暇な時間は終わりを告げる
「暇だなぁ……。」
暇だ。暇すぎる。スマホないから動画も見れないしゲームも出来ないし。携帯ゲーム機買っときゃよかった。
そうじゃん。取りに行けばいいじゃん。休みとはいえどっかの部活はやってんだろ。学校行くなら制服か。ササッと用意して行くか。
「えーっと、貴重品類持った。学生証持った。定期持った。よし行くか」
そうして駅へと行き、いつもと同じホームで電車に乗った。
スマホがなくてやることがないため、窓の外の景色を見る。いつも見ているからこれといって新しい発見はないが、仕方ない。
そうこうしているうちに駅に着いた。最寄りから学校まで10分くらいなのでぼーっと歩いているうちににもう着いていた。
「失礼しまーす。」
職員室に入ると、担任の姿が目に入った。
「あれ?一ノ瀬?どうした今日からGWで学校休みだぞ?」
「田村先生。教室にスマホ忘れたんですよ。だから取りに来ました。」
「お前もか。ほれ、教室の鍵。」
そう言って教室の鍵を投げてきたのを、何とかキャッチする。「ナイスキャッチ―」とか言うな普通に渡せよ!
というか『も』?俺より前に忘れ物取りに来たやつでもいたのか。
「ありがとうございまーす。」
「あ、ついでにゴミ捨てしといてくれる?多分してないから。」
「はーい」
なんかパシリみたいな仕事が増えた気がするが気のせいだろう。うん気のせいだ。
渡された鍵で教室に入る。
「お、あったあった。うわ通知すご。」
ゲームのスタミナ系通知に親からの連絡。椿さんからだったり蒼野達からも来てるな。えーっと『学校にスマホ忘れてたから今見た。』と。こういう時の一斉送信はとても助かる。
ゴミ捨てて、鍵閉めて、よし帰ろう。帰ってゴロゴロしよう。
「あれ?一ノ瀬?何してんのこんなところで?」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、そこには蒼野がいた。
「蒼野?忘れ物取りに来たんだよ。そっちは?」
「私も忘れ物。取ったあとに少しブラブラしてた。」
ああ先生が「お前も」って言ってたっけ。
「へー、何忘れたんだよ。」
「課題。さすがにまずいと思って取りに来た。一ノ瀬は?」
「スマホ。忘れて昨日はめちゃくちゃ大変だった。」
「スマホかー。スマホはないと不便過ぎるよね。」
うんうんと腕を組みながら共感している蒼野。
「あと暇過ぎたってのもあるけど。スマホに全部入ってるからマジでやること無かった。」
「暇なら課題しなよ〜。どうせギリギリになってやるタイプでしょ一ノ瀬。」
やれやれといった感じで頭を振っている。凄い決めつけだ……。
フッ、だが相手が悪かったな!
「残念だったな。既に課題は終わっている。」
「はぁ!?まだ初日の午後でしょ?絶対嘘でしょ!」
「GW開始前に終わらせたんだよ。配布自体は少し前にされてるんだし。」
休みは怠惰な生活をしたいから、課題はなるべく早く終わらせるようにしている。
「は〜なるほどなるほど。真面目だねぇ。」
「課題は早めに終わらせてゴロゴロするタイプなんでね。その代わり暇な時間ができる。」
「……駄目じゃん。」
「うっせ。」
感心した顔から一転、呆れ顔になった蒼野に突っこまれた。
「あ、そうだ暇ならファミレス行かない?この近くにあるじゃん?」
「……………………は?2人で?」
思いがけない提案をされて思わず固まる。
「2人で。」
Please Wait。待て待て待て待て!なんで?どうして?俺と?2人で?
いや、まぁ人付き合いが良い人ってこんな感じなのか。ならお言葉に甘えてもいいのか……?
「おーけー。いいよ行こう。」
「へぇ…」
「ん?なんだよ。」
なにか感心したような声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
「いーや別に。行こう行こう。あ、私の奢りでいいからね。」
「え?いや流石にそれは、」
「いーのいーの。助けてくれたお礼まだだったし。お礼させてよ。」
そう言って財布を取り出して見せつけてくる蒼野。
……その理由なら、仕方ないか。
「分かった。それならよろしく頼む。」
お礼……か。別にいいんだけどな。
にしても女子と2人でご飯なんて初めての経験だ。
え?椿さんはカウントしないのかだって?アレは蛮族の類だから大丈夫。
不安はあるが、そこまで悲惨なことにはならないだろうと思い、蒼野とファミレスへと向かった。