5.二年生、春(1)
昼頃だというのに妙に暗い空から、雪よりも冷たそうな雨が、延々と落ちてきている。僕は待合室の奥、かつて改札のあった側の反対の端で、道路に面した窓の方を向いて座っていた。普段は逆の、改札というか事務室の側にいることが多いけれど、珍しく、二人のおばあさんが先客としてそこにいたので、そこを素通りして別の席を探した。そして僕に少しだけ遅れて現れた彼女も、同じ過程を経て、僕の隣にいた。彼女は笑って僕のところに向かい、僕はそれを(たぶん)笑って出迎えたというのは、正反対だったけれど。僕が左に傘を置いて、彼女は右に置いていたのと同じように対称に、と言うべきかもしれない。
――どうだった……とか聞きそうになったんだけど、どうもこうもないか。
何が、と彼女は言わなかったけれど、僕には、それが彼女の終業式のことなのだと、はっきり分かった。僕も同じような時間を過ごしたところだったからという以上の理由が、僕には、あるいは僕たちにはあったから。
――校長先生の話とか、真面目に聞いてそうだよね。
笑いながら僕が否定すると、彼女もまた笑った。そして、やっぱりだいたいの内容は同じだったということ、僕は椅子の準備をしたけど彼女は特にそういう役割はなかったといった違いについて話した。離任式のために何日か後に学校に行かなければならないこと、それが面倒だということは同じだった。仲の良かった家庭科の先生が移るらしいので、それを彼女が残念がっているのは、僕と違うところだった。修了式と終業式の違いが分からないのは同じだった。僕はダウンジャケットの下で、彼女はダッフルコートの下で凍えているのも、きっと同じだった。
ベンチは冷たく、待合室の広さをストーブは持て余し、まるで暖める効果が追いついていない。靴や靴下、ズボンやスカートも濡れている。
――三年生かぁ。いやだわー、受験勉強とか。
うつむき、コートのトグルをいじくりながらため息交じりに彼女はそう言ったけれど、その後にはすぐ部活のことが続いた。最近は雨や雪が多くて練習ができていないこと、それでも四月になればきっと本格的に始められるということ、最後の大会があるからやれるだけ頑張るということ、一年生の時には先輩のやる気に困惑したけれど、今ならそれもよく分かるということ。
雨音を背景にした彼女の声は、本当に自然で、何というか、心の実物そのままであるように思えた。そこにあるものをただ写し取って表現しているだけのように。
きっと彼女は夏頃まで部活に打ち込み、その後には猛烈に勉強し始めるのだろう。今だって、バス停で僕より先に来ていれば、一人でも友達といるときでも、ノートや参考書を広げていることが多い。そういうときには、いつもの笑顔からすると意外なほど、あるいはもしかしたら同じ心が原因の、難しい顔や真剣な表情をしている。
きっと、部活に臨んでいるときも、同じなんだろうと思った。何かただ漠然と、しなければならないことだからとしか感じられず、先のこと、先にあるいろいろな悪い可能性ばかりを考えてしまう僕とは違って。見せろと彼女に何度かせがまれた書きかけの小説も、そのおかげで相変わらず完成が遠い。受験勉強という言い訳で、これからまた遠のくと思う。できの悪さ(自分が一番分かっている)以上に、いつまでもそれに全力をかけられない自分が恥ずかしかった。