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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第13話 魔道具店へ




 翌日。

 伯爵家で借りた馬車の中、私はソワソワと落ち着かない気分で、車窓から街を眺めていた。


 向かいの席には、案内をしてくれる付き添いの侍女。

 そして隣には、長い脚を悠々と組んで座る(格好をしている)リュシオン。


 朝の一悶着で私に勝利した英雄様は、にこにことご機嫌な笑顔を浮かべていた。


『やっぱり、髪は下ろしていたほうが似合うな』


 今日の私の髪型は、いつもの引っ詰め頭ではなく、緩いハーフアップだ。癖の強い巻き毛の髪は、背中の半ばあたりまでふわふわと好き勝手に広がって伸びている。


 ろくに手入れもしていないのに……と恥じたいところだが、ここ数日は伯爵家のシャワーと質の良い石鹸で毎日しっかり洗髪できており、湯上がり用にと香油までいただいて使っているので、以前よりツヤだけは増している気がする。


 満足そうに呟くリュシオンに言い返したくてたまらないのに、侍女が居るため、私はこっそりとため息をつくだけに留めた。


 今朝、いつものように身支度を整えていたら、朝からやかましいリュシオンが注文をつけてきた。


『おい、せっかく街へ出かけるのに、その格好はなんだ』


 喪中ということで、いつもと変わらぬ引っ詰め頭にベール付きの帽子を載せ、暗い灰色の外出着を選んでいた私は、リュシオンの言葉に首を傾げるしかない。


「なにか、間違っていますか?」

『“夫”と初めて出かけるんだから、もっと着飾ったらどうだと言ってるんだ』

「“夫が亡くなって”初めて出かけるんですけど?」


 思わず白けた目になってしまったのは許してほしい。

 どうやらこの英雄様は、世間体というものをとことん考えない性格のようだ。


『冥婚とは言えこの俺の“妻”なんだから、相応しい格好をしろよ』

「喪中に出かける妻としてはこれが相応しいと思うんですが……」

『まずその髪は下ろそう。あんたの髪は下ろすだけで華やかになる。それから服は……地味なのばっかりだな……お、これなんかいいんじゃないか?』

「話聞いてます?」


 結局、そのままリュシオンに押し切られて、いつもとはだいぶ雰囲気の違う姿で外出することになってしまった。


 どうしてこんなに私の服装に口を出したがるのか疑問なのだが、きっと童貞のまま死んだ反動で、形だけでも妻となった女と夫婦ごっこがしたいのだろうと結論づけた。

 この押しの強さはもう、気にするだけ無駄だ。


 ひとまず、目元を覆うベール付きの帽子だけはなんとか死守して、喪中の体裁は保ったつもりだ。


『その服も似合うな。地味は地味だが品があって、あんたが着るとしっくりくる』


 元々服は地味なものばかりだったので、どれを選んでも大差はなかったのだが、リュシオンが直感でこの服を選んで来たのは少し驚いた。


 これは、今は亡き母から譲ってもらったものを、自分の体型に合わせて手直しした上下セットのスーツドレスだった。

 形はシンプルだが生地が少しだけ上等なものだ。

 父との婚約祝いで親が奮発し仕立てたものらしい。

 リンドウの花のような紫色で、さり気なく入った蔦の織り模様が光の加減で見え隠れする。


 私は母の形見とも言えるこの外出着をとても気に入っていたのだが、なかなか着る機会がなく、虫干しの際にちょっと袖を通してみる程度になっていたのだ。


 “自分の勘は外れない”と出会った時に言っていたが、こんなところまで直感が働く本能的な鋭さも、リュシオンが実力で英雄とまで呼ばれるようになった要因かもしれない。

 もっと有用なことに使ってほしいものだが。


『お、着いたみたいだな。あの店だ』


 リュシオンが窓の外を指差すと、間を置かずして馬車が停まり、侍女が到着を告げて案内してくれた。


 大通りから一本横道に入った所にあるその店は、周囲に居並ぶ大きな店と比べて、半分ほどの間口しかなかった。

 煉瓦造りの壁に蔦が這い回る、古めかしい店構えだ。


『小さいが、この街でも一二を争うほどの老舗だ。目利きは確かだぞ。俺も自分の作品を売るだけじゃなくて、買うときもよく世話になってる』


 リュシオンが言ったのとほとんど同じ内容を、親切な侍女も教えてくれた。

 まるで彼の発言を鸚鵡返ししているように聞こえてしまい、つい笑ってしまいそうになる。私は軽く微笑む程度でなんとか耐えた。


「ただ、古い造りのお店ですから、中の通路が少々狭くて……」


 侍女の話だと、ドレス姿の夫人が複数人で連れ立って歩くと、通路がいっぱいになって動きづらくなってしまうようだ。


「わかりました。では、ここからは私一人で見てきますので、馬車で待っていていただけますか?」

「承知いたしました。店主の方は伯爵家とも懇意ですから、リュシオン様の魔道具についてもお話を聞けるかと存じます。ごゆっくりご覧になっていらして下さい」


 侍女を待たせて店のドアを潜ると、中は確かに、伯爵家御用達とは思えないこぢんまりとした造りだった。


 壁沿いには背の高い商品棚が造り付けられ、床には腰高の広い陳列台が島のようにいくつも配置されている。


 通路は狭くて、私一人が通るのでやっとの幅だ。

 もう少し裾が広いドレスを着てきていたら、陳列台の下部をドレスで掃除しながら歩くことになっていただろう。


 台にも棚にも、色とりどりで多種多様な魔道具が、所狭しと並んでいる。

 魔道具は美しい宝石が嵌っていることが多く、窓から差し込む陽の光が反射して、店内が丸ごと虹色に輝いているようだった。


「いらっしゃいませ。伯爵家の“冥婚の花嫁”様ですね? お待ちしておりました」


 私が店内の光景に見惚れていると、奥のカウンターに、立派な顎髭を伸ばした細身の男性が現れた。


『おお、こいつが店主だ。二ヶ月ぶりだが元気そうだな』


 リュシオンは陳列棚の上をふわふわと漂って、親しそうに店主のもとに寄って行った。

 もちろん、彼にもリュシオンの姿は見えていないようだ。




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