表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/84

第56話 コボルトの巣への突入

 夕暮れの薄明かりが森の奥を照らす中、レオンたちはコボルトの巣を見下ろせる高所に身を潜めていた。

 岩場に囲まれた洞窟のような巣の入り口には、粗末な木の柵が設置され、三体のコボルトが警戒している。


 セリナが鼻をひくつかせた後、表情をわずかに曇らせる。洞窟の奥から漂う人の匂いに集中しているようだ。

 レオンとサフィアが視線を交わし、すぐに作戦会議へと入る。


 レオンは巣の周囲を観察しながら、低く言った。


「まずは入り口の見張りをどうするかだな。こいつらを片付けないと、中に進むのは難しい」


 サフィアも頷く。


「正面から突っ込むのは危険ね。見張りを始末しても、中にいるコボルトに気づかれたら、巣の奥まで一気に警戒態勢に入る可能性があるわ」


 レオンは周囲の地形を見ながら、慎重に考える。


「幸い、見張りは三体。柵の外にいる以上、外から音を立てずに仕留めることができるなら、内部には気づかれずに済むはずだ」


 セリナが短剣を取り出しながら、静かに言う。


「……一瞬で終わる。最初の一体、わたし。次、レオン」

「サフィア、お前は最後の一体が騒がないように抑えられるか?」


 サフィアは少し考え、頷いた。


「風を使えば、一瞬の間だけ声を出せないようにできるわ。その間にセリナが仕留めるなら、問題ないはず」

「それで決まりだな」


 レオンは一度周囲を見渡し、次の段階へと進む。


「問題はその次だ。見張りを片付けた後、どうやって巣の中へ侵入するか」


 サフィアが顎に手を当て、少し考える。


「正面からまっすぐ入るのは無理ね。巣の奥にはまだどれだけのコボルトがいるか分からないし、真っ向から踏み込めば、相手が有利な状況になってしまう」

「回り込めるルートがあるか探す必要があるな」


 レオンは地面に手をつき、洞窟の入り口付近の地形をじっくり確認する。


「……もし側面や裏口があれば、そこから潜入するのがいいのだが、そう簡単に抜け道があるとも限らない」


 セリナが洞窟に向かって耳を澄ませた後、小さく呟く。


「……風の通り、不自然。別の出口、あるかも」


 サフィアがすぐに反応する。


「なら、見張りを片付けた後、まずは洞窟の周囲を調べましょう。別の入口が見つかれば、それを利用する。それが無理なら、内部の警備がどうなっているか、慎重に探りながら進むしかないわね」


 レオンは深く息を吸い、二人を見た。


「作戦は決まった。まずは見張りを静かに片付ける。その後、洞窟周辺を確認し、最適な侵入ルートを探す。もし裏口が見つからなければ、慎重に正面突破するしかない」


 セリナが短剣を握り直し、静かに頷く。


「……慎重。でも、早く」




 レオンたちは、慎重に身を低くしながら岩場を降り、コボルトの巣の入り口へと接近していった。


 夕闇が迫る中、三体のコボルトはそれぞれの持ち場で警戒を続けている。粗末な槍を構え、鼻をひくつかせながら周囲の異変を探っていた。


 セリナが前に出ると、素早く影に紛れるように姿勢を低くする。その動きは、まるで獲物に忍び寄る狼のようだった。


(……今)


 彼女は一瞬のうちに間合いを詰め、背後から短剣を振るう。コボルトの喉が切り裂かれ、呻き声すら上げる間もなく血が噴き出す。


 次の瞬間、サフィアが低く詠唱を始める。


「静寂の風よ、全ての音を飲み込め――《サイレントブリーズ》」


 風が舞い、静寂が場を包み込む。


 セリナはすかさずもう一体へと飛びかかる。驚いて振り向こうとしたコボルトの口を、今度は逆手に持った短剣が貫く。青白い瞳が恐怖に見開かれ、短い息を吐きながら崩れ落ちた。

 残る一体は異変に気づき、わずかに体を跳ね上げたが――。


「遅い」


 レオンの剣が、その胴を一閃する。衝撃にコボルトの身体が硬直し、そのまま膝をついた。


「……よし、片付いたな」


 レオンは剣を払うと、三体の死体を確認する。サフィアの魔法が解け、再び森の静寂が戻った。

 セリナは手早く周囲を見渡し、洞窟内からの反応を探る。


「……中の気配、変わらない」


 つまり、今の戦闘に気づかれた様子はない。


「このまま、洞窟の周りを確認しましょう」


 サフィアが小声で提案する。

 レオンは頷き、仲間たちに合図を送った。


「慎重に行くぞ」


 三人は死角を利用しながら、洞窟の周囲へと足を進めた。




 レオンたちは慎重に洞窟の周囲を進んでいた。夜の帳が降り始め、森は静寂に包まれている。だが、その闇の奥にはコボルトたちの巣が広がっている。

 セリナが足を止め、鼻をひくつかせた。


「……この辺り、空気の流れ、違う」


 そう呟くと、地面に膝をつき、じっくりと匂いを嗅ぐ。湿った土の臭いに混じり、獣臭い匂いが岩陰から漂っている。

 レオンもその方向を注意深く観察し、岩肌の隙間に目を凝らす。


「こっちの岩陰、少し隙間があるな……」


 サフィアがそっと手をかざし、風の流れを確かめるように目を細めた。


「横穴かしら。試しに中を覗いてみましょう」


 レオンが慎重に覗き込むと、小さな横穴が闇の中へと続いていた。入り口は狭いが、中はある程度の広さがあり、奥へと繋がっているようだった。

 セリナが鼻をひくつかせ、確信したように言う。


「巣……繋がってる。けど、狭い」

「ここなら静かに潜入できる。順番に進もう」


 レオンが先頭を決め、慎重に横穴へと足を踏み入れた。

 サフィアが静かに呟く。


「意外と奥まで続いてるわね……」


 横穴の壁はゴツゴツとしており、所々に擦れた跡がある。どうやらコボルトたちが通る道として使われているようだ。


「慎重に進め。コボルトに見つかると厄介だ」


 レオンが低く囁くと、先行していたセリナが急に手を挙げた。停止の合図だ。


「……前に、二体」


 レオンとサフィアも目を凝らすと、わずかに先の空間に二体のコボルトが巡回しているのが見えた。彼らは警戒しながらも、そこまで気を張っている様子はない。

 レオンが小声で指示を出す。


「ここで戦闘になるか……セリナ、奇襲を頼む」


 セリナは頷くと、静かに短剣を抜いた。そして影のように地面を滑るように進み、背後から一体のコボルトの喉を掻き切った。血が飛び散るが、声を上げる間もなく、コボルトは崩れ落ちる。

 異変に気づいたもう一体が振り向こうとした瞬間、レオンが素早く飛び出し、その首を一閃した。


 コボルトの体が地面に倒れる。静かに、確実に。


「よし、片付いた。先を進むぞ」


 三人は再び足音を忍ばせ、横穴の奥へと進んでいった。




 横穴を抜けると、視界が一気に開けた。

 そこは、コボルトたちが巣の中心にしている広間だった。天井は低いが、奥へと続く通路が複数あり、火の灯された松明が岩壁に並んでいる。その薄暗い光の中、数体のコボルトが獣のような目を光らせながら身を寄せ合っていた。


 その瞬間――。


「グルルッ!?」


 一体のコボルトがこちらに気づき、警戒の唸り声を上げる。


「気づかれたか……! やるぞ!」


 レオンが剣を構えながら前へ出る。それと同時に、コボルトたちが一斉に武器を手に取り、襲いかかってきた。


「……速攻で!」


 セリナが身を低くし、一瞬で間合いを詰める。そして、目の前のコボルトの首を短剣で一閃。鮮血が飛び散るよりも速く、彼女はすでに次の獲物へと向かっていた。

 レオンも剣を振るい、迫るコボルトの槍を弾きながら一体を切り伏せる。


「雷霊よ、火花と弾け、我が敵を焼き払え――《ライトニング・スパーク》!」


 サフィアの詠唱が響き、手元や足元から火花が散る。

 雷弾が飛び、前方に固まっていたコボルト数体を一瞬で焼き尽くした。焼け焦げた臭いが漂い、残ったコボルトたちは恐怖で一瞬足を止める。


 だが、次の瞬間――。


「グルルル……!」


 奥から、一際大きな影が前に出た。

 そのコボルトは他の個体よりも頭一つ分大きく、鎖帷子をまとい、大きな斧を構えている。赤い瞳が鋭く光り、低い唸り声を響かせた。


「隊長格か……!」


 レオンは剣を握り直す。

 コボルト隊長の巨大な斧が、唸りを上げて振り下ろされる。


「くっ!」


 レオンは瞬時に身を引き、刃を交差させるように斬撃を合わせる。金属同士が火花を散らし、衝撃が腕をしびれさせた。コボルト隊長は、並のコボルトとは一線を画す力を持っている。


「グルルル……!」


 獣のように唸ると、コボルト隊長は間髪入れずにもう一撃を繰り出した。斧が横薙ぎに振るわれ、洞窟の岩肌をえぐるほどの勢いで迫る。

 レオンはすかさず低く構え、紙一重で回避。勢いをつけた斬撃で隊長の脇腹を狙うが――。


「チッ、硬い……!」


 刃が鎖帷子に弾かれ、深くは通らない。コボルト隊長はその隙を突いて膝を蹴り上げ、レオンの腹にぶつける。


「ぐっ……!」


 吹き飛ばされかけたレオンは、素早く足を踏みしめ、踏みとどまる。呼吸が乱れそうになるが、それを押さえ込んだ。


「レオン!」


 サフィアが雷の魔法を放とうとするが、レオンが片手を挙げて制止する。


「この距離じゃ巻き込む……俺がやる!」


 隊長格のコボルトは咆哮を上げ、またしても斧を構える。


(隙を作るしかない)


 レオンは一瞬で思考を巡らせた。コボルト隊長の動きは荒々しいが、予備動作が大きい。その重さと腕力に頼りきった攻撃を逆手に取れば――。


「セリナ!」


 レオンが叫ぶと、影のように潜んでいたセリナが動いた。


「……任せて」


 彼女は一瞬で背後に回り、隊長の足を短剣で狙う。しかし――。


「グルルッ!」


 コボルト隊長は察知し、反転するように斧を横に振るった。セリナはギリギリでバク宙し、間合いを取る。


(速い)


 しかし、その一撃でできた隙は決定的だった。


「今だ!」


 レオンは一気に踏み込む。


「悪いが、通してもらう!」


 全力の踏み込みとともに剣を振るう。狙いは鎖帷子の隙間――。


「グルァァァッ!」


 コボルト隊長が咆哮を上げたときには、すでに手遅れだった。

 レオンの刃がその喉元を貫く。巨体が震え、咳き込むように喉から血を噴き出す。斧を振り上げようとするが、腕が力なく落ちる。


 そして――。


「グ……ァ……」


 地面に崩れ落ち、動かなくなった。


 静寂が広間に満ちる。


 レオンは剣を引き抜き、一息つくと、すぐに視線を奥へ向けた。


「……戦闘は終わった。だが、まだ終わりじゃない」


 その言葉と同時に、洞窟の奥から奇妙な詠唱が響いた。


「……奥、強い匂い。生きてる、人の匂い……!」


 セリナが眉をひそめる。

 洞窟の闇の向こう――そこには、不気味な光が揺れていた。


「……あれ……」


 サフィアが目を凝らし、驚愕の声を漏らす。

 粗末な石で作られた祭壇。その上には、縛られた少女の姿。


「……儀式をしてる? まずいわ……!」


 ただの生贄ではない。何かしらの魔術が絡んでいる可能性が高い。

 レオンの表情が険しくなる。


「急ぐぞ、時間がない!」


 三人は即座に動き出した。奥から響く詠唱の声が、大きくなる。


 何かが起きようとしている――それを止めるために、レオンたちは闇の中へと駆け出した。

ご一読くださり、ありがとうございました。

続きが気になる方は是非ブックマーク登録を

お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ