KAUPO STORE
しばらくして、リンドバーグ(の墓)へ別れを告げて、再び車を南へ走らせる。
天気は、ハナ方面にしてはすこぶるいい、このまま車を走らせてもよさそうだと、次の場所へと向かうことにして車を走らせることとした。
今日の目的地はここだけではない、キパフルのリンドバークの墓のある地区を抜けると、周りの景色が変わってくる。
背の高い木々が徐々に減っていき、視界がだんだんと開けてくる。
ここからは、道は徐々に西南から西南西の方角に角度を変えていき、南側に開けた地となるので、北東貿易風の影響を受けることが少なくなる。
今までの鬱蒼とした熱帯雨林から変わって、徐々に乾燥した空気を含んだ土地に変わる。
いつの間にか右手にはハレアカラが、姿を現してくる。
ハレアカラ、ハワイ語で「太陽の家」という意味である。その意味の通り、今日は快晴だ。
キパフルから南へ走ると道は、ハナハイウェイからピイラニハイウェイ(31号線)へと変わるが、だんだんと舗装は、がたがたになっていき、対向車とのすれ違いには気を遣う幅しかなく、ハイウェイというのは名ばかり、しかもハナハイウェイよりも厳しいと実感する。
(ここのハイウェイを走った数か月後に、地元レンジャーの人が落石で命を落としたとの記事を見た時には、レンタカーオフィスのあの女性のいうことは正しかったんだと、ちょっと冷や汗をかいたのは、内緒話)
そうこうするうちにモクーラウビーチを過ぎ、ハイクに入る。
右手のトレイルへと曲がる道を通り過ぎると目的地はすぐそこだ。
KAUPO STORE、ここが今日のもう一つの目的地だ。
予め場所は検討をつけていたので、これだと思うそれらしき建物を見つけで、ハイウェイから右手に入り建物の前の空き地に車を止める。
車から降りて、周りを見回すと、ちょっと古びた看板が一つ道沿いにポツンと佇んでいた。今ではこの店以外には建物はほとんど見当たらない。
以前は、ここの近隣にサトウキビ農場や牧場関係者の家が点在して、それなりに人は住んでいたのだが、今ではその面影はほとんどない。(今では、代わりにゲストハウスなんかができているようだ。)
ここは昔サトウキビ産業が盛んだったころにできた老舗のジェネラルストアである。
サトウキビ産業が廃れて人が減った今では、半ば観光客相手の商売をしているようだ。
ホテルを出たのが昼からだったので、もう陽はかなり傾いてきていた。
店舗は、ハワイのちょっと前の店や住宅の造りである階段数段分高床となっている。
かなり年季の入った階段を上りながら入り口を見上げると、「BEER WINE SAKE」と書かれた看板と、
「KAUPO STORE」の板にペンキで書いた看板が入り口の上に掲げてある。
その看板をくぐり店に入る。
やはり場所のせいか、景気はあまりよくないだろう。店内には、いつからそこに並べられたかはわからない商品が置かれているが値札だけは真新しい、値札だけ書き直したのだろう。
店の一方の壁の棚には、売り物ではないカメラが棚一面に並んでいて、棚板には、観光客がおいていっただろう各国の紙幣が貼りつけられている。
店の中は、ここだけ時間が止まっているような感じがしたが、一つだけ、棚の反対側から聞こえてくる音、そう、そこにある冷蔵庫はしっかり現役だった。
しばらく店の中を眺めていたら、店のオーナーらしき中年と呼ぶには早すぎるlate 30’sくらいの女性から、もう閉める時間だからと言われた。
冷蔵庫からミネラルウォーターを1本取り出して、彼女に支払いをし、貰ったお釣りの中からクォーターを1枚、Tipsと書かれたボトルに入れた。
女性は、愛想笑いを返して、店を閉める用意を始めたので、店を出ることとした。
女性は入り口の扉を閉めてCLOSEDの札を扉に立てかけた。
陽は、さっきより傾きを増しており、自分の影が長くなっていた。
夜の帳が降りてから、この道を戻るのは、結構危ないので、目的も済ませたので早々に帰ることとした。
女性は車に乗るときに、どっから来たのと聞いてきたので、「ヒロ」だと答えておいた。
彼女は、私が着ていたアロハがシグゼーンのものだとわかっていたのだろうか、ここの地味目のシャツは観光客はまず、買わないので、どっかの島から来たんだろうと思ったのか、そんな声をかけてきた。
彼女は一瞬、納得したような顔を見せて、「じゃ気を付けてね、いい旅を」と言ってフォードのピックアップトラックで夕陽の中を走り去っていった。
夕陽が射す影がまた長くなってきた。
私は車に戻り、さっき買った水を一口飲んでキャップを閉め、ボトルを後ろの座席に放り込んで車をハナに向けて走らせた。
(続く)