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第12話 鉱山跡地での経験

 ブルーヴェイルの朝。冒険者ギルドの入口を抜けると、活気に満ちた雰囲気がレオンを出迎えた。Dランクに昇格してから一夜が明け、新しい依頼に期待が膨らむ。

 今日の目当ては「希少鉱石の採取」――昨日ギルドの掲示板に記載されていたDランククエストだ。採掘系の仕事は初めてだが、やり方を学べば新しい道が開けるかもしれない。さらに、先日バルドから「鉱石が欲しい」と言われていたのを思い出し、丁度いいと感じたレオンは、さっそくリリアの元へと足を運んだ。


「リリアさん、おはようございます。『希少鉱石の採取』の依頼を受けたいんですが、詳細を教えてもらえますか?」

「おはようございます、レオンさん。改めてDランク昇格おめでとうございます! 新しいクエストに早速挑戦ですね。ええと……こちらの依頼ですね。採掘場は旧マラグ鉱山跡地になります。かなり昔に掘りつくされた鉱山で、今は一部が崩落している場所もあるので気をつけてくださいね」


 そう言いながらリリアは依頼票を取り出し、採掘場の地図と注意点をレオンに見せる。レオンは真剣な表情でそれらを確認した。


「なるほど……崩落の危険があるなら、慎重に動かなきゃいけませんね。あとは魔物が出る可能性もあるんでしょうか?」

「はい。コボルトや小型の魔物が住み着いているという報告があります。最近は数が増えているみたいなので、絶対に無理はしないで。パーティを組む人も多い依頼ですよ?」

「うーん……今回はひとまず行ってみます。もし厳しそうなら一旦引き上げるつもりです」

「わかりました。クエストの報酬は希少鉱石を規定量集めてくること。レオンさんならきっと大丈夫だと思いますけど、気をつけてくださいね」

「ありがとうございます。では、準備を整えてから出発します。バルドさんに確認したいこともあるので……先に鍛冶屋に寄ってみます」


 そう伝えると、リリアは「行ってらっしゃい」と微笑む。レオンは軽く頭を下げ、ギルドをあとにした。



 いつものように重い扉を開けると、金属を叩く鋭い音が工房の奥から響いてくる。煙った空気と鉄の匂いは、この場所の象徴でもあった。

 入口付近には兜や剣、斧などの装備が所狭しと並んでいる。その奥に、鍛冶屋の親方・バルドのたくましい背中が見えた。


「おお、レオンじゃねえか。ちょうどいいところだ。Dランクに昇格したってな、早いこった」


 バルドは手を止め、レオンを鋭い眼差しで見やる。だが、その口調はどこか嬉しそうにも聞こえる。


「おかげさまで。今日は希少鉱石の採取の依頼を受けたんですけど、バルドさんが欲しいって言ってた鉱石って……」

「ああ、俺が欲しいのは『ルミナイト鉱石』だ。光に反応して鈍く光る金属質の鉱石でな。希少鉱石の一種だけど、もし見つけたら優先的に持ち帰ってくれ。ちゃんと報酬は払う」

「了解です。鉱山跡地で探してみますよ。あと、剣のメンテナンスをお願いできますか? 最近ちょくちょく魔物と戦う場面が増えてきて、どうも切れ味が悪くなってきた気がして……」

「おう、任せとけ。帰ってきたら見せろよ。今日は採掘に使うつるはしも貸してやる。代わりにぶっ壊すんじゃねえぞ?」

「きっ、気をつけます」


 バルドは背後の棚からゴツいつるはしを取り出し、レオンに手渡す。柄の部分は頑丈そうな木製で、先端には重たい金属がしっかりと打ち付けられている。

 その重みを確かめながら、レオンは小さく息をつく。


「まあ、何かあったら引き返せ。鉱山は暗くて足場も悪い。人手が足りないなら、誰かと組むのも手だぞ?」

「はい……(やっぱり周りからもパーティを組めって言われるよな)ま、そのうち考えます」

「よし、行ってこい。無事に帰ってきたら剣を見てやるからな」



 街道をしばらく進み、山道へ入ると、徐々に周囲が岩肌むき出しの荒れ地へと変わっていく。かつてここには大規模な鉱山があったのだろうが、いまは立ち入りが少なく、あちこち崩落している場所も多い。

 レオンは日差しが届くうちに採掘を開始しようと考え、早めに現地へ到着するようペースを上げていた。


「これが鉱山跡地か……想像していたより荒れてるな。傾斜もきつそうだ。足元に気をつけないと」


 つるはしを片手に、崩れかけた岩壁や古い坑道の入口を探す。とはいえ、まったく整備されていないため、危険な箇所だらけだ。

 やがて、背後からかすかな物音を感じた。岩陰にわずかな影がよぎる。レオンは警戒心を強め、剣の柄に手をかける。


「……来たな」


 次の瞬間、岩陰からすばやく飛び出してきたのは、コボルトの二匹組。鼻先の尖った犬のような顔をし、粗末な槍や棍棒を握って威嚇の声を上げる。


「「グルルル……!」」

「二体か……落ち着いて対処すれば問題ない!」


 すばやく剣を引き抜き、間合いを測る。コボルトたちは連携が上手い場合もあるが、二匹なら今までの経験を活かせば十分に勝てるはずだ。

 一匹が吠えながら突進し、棍棒を振り下ろす。レオンはそれをかわし、逆手で槍を持つもう一匹を視界に入れつつ、一瞬で斬りかかる。

 振り下ろされた棍棒を剣でいなし、体勢を崩したコボルトの胴を一閃。血飛沫が舞い、コボルトが倒れ込む。もう一匹のコボルトが槍を突き出すが、レオンは攻撃を紙一重で避け、すれ違いざまに槍の横から腕を切りつける。


「そこだっ!」


 コボルトの左腕が裂け、槍が地面に落ちる。最後の一撃を加える前に、相手の口から苦しげな唸り声が漏れた。レオンは躊躇なく剣を振り下ろし、そのままコボルトを仕留める。

 肉が切れる生々しい感触とともに、コボルトは絶命した。レオンは深呼吸をして周囲を見渡す。追加の敵はいないようだ。足にかすり傷ひとつ負うことなく済ませられたのは、これまでの実戦経験が活きたのだろう。


「ふぅ……今回は怪我なしで済んだか。けど、もう1体多かったら危なかったかもしれないな。やっぱり、パーティを組むべきか……?」


 そう独りごちて、軽く肩を回す。無理をしてソロを貫くより、仲間がいるに越したことはないと感じてはいるのだが、現時点では具体的な相手が思い浮かばない。

 ともあれ、目的は鉱石の採取だ。せっかくコボルトを倒して確保した時間を無駄にしないよう、レオンはあらためて鉱脈を探しに歩き出した。


 崩れかけた坑道の入口を発見し、慎重に中を覗く。完全に暗いわけではないが、奥は不気味な雰囲気を漂わせている。ここでの無理は禁物だ。

 坑道の手前で岩肌を軽くつるはしで叩いてみると、意外にも硬く、金属質の響きが返ってくる。日光が当たる位置で、うっすらと鈍い光が散らばっているのがわかった。


「……これがルミナイト鉱石か。バルドさんの言うとおり、光に反応してわずかに光ってる。よし、ここを重点的に掘ってみよう」


 つるはしを振りかざし、勢いよく岩を砕く。慣れない採掘作業だが、王宮での基礎体力や近頃の冒険で培った筋力が役に立っているのか、苦痛には感じない。むしろ「こんな仕事もできるんだな」と新鮮な気持ちさえある。

 少しずつ削り出すと、光沢を帯びた小さな鉱石の塊が崩れた岩の中に混ざっているのが目に入る。大きさはまばらだが、いくつか拾い集めれば十分な量になりそうだ。


「結構あっさり見つかったな。これなら目標分は揃いそうだ……せっかくだし、他の鉱石も少し見ておこうかな」


 予定より早くルミナイト鉱石が集まったので、レオンは付近に転がっている鉱石の欠片も拾い集める。洞窟の奥まで深入りするつもりはないが、もしバルドが買い取ってくれるなら収入アップに繋がるかもしれない。

 しばらく採掘を続けても、魔物の気配は感じられなかった。コボルトを倒した影響か、それとも単に運が良いのか――どちらにせよ、無事に採掘が終えられるのはありがたい。



 日が傾き始める前に、レオンは街へ戻ってきた。鉱山跡地での採掘は想定よりもスムーズに進んだため、まだ十分な余裕がある。

 まずはバルドへ納品しようと、鍛冶屋の扉を開ける。すると、ガン、と一際大きな金属音が奥から響き、バルドが振り返った。


「おう、無事に帰ったか。で、採れたか?」

「はい、ルミナイト鉱石、これで大丈夫ですか? あと、他にもいくつか別の鉱石が取れたんですけど……」


 レオンは布袋から複数の鉱石の塊を取り出し、作業台の上に並べる。バルドが目を凝らして一つずつ手に取り、トン、トンと叩いては質感を確かめる。


「ほぉ……上等だな。ここまでキレイな状態なら加工もしやすい。まったく、初めてにしちゃ上出来だ。余分な鉱石も買い取ってやるよ。ルミナイト鉱石の分の報酬とは別だ」

「ありがとうございます。つるはしもお借りして本当に助かりました。剣のメンテナンスもお願いできますか?」

「おうよ。おまえさん、戦い方がだんだん板に付いてきたんじゃねえのか? でもまだまだだぞ。鍛冶屋として、もっと上を目指すおまえの姿が見てえんだ」


 バルドはそう言いながら、レオンの剣を受け取り刀身の刃こぼれを確認する。大きなダメージはないが、複数回の戦闘が重なったことで切れ味は落ちているようだ。

 レオンは「お願いします」と頭を下げ、預けることを決めた。


「しばらく剣を預けてもいいですか? 他の武器は……うーん、あまり得意じゃないんですが」

「一日もあれば研ぎ直せるさ。急ぎの依頼がなけりゃそれで十分だろ。預けとけ。ま、次に会うときはもう少し手強い相手とやり合ったって話を聞かせてくれよ」

「はい。これからも精進します」


 バルドから支払われた報酬を受け取ったレオンは、軽く頭を下げて工房を出る。外を見ると夕日が街並みをオレンジに染め、柔らかい影を作り出していた。



 ギルドに戻ったレオンは、受付でリリアに声をかける。コボルトとの戦闘や採掘の成果など、一連の経緯を手短に報告すると、リリアはにこやかに微笑む。


「おかえりなさい、レオンさん! 鉱石の採取、お疲れさまでした! 報告内容、問題ありませんね。Dランクとして初めての採掘クエストで、コボルトも撃破とは……本当にお見事です」

「ありがとうございます。無事に終わってほっとしました。まだ何かあるかと思ってたんですけど、想像よりスムーズでした」

「きちんと対策してたからですよ。これで報酬も加算されますし、いいペースで実績を積んでますね。あ、それと……」


 リリアは書類をまとめてから、レオンをまっすぐ見つめる。その瞳がどこか嬉しそうに光っている。


「あと、何かありました?」

「昇給のお祝いがしたいので、今日の夕飯、一緒にどうですか?」


 一瞬、レオンは言葉が出てこなかった。先日からリリアがいろいろと手助けをしてくれるのはわかっていたが、こんな風に直接誘われるとは想像していなかったからだ。

 周囲をちらりと見回すと、他の冒険者が耳をそばだてている気配もある。気まずいような、照れくさいような感情が混じり、レオンは視線をあちこちにそらす。


「い、いや、そんな……お祝いだなんて……」

「ダメですか?」


 小首をかしげるその仕草に、レオンの胸がどきりと跳ねる。リリアの目はまっすぐにこちらを見つめ、返事を待っている。周囲の視線を気にしながらも、レオンは意を決して口を開いた。


「……いえ、せっかくなのでご一緒します。もしご迷惑じゃなければ……」

「よかった! じゃあ、ギルドの閉館後に待ち合わせましょう。場所は……そうですね、街外れの小さな食堂が最近お気に入りなんです」


 リリアが楽しそうに笑顔を見せる。その姿に、レオンは少しだけ頬を赤らめながらも、「わかりました」と素直にうなずく。



 その場を離れると、周囲からは軽い茶化しや羨望の声が聞こえるが、レオンは恥ずかしさもあって足早にギルドを出る。夕陽が濃くなった街並みを見つめながら、思わずため息をついた。


「……まさかリリアさんから夕食に誘われるとは……。でも、嬉しいな」


 一方で、最近感じている仲間の必要性や謎の人物の視線など、気になることも多い。特に、ソロで戦うことの限界は徐々に見え始めている。

 だが、今日はひとまずクエスト達成と昇給の喜びをかみしめよう。バルド工房での成功、ギルドでの評価、そしてリリアからの食事の誘い――どれもが自分が歩む道を肯定してくれている気がした。

 夜が更ける前に一度宿屋で身支度を整え、リリアとの待ち合わせ場所へ向かおう。ほんの少しだけ胸が高鳴るのを感じながら、レオンは街外れの夕闇の中を足取り軽く歩き出す。


 こうして、Dランクになって初めての採掘クエストを無事終えたレオン。新たな一歩を踏み出すたびに、周囲の人々との繋がりも少しずつ深まっていく。彼の冒険者としての日々は、依然として多くの試練や謎を孕んでいるが、その一方で、確かな成果と新しい出会いが彼をさらに前へと進めていた。

ご一読くださり、ありがとうございました。

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