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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第14話 店主の話




「店主さんですか。私はモニカと申します。本日は急な訪問で申し訳ありません」


 私は身分証明のつもりで、懐から例の家紋メダルを出して示しながら挨拶をした。


「おお、確かに。リュシオン様がいつもお持ちになっていた物ですね」


 見慣れたメダルを目にした店主の表情は、懐かしげに緩んだ。


「お気になさらず。リュシオン様はいつも先触れも無しにふらりとおいでになっていましたから。上質な魔道具を突然山のように持って来られるので、査定が大変でしたよ」

『よく言う、安く買い叩いていたくせに。まあ本業の職人のものと比べたら雲泥の差だから仕方ないが』


 言葉に反して、リュシオンは機嫌良さそうに呟いた。


 リュシオンの性格もだんだん掴めてきたが、相手の身分に忖度せずに値をつける店主の、実利的な姿勢を信頼して、好ましく思っているのだろう。


 それまで微笑んでいた店主は、悲しげに視線を伏せて言った。


「本当に、惜しい方を亡くしました。孤高の英雄と称えられていましたが、私のような庶民にも分け隔てなく接して下さる方でした」

『貴族らしく接すれば、お前ら平民は無駄にへり下るだけだろう。まどろっこしいのが嫌いなだけだ。あと俺は死んでない』


 いちいち訂正するリュシオンには気付かないまま、店主は一転して、私の方に真っ直ぐな視線をよこした。


「モニカ様。実はあなたも、領民の間では噂になっているのですよ」

「わ、私ですか?」


 思いがけないことを言われて、問い返す声が上ずってしまった。


 やはり、今どき冥婚に応じるなど物好きだとか、金目当てだとか、いい歳した行き遅れ女が田舎からのこのこ出てきたとか、言いたい放題言われているのだろうか。


 私は恐る恐る次の言葉を待っていたが、店主が語った内容は、私の予想を外れていた。


「先日の葬儀、私も聖堂の前まで行っていたのです。私だけでなく、大勢の領民が詰めかけていました。その時に聞いたのです。あなたが冥婚の儀式で、リュシオン様のご遺体の手に、直接口付けなさったことを」

『!』


 隣でリュシオンが小さく驚く気配がした。

 本人の前で話されるのは気恥ずかしく、私はリュシオンの方を見ないようにしていた。

 店主はますます熱を込めて続けた。


「冥婚と言えば普通は、誓いの口付けは代用品で済ませることが相場です。しかもリュシオン様のご遺体は、かなりお痛ましい状態だったというではありませんか。なのにあなたは恐れることも、嫌がることもなく、ただ静かにリュシオン様の手を取って口付けなさったと。この話を聞いて、感動しない領民などいません!」


 勢い込んで話す店主に、私はいよいよ限界だった。


「わ、私はただ……民と家族を守って亡くなった英雄様に、せめてもの誠意を持って接したかっただけで……」


 なんとか言い訳をしたが、隣でリュシオンが聞いていると思うと恥ずかしくて仕方ない。

 せっかく覚えていない様子なので、そのまま黙っていたのに。


 そもそもこんな、無神経でふざけ倒した性格の人物だと知っていたなら、私は絶対にハンカチに口付けしていた。断言する。

 私の初めての口付けを返してほしい。


「その誠意に感動しているのです。今日ここへいらしたのも、弔いのためにリュシオン様の足跡を辿りたいとのお話でしたね。冥婚の花嫁など名ばかりで済ませる御婦人も多かったのに、あなたはしっかりと寄り添おうとなさっている……」


 訪問のためにそれらしい理由をつけたのも、店主の琴線に触れてしまったらしい。

 放っておいたらまだまだ褒め殺されそうだと思った私は、無理やり話題を変えることにした。


「そ、そうです! 今日はそのために来たのです!」

『おいまてさっきの話もうちょっと詳しく……』

「リュシオン様が制作された魔道具がどんなものか、ぜひ拝見したいのですが!」


 前のめりで割り込んでくるリュシオンは完全に無視して、私は店主に頼んだ。

 すると、店主は残念そうに答えた。


「それがですね。リュシオン様の魔道具は、珍しい効果が付与されている上に、デザインも非常に人気がありまして。毎回、入荷するそばからあっという間に売り切れてしまうのです。残念ながら、今この店に残っているものはございません……」

「まあ、そうなのですね」


 そもそも、今日の本当の目的はただの気晴らし外出で、本気で魔道具に興味があった訳では無い。

 しかし、ここまで来て実物を見られないと思うと、私も少しだけ惜しい気持ちになった。


 魔道具というのは軒並み高級品で、我が家の家計状況ではほとんど手が出せないものだ。

 それでも、末の弟が興味を持っていて、王都で学びたがっている分野でもある。


 せっかくここまで出向いたので、後学のためにも、魔道具について話を聞くのは決して無駄ではないだろう。


「では、お話だけでも。リュシオン様は、どのような魔道具を作られていたのですか?」


 尋ねながら、店内の商品をざっと見渡してみると、腕輪や首飾りなど、宝飾品のように身につけるものが中心のようだ。


「はい。主に、首飾りや耳飾り、ブローチや、それに指輪などですね。女性が好むような、華やかで愛らしいデザインの作品がほとんどでした」

「本当にそうなんですね。意外です……」


 ミーシアも可愛い作品だと言っていたが、リュシオンの性格との差に、どうしても深く驚いていしまう。


「その、戦場では一騎当千の勇猛な英雄様だったと伺っていましたので」

「ああ、確かに、世間の印象とは真逆の品でしたね。私も初めて拝見した時は、本当にリュシオン様がこれを作ったのかと疑ってしまったものです。もう五年も前のことですね」

『悪かったな、似合わないもん作ってて』


 店主が懐かしそうに振り返る横で、リュシオンはぶすっとむくれていた。


「効果も、身につけた持ち主を守るようなものが多かったですね。付与が難しい魔法も簡単に乗せてしまうのは、流石としか言いようがありません。お陰様で、女性への贈り物を求めるお客様には特に好評でした」


 どうやらリュシオンの魔道具は、手慰みの趣味と言ってしまうには勿体ない、職人顔負けの出来だったようだ。


 それにしても、合理主義で無駄を嫌うリュシオンなのに、作っていたのは明らかに女性向けの魔道具。

 彼自身が戦場で使うために作った魔道具の一部を売っていた、というわけでもなさそうだ。


「どうして、そんな作品ばかり作っていたのでしょうね。自分で使うものではなかったのでしょう?」


 少し興味が湧いたので、私は店主に尋ねながらリュシオンの表情を盗み見た。

 踏み込んだ質問をした私に、リュシオンは表情を固くしていた。


「そうですね、私も直接お尋ねしたことはあるのですが、いつもはぐらかされてしまいましてね。ただ、思い当たる節がひとつ……」

『おい』


 考えながらそこまで語っていた店主に、リュシオンは届かない声を投げた。

 今までの様子とは違う冷え切った声で、リュシオンがそれ以上踏み込まれることを本気で嫌がっていることが、その声だけでわかった。


 不用意に詮索しすぎたことに気が付いて私は後悔したが、ここまで訊いておいて店主を遮るわけにもいかない。

 私は固唾を飲んで黙っているしかなかった。


 すると、リュシオンの届くはずがない無言の威圧が届いたのか、言いかけていた店主は小さく首を振って、続きを収めた。


「……いえ、他人が憶測で語るのは止めておきましょう。モニカ様は遠い地からいらした方でしたね。もし気になるのであれば、伯爵家のどなたかに直接お尋ねになったほうが良いでしょう」


 にこやかにそう言われたが、リュシオンが側を彷徨いているうちは、誰かに聞くのは避けようと私は思った。

 あんなに刺々しい空気を向けられては、こちらのほうが生きた心地がしない。


 しかしふと、リュシオンが前にも一度だけ、こんな態度を見せたことがあったのを思い出す。

 昔に亡くなったという妹の名前を伯爵夫人から聞いた時だ。


 おそらく、リュシオンは妹の死に対して、今も強い想いがあるのだろう。

 その想いをぶつけていたのが魔道具作り……なのかもしれない。




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