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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第五章 夜明け
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一線を、越えて

何も言葉を発さずに、ただ電車に揺られている。聞こえるのは電車が線路を走る音とそれ以上にうるさい自分の心臓の音。隣は見れない。ただ、繋いでる手が渚も同じ気持ちなんだと伝えてくる。

緊張していると時間というものはあっという間に過ぎていくもので、気づけば最寄り駅に着いていた。

無言のまま電車を降り、駅を後にする。

家まで少し距離があるから15分くらい歩かないといけない。チャリは……まあ明日取りにいけばいいか。


「コンビニ、寄ってもいいか」

「え?————あ、いい、よ」


急に決まったことだからまだアレを買ってなかった。大きさは自分のだから誰よりもわかってるしさっさと買うか。薄さは……良い感じので。


「お待たせ」

「う、うん」


気まずい空気のまま、俺たちは家まで歩いた。

それから、家に帰って、お互いに風呂に入って、無言かつ少し距離を開けてベッドに座っている。この状態がもう20分は続いている。どっちからいくのか我慢比べみたいになってる。

いや、状況把握はいいから俺。

漢を見せろ一ノ瀬遥。よし、いくぞ。


「なぎ—————」


そこには、服のボタンが全部外され前が開き、煽情的なデザインのネグリジェが顔を覗かせていた。そしてそんな服を着ている当の本人は、真っ赤な顔を背けながらも服の裾を引っ張ってその下着を強調していた。

プツンと、何かが切れる音がしたと思ったら、いつの間にか渚を押し倒していた。


「……なんでそんなの持ってるんだよ」


なけなしの理性が言葉を紡がせる。


「凛さんがくれた……というかこの家に置いててくれたみたいでさっき連絡くれた」


母さん……!悔しいけどいい仕事をしてくれた。ほんとに悔しいけどセンスは抜群にいいからとても似合ってる。

しかしどうやら褒める時間はないらしい。そろそろなけなしの理性も尽きそうだ。


「……いいか」

「ん」


肩の力を抜き、体をベッドに預けたのを確認して、行為にうつる。

何をしたかなんて詳しく言えるわけないが、ただ一つ言えることがあるとすれば、最初から最後まで幸せだった。



  ▢



朝、健康的な人ならもう一日が始まるような時間帯に俺たちは風呂に入っている。二人で入るには少し狭いが、密着できるなら悪くない。

渚の腰に手を回し、お風呂を堪能する。


「朝までしちゃったね」

「したなぁ」


ちなみに今日は平日なので二人して学校を休んでいる。十中八九噂されているだろうが、こればっかりは仕方ない。


「なんか、変な気分」

「変?」


胸板にもたれかかって来た渚を受け止めながら話を聞く。


「なんかこう、もっと激しいイメージがあったから」

「えっなに激しめが好きなの?」

「違うわ!」

「ぐふっ!」


ツッコミで肘で腹をどつかれた。結構痛いんだからなそれ。

どつかれた部分をさすっていると、またなにか言いたそうにしている彼女が見えた。


「もしかしなくても……気遣ってくれた?」

「そりゃ遣うとも。立てなくなったりしたら困るからな」


うんうんと頷きながら、先程までしていたことを思い出す。丁寧ではあったけど、それでも涙目で俺を求める渚の顔はとても良いものであった。


「何考えてるの」

「いや?渚可愛かったな、と」

「わ、忘れろぉ!」

「いやでーす」


渚を抱えて何も抵抗できないようにする。渚は暴れてバシャバシャお湯がはねるけど、対して効果は無いし、腕の力を弱める気もない。

そんなことをしていると、ふと視界が滲んだ。どうやら眠気が限界らしい。お風呂で寝る訳にもいかないし、名残惜しいが出なくては。


「そろそろ出よう。さすがに眠くなってきた」

「実は私も」


えへへ、とはにかむような笑顔をしている渚を抱きしめたいのをグッとこらえて、お風呂を後にした。



  ▢



『カシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!』

「……んぁ?」


何かを連続して撮る音が聞こえて、薄目で世界を確認する。徐々に意識が覚醒していく中で捉えたのは、ニヤニヤしながら一眼レフで写真を撮っている母さんだった。

一拍遅れて状況を理解する。確かあの後俺のベッドは使えないから二人してソファで寝た。うちのソファは結構大きいから二人くらいならくっつけば充分寝れる。

そしてそのままぐっすりと、母さんたちが帰ってくる時間まで寝てしまったらしい。


「随分とやかましいアラームだな」

「やかましい言うな。いいじゃん記録しておくくらい」


渚を起こさないように小さい声で会話をする。その間にもシャッターを切る音が響く。


「渚起きるだろ」

「ん……」

「ほら」


目を覚ました渚は、寝ぼけ眼で俺を見ると子供のような笑顔を見せた。多分母さんには気づいてないなこれ。


「おはよっ」

「おはよう」

「おっはよー!」

「!?」


母さんの声が聞こえた瞬間、渚の肩が跳ねた。続いて冷や汗だらだらかつ少し顔を赤くしながら、声がした方向へゆっくりと首を向ける。


「り、凛さん」

「随分幸せそうな寝顔してたね〜」

「わ、忘れてください……」


それから、母さんはご飯の準備をするからってキッチンへと向かった。どうやら20時くらいまで寝ていたらしく、渚もせっかくならと食べていくことになった。

父さんは……なんか酔いつぶれてた。なんで?

酔いつぶれたバカの介抱をしているうちに晩御飯が完成していた。どうやらカレーらしい。まあ渚も食べれるだろう。カレーが苦手な人類はいないからな(辛さは考慮しないものとする)。

そして、なんというか、案の定うちのカレーは辛かったらしく、渚は一口毎に涙目になって水を飲んでいた。『代わりに食べようか』と提案しても、『大丈夫だから!』と謎の意地で断られた。

格闘すること30分、何とか完食した渚は死に体になりながらも帰る用意を始めた。今まで忘れていたが、そういや明日も学校があるんだ。明日……多分登校した途端に色々言われるんだろうなぁ。もしくは暖かい目で見られるか。どっちも嫌だな?


「遥ー、私帰るよー」

「はいはーい」


なんか駅まで送るのが当たり前みたいに声掛けてくるな。いやまあ送るんだけど。

駅までの道でするのも、なんて事ない世間話。あと何回、こんな話が出来るのだろうか。


「それじゃ、また明日」

「……ああ、また明日」

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