまり目にしたことがなかったのです」

『まじか』


 うるさい。

 ……まぁ、リュシオンもいつもの調子に戻ったようだし、良しとしておこう。いつまでもさっきの空気では居た堪れない。


 私の言葉を聞いて、店主は楽しそうに教えてくれた。


「さようでしたか。このジェイム領は、昔から鉱石の採掘が盛んでして。良質な媒介石が多く採れるため、魔道具の生産も盛んなのです」

「媒介石……あの、魔道具に嵌っている宝石のことでしょうか?」


 私は、近くの陳列棚の商品を眺めながら言った。

 様々な形の魔道具が並んでいるが、どの魔道具にも必ず、色とりどりの美しい宝石が最低ひとつは嵌っている。


「そのとおりです。媒介石と言っても、その多くは一般にもよく知られる宝石の類です。数ある宝石の中には、魔力を通したり、溜めたりするのに適した性質を持つものがありまして。その性質を利用して様々な魔法を付与した道具が、魔道具と呼ばれているのです」

「なるほど、この宝石が、魔道具の(かなめ)のようなものなのですね」


 魔道具が軒並み高級品である理由も、店主のその説明で理解できた。


 私の弟は魔道具作りに憧れて、王都の魔術学院に入学したがっている。

 だが、たとえ必要な技術を修めたとしても、我が貧乏領で満足に仕事をさせてやれるだろうか……と私は不安になってきた。


『魔道具というのはほとんどが、付与された魔法を使い切ったらただのお飾りになる使い捨てだ。媒介石や部品を付け替えれば再利用できるものもあるが、そういうのは仕組みが複雑で専門の職人でないと作れないし、人間一人じゃ運べないくらい大型になることもある。例えば、うちの屋敷で使ってる給湯器なんかがそれだな。地下室まるまるひとつ埋めるほどデカいぞ』


 リュシオンが詳しく補足してくれた。

 弟……地元で仕事をするのは無理かもしれない……。


『だからこそ、こういう凝った宝飾品型にするとよく売れるんだ。魔法を使い切っても飾りとして使えるからな』


 自身も装飾的な魔道具を作っていたリュシオンは得意げにそう言うと、店内を浮かびながら、商品を見て回り始めた。


「店主さん、じっくり店内を見せていただいてもよろしいですか?」

「もちろんです。どうぞごゆっくり。気になる物があれば声をお掛けください」


 私は、なんとなくリュシオンのあとをついて回りながら、美しい魔道具を眺めて歩いた。


 女性向けの繊細なアクセサリーから、男性が身につけても違和感のないネクタイ留めや装飾ボタン。

 数は少ないが、少し武骨で頑丈そうなベルトバックルに、甲冑や馬具に付ける装飾もある。これらは冒険者向けだろうか。


『もし気に入ったのがあったなら、俺が買ってやるぞ』


 突然そんなことを言い出して笑みを浮かべる幽霊に、私は意味がわからずに思いきり眉を寄せて見せた。


 リュシオンは私の極寒の視線を物ともせず、私の上着の懐を指差した。

 あの家紋メダルが入っているあたりを。


『ツケで』


 今は店主に背を向けているから、私がどんな表情をしても見られることはない。

 私は心底呆れていることが伝わるような表情で、口の動きで返した。


(いりません)

『なんだ、こういう時は“夫”が何か買ってやるものだろう? 遠慮するな』


 相変わらず、リュシオンは理想の夫婦ごっこを継続中らしい。


(格好つけたいなら、堂々とツケなんて言わないほうがいいですよ)

『そんなこと言っても、ツケはツケだろうが。俺はいつも地元ではそうやって買い物していたぞ。ちゃんと家にそれなりの金は入れてたから、スネを齧ってたわけでもないし』


 領主である伯爵家の嫡男、しかも英雄と称えられる有名人なのだから、それはもちろん現金など持ち歩かずとも買い物できただろう。

 彼のように、身元を示して信用で買い物をする貴族は実際によくいる。


 しかし彼の場合、なんというか、言葉選びがやたら俗っぽいのだ。

 迂遠な言い回しを嫌う彼の性格もあるだろうし、個人の独立傭兵として長年、身分関係なく戦場に身を置き各地を転々としていた生活の影響もあるかもしれない。


 身分や容姿に反して、紳士とは程遠い雑な態度や言葉遣いに幻滅されて今までモテなかったのではないか……とつい邪推してしまった。


 そんな調子でじっくりと魔道具を眺めながら、狭い棚の隙間を慎重に歩いていたその時。


 壁際の棚の奥、他の商品に隠れてしまう位置にあったひとつの魔道具を見つけ、妙に目を引かれた。


 ガラスカバーもない、比較的安価な価格帯(それでも私には恐ろしい値段だが)の商品が並ぶ一角だ。


 私は、他の商品には絶対に触れないように、細心の注意を払いながら手を伸ばして、その魔道具を迷いなく摘み取った。


 それは、綺麗な石で彩られた、一組の耳飾りだった。

 ばらけないようにか、模様入りの台紙に並んで固定されている。

 留め具からぶら下がる宝石が、台紙の上でころりと揺れて輝いた。


 けぶるような僅かな濁りが入った、一見すると水色に見える石。

 しかし摘んだ台紙の角度を変えると、光の当たり具合でバラのような優しい薄紅色に変化する。特徴的な石だ。


「どうしてこんなところに……」


 思わず呟いた私に気付いて振り返ったリュシオンが、あっと声を上げた。


『それ、見覚えあるぞ! 俺が作った魔道具だ!』

「え? これが?」


 小さく声を出した私に、店主も何事かと側にやってきた。

 私が持っていた耳飾りを見ると、店主は心底驚いた様子で言った。


「それは、間違いなくリュシオン様の作品です! いやはや、全て売り切れたと思っていたのに、まだ残っていたとは……管理が行き届かず面目ございません。モニカ様、よくぞ見つけられましたね」

「いえ、私はただ、好きな石だったので気になっただけで……」


 本当に、この店にあることが意外だっただけで、深い意味があって手に取ったわけではない。

 それがたまたまリュシオンの作品だったなど、思いもよらなかった。




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