第50話 おしゃれ大作戦!?
宿の部屋は、夕食を終えてほっと一息ついた空気に包まれていた。
丸いテーブルを囲んで、レオン、セリナ、サフィア、そしてリリアの4人が、それぞれの飲み物を手にくつろいでいる。
(初めての専属受付嬢としての仕事、無事に終わって本当に良かった……)
リリアは胸を撫で下ろしながら、カップを両手で包んだ。それと同時に、ふと考える。
(でも、これから私は何をすればいいんだろう? ただの受付じゃなく、専属受付嬢だからこそ、もっと何かできること……)
ぐるぐると考えが巡る中、ふと目に入ったのは、少しだけほつれたセリナの袖口や、旅の埃にまみれたサフィアのローブ。
そして、レオンは相変わらず質素な普段着ばかり。
(そうだ!)
思いついた瞬間、リリアはテーブルをぱんっと叩いて立ち上がった。
「ねえ、せっかくみなさん揃っての初クエストも無事に終わったんですし、明日みんなで買い物しませんか?」
突然の提案に、三人が揃ってリリアを見る。
「買い物?」
レオンが首を傾げる。
「はい! せっかくの機会ですし、新しい服とか、冒険に便利な小物とか、色々揃えましょうよ!」
「いいですね」
サフィアはすぐに賛成してくれた。
「ちょうど旅装束も新調したかったんです」
「……別に」
セリナは相変わらずの素っ気なさだったけれど、ぴくぴく動く耳をリリアは見逃さなかった。
(これは……乗り気なサイン!)
「普段着、そんなに揃えてないもんな」
レオンもあっさり乗ってくれる。
「行くならついでに靴とかも見ておくか」
「決まりですね!」
リリアは勢いよく両手を握る。
(でも、本当は……レオンさんに「可愛い」って言ってもらいたい……)
自分だけのひそかな目標を胸に秘めつつ、リリアの頭の中には、明日着る「特別な一着」のイメージがもう浮かび始めていた。
◆◇◆◇
ブルーヴェイルの中央通りを少し外れたところに、その店はあった。看板には「クローバークローゼット」。
古着屋らしいが、窓際には色とりどりの可愛い服が並んでいる。
「ここ、ここ!」
リリアが先頭で扉を押し開けると、中から元気な声が飛んできた。
「まあまあまあ! 可愛いお客さんが勢ぞろいじゃないの!」
カウンターから顔を出したのは、小柄でふくよかな服屋のおばちゃん。派手なスカーフに、大きな腕輪。肝っ玉母ちゃんって感じの風格だ。
「今日は何? デート服? それとも……夜用?」
「「「よ、夜用!?」」」
サフィアとリリアが同時に真っ赤になり、セリナは耳までぴくんと赤い。
レオンはというと、もうどこを見ればいいのかわからない。
(……なんか、すごい世界に来た気がする)
「まあまあ、冗談よ冗談! さ、好きなだけ見てって!」
おばちゃんのノリに押されるように、三人は店内へ散らばっていく。
「じゃあレオンさん、荷物番お願いしますね!」
リリアが笑顔で荷物を押しつけると、セリナとサフィアも当然のように次々と荷物をレオンに託していく。
「……俺、完全に置いてけぼりだな」
手に持った荷物がずっしり重い。
それでも、視線は自然と店内を走り回る三人へ向かう。セリナは普段と違って、ちらっとフリル付きの服を手に取ったり、サフィアは優雅なワンピースを品定めしていたり、リリアは全力で可愛い系の服をあれこれ迷っている。
(なんだろうな……いつもの装備姿と違いすぎて、変にドキドキする)
冒険者として戦う時とは、まるで別人みたいな笑顔。くるくると服を合わせては、「どうかな?」「似合う?」と盛り上がる女子三人。
レオンは遠目にその様子を見ながら、なんとなく胸がくすぐったいような、落ち着かないような、不思議な気分を味わっていた。
(俺にはよく分からないけど……こういう時間も、悪くないかもな)
◆◇◆◇
試着室のカーテンを閉めた瞬間、リリアは自然とワクワクしていた。四人が揃ってから、みんなとこうして買い物するのは初めてだ。
普段は冒険者の装備を装う姿ばかり見ているセリナやサフィアが、どんな服を選ぶのか――想像しただけで胸が弾む。
まずリリアが選んだのは、白地に小花柄のワンピース。
「どうですか、サフィアさん!」
くるっと回ってスカートをふわりと広げると、サフィアが優しく微笑んだ。
「とても似合ってますよ。リリアさんらしい可愛さです」
(やった!)
素直に褒められて、リリアは心の中でガッツポーズ。
でも次に目を向けたセリナが、予想以上に女の子らしい服を着ているのを見て、思わず目を丸くする。
「セリナさん、それすごく似合ってます!」
黒いノースリーブのブラウスに、カーキ色のスカート。普段の無骨な狩猟服とは違って、ちょっと大人っぽくておしゃれ。
「……動きやすいから」
そう言いながら、セリナはそっけない顔でくるりと回る。
(でも耳がピクピクしてる。絶対、ちょっと嬉しいんだ)
リリアは口元を押さえて笑いそうになるのをこらえた。
それから少しして、リリアは思いついたように声を潜める。
「ねえ、せっかくだから……下着も可愛いのにしません?」
セリナがピタッと動きを止め、振り向く。
「……下着は見せるものじゃない」
即答。でもリリアは引かない。
「そうですけど! 誰にも見せなくても、自分が可愛いの着てるって思うだけで、気分上がるんです!」
サフィアも「それは確かに」と頷いてくれる。
(それに……)
リリアは心の中で、ちょっとだけ本音をこぼす。
(レオンさんに、もし見られることがあったら、その時に恥ずかしくないものにしたいし……)
もちろん口には出せないけれど、顔がほんのり赤くなってしまう。
「こっそり、可愛いの選んでおくっていうのも、いいと思います!」
セリナはふんっとそっぽを向きながらも、目だけ下着コーナーへ泳がせている。
(あれは、気になってるサイン)
リリアはにやりとしながら、そっとサフィアと目を合わせた。
こうして、三人だけの秘密の下着選びが始まる。
その間、レオンには絶対知られちゃいけない――そう思うと、余計にドキドキしてしまうリリアだった。
◆◇◆◇
レオンは部屋の隅、窓際に立ち、壁に向かってじっとしていた。
「絶対に振り向かないでくださいね!」
リリアにそう釘を刺されてから、すでに何分経っただろうか。
(女の子の着替えってこんなに時間かかるのか……)
冒険では魔物と戦い、護衛クエストで何度も危険を潜り抜けてきたレオンだが、この「着替え待ち」の緊張感は、別の意味で試練だった。
「こっちどう?」
「うーん、ちょっとスカート短い?」
「……動きやすい」
そんな声が背後から聞こえてきて、レオンはひたすら目の前の壁だけを見つめる。しかし、次の瞬間――。
「あっ!!」
リリアの声に反応して、思わず反射的に振り向いてしまった。
そして目に飛び込んできたのは――。
サフィアは肩から服がずり落ち、レースの下着がチラリ。
セリナはシャツを脱ぎかけ、引き締まったお腹が丸見え。
リリアはスカートを履き替える途中で、可愛らしいリボン付きの下着がばっちり見えてしまっていた。
「うわああっ!!」
レオンは慌てて両手で顔を覆い、勢いよく壁に向き直る。
「ご、ごめん! 今のは反射だ! 事故だ!!」
「……見た?」
セリナの低い声が、背中に突き刺さる。
「見てない! 何も見てない!」
全力で否定するが、顔が熱くなるのは止められない。
「レオン、目の動き、ちゃんと見てましたよ」
サフィアが柔らかい声でプレッシャーをかけてくる。
「もう、慌てすぎですよ♪」
リリアだけはなぜか楽しそうだが、耳まで赤いのは隠しきれていない。
そして――。
「……見たなら、責任取って」
セリナの低く静かな声が、レオンの背筋をゾクッと這い上がる。
「せ、責任って……!?」
「レオン、大変ですね」
「ふふっ♪」
三人の反応を背中に受けながら、レオンは「なんでこうなるんだよ!」と、頭を抱えるのだった。
◆◇◆◇
「レオンさん、宿の主人に呼ばれてましたよ!」
リリアがそう言うと、レオンは「ああ、わかった」と軽く頷き、部屋を出て行った。
ドアが閉まる音を合図に、部屋の空気がふっと和らぐ。
「ふぅ~、これでようやく女子会タイムですね!」
リリアはベッドにぴょんっと飛び乗り、大きく伸びをした。
「さっきのは、さすがに驚きましたけど……」
サフィアは苦笑いしながら、軽く胸元を押さえる。
「……で、どこまで見えちゃったんでしょうね?」
リリアが声を潜めて、ちょっと悪戯っぽく身を乗り出す。
「さすがに全部は……そう思いたいですけど」
サフィアは少し頬を染めながら、目を伏せた。
「……」
セリナは何も言わないけれど、耳がぴくぴく忙しく動いている。
(わかりやすっ)
リリアはそんなセリナを見て、くすっと笑いそうになるのを堪える。
「せっかく可愛いの買ったんですから、戦利品チェックしちゃいましょう!」
「戦利品……ですか?」
「もちろんです!」
リリアが袋をごそごそ漁り、まず自分のを取り出す。
「じゃーん! 私は可愛い系で攻めます!」
ピンクのレースに小さなリボン。王道の可愛さに、サフィアが「リリアさんらしいですね」と微笑む。
「サフィアさんは?」
「私は……少し大人っぽい感じにしてみました」
淡い紫にシンプルなレース。落ち着いた雰囲気なのに、ちゃんと可愛い。
「素敵です~! すごくサフィアさんっぽい!」
「セリナさんは?」
「……普通」
セリナが取り出したのは、真っ白な下着。シンプルだけど、縁にはふわっと控えめなフリル。
リリアは目を輝かせる。
「ちょっと待ってください! セリナさん、それ絶対狙って選びましたよね?」
「……なかっただけ」
そっぽを向くセリナだけど、耳はほんのり赤い。
「じゃあ、次はお揃いとかどうですか?」
「「お揃い!?」」
サフィアとセリナが声を揃えると、リリアはにんまり。
「3人でお揃いにして、レオンさんを驚かせるんです!」
「……無理」
セリナは即答しながらも、耳はピクピクが止まらない。
「でも、それも楽しそうですね」
サフィアは微笑みながら、どこかくすぐったそうに呟いた。
リリアもセリナも、自然と笑顔になる。
誰が一番とか、そんなの関係なく――レオンさんに「可愛い」って思ってもらえたら嬉しい。
三人の気持ちは、ちょっとだけ重なる。
そんな柔らかい笑い声が、宿の部屋にふわりと響いていた。
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