保護者………?
「で?なんで今日遅れそうになったのさ。」
「え?」
ご飯を待っていると、椿さんが突然そんなことを聞いてきた。
「遅れることなんて全然ないのに珍しいなって思ってさ。」
「色々あったんすよ色々。」
「だからその色々を聞いてんだってば。教えろよ〜。」
「嫌ですけど?」
この人には教えたくない。絶対ネタにされることが確定しているからな!この人こういう話題大好きだからね!
「今日金出すの誰?」
「それはズルじゃ?」
それを出されると何も言えんのよ。
「おらおら〜タダ飯食いたかったら教えろよ〜。」
えぇ…なんでそんなん知りたがるんだよこの人。ええい、なんとでもなれぇい!
「かくかくしかじかうんたらかんたら…………」
「へぇ…あんたにも春が来たか……」
うんうんと腕を組んでしみじみと頷く椿さん。
「保護者か何か?」
「だってねぇ。小さい時から知ってるしもはや保護者というか親よ。」
「え、嫌。」
「はぁ!?」
おっとつい本音が。絶賛婚活中の人に親とか言われてもキモイ以外の言葉ないでしょうよ。でもまぁ小さい時から面倒見てもらってはいたけれども。それとこれとは話が別では?
「で?ここ1ヶ月誰とも関わりがなかった遥が?急にマドンナ3人と?お友達に?さらにその中の1人と?特に仲良く?へぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「しつこいんですけど!」
やっぱ教えるんじゃなかった!
「だってさぁ〜あんた顔いいのに学校だと隠してるんでしょ?勿体ないと椿さん思うワケ。」
「いいじゃないですか別に。面倒事に巻き込まれたくないんですよ。」
「え?いや…え?」
「へ?」
なに言ってんだこいつみたいな顔で見てくる。
「いや、もう起こしてない?面倒事。男子たちとさ…」
「あ、たしかに。」
言われてみれば。
「これからどうするのさ。同性の友達消えたってことになるけど?」
「どうすればいいんですかねぇ。俺が1番聞きたいですよ。」
「もう顔出しちゃえば?そうしたら色々言うヤツらも消えるでしょ。」
「それも考えはしたんですけど…蒼野達に悪いかなって。顔が良いってのが分かったから仲良くなったって思われたりしそうですし。俺もそんな風に寄ってくる人は嫌っすね」
「なるほどな〜。なんかよく考えてるのがムカつく。」
「なんでだよ。」
迂闊に顔出しして中学校みたいになりたくないんだよ。あんなのはもう嫌だ。本当に…嫌……なんだよ。
「………………ほら、好きなの頼んでいいよ。」
気、遣わせたかな。顔に出てたか……伊達に保護者名乗ってないな。でも、今はそれがありがたい。
「はい。ってかまだ飲み物しか頼んでなかったんですか!?てっきり一品くらいは頼んでるものかと。」
「忘れてた。」
「はぁ…じゃお言葉に甘えてクッソ高いの頼みますね。えーっと1番高い黒毛和牛のステーキとガーリックライスと……」
「ちょ、待て待て待て!好きな物頼んでもいいとは言ったけどさ!もうちょっとこう遠慮とか無いの!?」
めちゃくちゃ慌ててる。
やれやれ、長い付き合いなんだからそれくらい予想してくれないと。
「やだな〜何言ってるんですか椿さん。そんなのある訳ないじゃないですか。」
「こんのクソガキ…!」
凄い恨み節を言いたそうにしているが、無視して頼んじゃお。
「すいませーん!注文良いですかー!」
「……まぁいっか。うんいつもの顔になったじゃん。」
「………?なんか言いました?」
「いや?なんでも。」
満足げにニマニマしてるの気持ち悪っ。
「なんかニヤニヤしてて気持ち悪いんでやめて貰ってもいいですか?」
「ホントにクソガキが……!」
「くっ、あははは!」
聞こえてるっての。全く敵わないな、この人には。あの時も助けて貰ったしな。
「……ありがとう。」
□
「あー、食った食った。ご馳走様〜椿様。」
「ホントに財布すっからかんになるまで食いやがって!」
「言い出しっぺが何言ってるんですか。」
好きなだけ食べていいって言ったのそっちじゃん。
「次の仕事覚えてなさいよ…!」
「じゃ、俺こっちなんで。お疲れ様でした〜。また奢ってくださいね」
そろそろやばいな。
逃げるようにその場を後にしようとしたら。
「自重覚えたら奢ってやるよ!」
後ろからそんな言葉が聞こえた。それは、つまり。
「覚えたら、良いんですね……?」
「あっ、いや、あのぉ」
俺の視線から逃げるように顔を背ける椿さん。しかしもう遅い。
「現言質取りましたからねー。さよならー!」
「はあ。全く……小賢しくなっちゃって。」
本当にこれからどうしよっかな。このままだと学校楽しくないだろうしな。どうにか自分から動いて男友達作るか?まぁ十中八九無理だろうけど、やるだけやってみるか。ステーキの値段に釣り合うように、蒼野達の評判の為に。
年上の世話焼きお姉さん……いいですよね。欲しかったです……