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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第五章 夜明け
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あけおめことよろ

「遥ー、あんた初詣行くんじゃないの?もう時間でしょ?」

「もうそろ行くー」

『ピーンポーン』

「宅配かな。私出てくるー」


コタツでぬくぬくしながらみかんを食べる。やはり冬のこの時間は至高だ。テレビでやっている番組は軒並み新年特番。今更、今年が終わるのだと大晦日の今日に実感する。

日は既に沈み、時計の針は10時を指していた。待ち合わせは11時なのでそろそろ準備をしなければならない……が、コタツにハマって抜け出せない。


「……まだいけるな」

「『まだいけるな』じゃないさっさと出なさい」


そう言われて肩を掴まれた。


「別に急いで準備すれば間に合うし大丈夫だって母さ……え?」


その声は、家族の誰のものでもなかった。けれどとても聞き覚えのある、なんなら気分がよくなる声だった。


「な、渚!?なんで!?」

「迎えに来たついでにこの前泊めてもらったお礼を届けに来たの。そしたら凛さんから『コタツに籠ってる遥をなんとかして』って言われたから」

「母さん渚は卑怯だろ!」


遅れてリビングに戻ってきた母さんに文句を言う。渚を使うのは禁止カードにも程がある。普通にズルい。


「正当だとは思うけど?遥、渚ちゃんの言うことなら絶対聞くし」

「だから言ってんだけど?」

「ほら出るよー。よい、しょー!」


掛け声と共に体がこたつの外に引っ張られるのを全力で抵抗しようとすると、足に何かが絡まった。


「やめろ!まだ俺のユートピアがそこにあるんだ!」


引っ張られるが、足に絡まったものに引っかかってビクともしない。


「力強っ!?そんなにこたつが大事!?」

「これは……!」

「ふふ、手伝おう息子よ」

「父さん!」

「冬のこたつは至高!それを楽しむのを何人たりとも邪魔してなるものか!」


いつの間にかこたつに入ってきた父さんが脚を絡ませてくれていた。これはアツい。このままいけばギリギリまでこたつを堪能でき……。


「えい」

「「いだだだだだだだだだだだ!!!」」


一瞬何が起きたか分からなかったが、どうやら渚が俺の体をねじったらしい。そのせいで足が絡みに絡んで痛みを生んだようだ。

痛みに力が弱まった隙を突かれてこたつから引きずり出された。


「はい私の勝ちー」

「はいはい準備すればいいんだろ」


引きずり出されては仕方ない。めんどくさいけど大人しく準備しますかね。


「嫌そうにしちゃって。私とこたつどっちが大事なのさ」


冗談交じりに渚がそんなことを聞いてきた。普通なら仕事が比較対象なんだが、こたつも出世したもんだ。それに、比べる物の次元が違うだろ。

自分の部屋に向かいながら、通りすがりに渚の頭をポンと軽く叩く。


「それ、ダイアモンドと石ころ比べてるようなもんだぞ」


それだけ言って俺はリビングをあとにした。


「──お二人とも、あれどう思いますか」

「我が息子ながら罪な男……」

「僕には出来ないやあんなこと」



  ▢



「お待たせしましたー」

「待たされまし……た?」


用意を終えてリビングへと戻ると、渚に不思議そうな顔をされた。計画通り。


「どうよ」


そう言って俺は自分の髪を見せる。というのも、先日美容院に行ってウルフカットにしてもらったのだ。さっきまではセットも何もしていない状態だったので急に変わって驚いただろう。


「なんか新鮮」

「ウルフ、ウィッグとかならつけたことあったんだけど、実際にやるのは初めてだからな。新鮮じゃなかったら逆に怖い」

「ほー、うんうん、似合ってる。かっこいい」

「サンキュー。それじゃ待たせるわけにもいかないから、そろそろ行くか」


そして、俺たちは集合場所である神社へと向かった。



  ▢



「お待たせ〜」


着いた時には、既に俺たち以外は集合していた。何故だろうか、遅れていないはずなのに遅れた気分になる。


「お、やっと来たね」

「遅いぞー!」

「時間通りだろ。勝手に遅刻扱いするなよ」


待ち合わせ場所には海瀬と鈴名がいた。今回はこれで全員だ。あの二人は、喜野一家と陽菜さん一家で旅行に行っているらしく、まずこの県にいない。

腕時計を見ると、時刻は23時ちょうどだ。まだ少し日付が変わるまで時間があるな。


「まだ時間あるし、ちょっと回るか?」

「そうだねー」

「甘酒飲みたーい」

「なら行こうか」


回ると言ってもほとんどは年が明けてからやることなので、今できるのは甘酒飲むことくらいしか無かったなと決まってから思った。


「みんな飲む?」

「「飲む」」

「私はいいや」


飲むのは渚以外の3人。なんで飲まないんだと理由を聞いてみたところ、まず飲んだことがないらしく、嫌いというか怖いらしい。法律上はお酒じゃないしいけるとは思うけど、本人がいらないって言ってるならいいか。

甘酒を売ってるところまで行って、人数分の甘酒を貰って戻ると、何やらみんな石の道を挟んだ向かい側に注目している。


「お待たせー」

「サンキュー」

「ありがとう」

「で、何見てたんだ?」

「ああ、あれあれ」


渚に言われた方向を見ると、そこにはクラスメイト達がいた。全員というわけではないが、まあそれなりにはいるみたいだ。

こっちに手を振ってきているので、こっちも振り返す。すると男子たちから「お前はいらん」とシッシッと手で払われたんだが。あいつら……!


「やっぱ美味しいね甘酒」

「久しぶりに飲んだけどやっぱいいな」


甘酒を飲みながら時間を確認するとまだあと30分はある。一体何をしようかと考えていると、唯一飲んでいない渚からとある質問が飛んできた。


「みんなこの一年どうだった?」

「面白かった!」

「色んな友達も出来たしとても有意義な一年だったよ」

「激動にも程があったな……」


だってそうだろう。高校に入学する前は色々限界だったし、落ち着いて過ごせるかと思いきや、死にかけてた渚を助けて、そしたらなんか2人付いてきて、悪目立ちして、喜野と友達になって、夏に恋のキューピットになって、文化祭で前を向いて、それからは渚のために奔走する日々だった。

今思い返してみると。


「……なんか全部渚が悪い気がする」

「くっ……心当たりしかないから強く言えない……」


自覚があって大変よろしい。


「そういえば2人はクリスマス、どう過ごしたんだい?」

「遥っちと渚っちのイチャイチャクリスマス気になる〜」

「「あー……」」


クリスマス、クリスマスかあ……。ちょっとなあ……。


「「?」」

「「……実は───」」


クリスマスに何があったのかを、2人に説明した。


「「一ノ瀬(遥っち)が風邪引いて何もしてない!?」」

「いやぁ面目ない。緊張の糸がほどけて一気に疲れが来たのか40度いったからな熱」

「看病しに行った時本当にキツそうだったよねー」

「2人のイチャイチャ聞けると思ったのになー」

「もしあっても言わんわ」


あの時も思ったけど、やっぱり俺のプライバシーに関してだけ法律が働いていない気がする。


「ゴミ、捨ててくるけど飲み終わった?」


そう言って飲み終わったらしい鈴名が手を差し出してきた。自分のを見ると、あと一口……いや半口くらい残っていた。


「渚、一口だけいる?」

「うーん……どうしよっかな……」


何事にも挑戦あるのみだ。これで飲めるってわかったら今度から一緒に飲めるしな。とはいえ無理強いは良くない。早くゴミを捨てたそうにしてるから、すぐに決められないなら俺が飲むんだけどな。


「はーやーくー」

「しゃーない、渚また今度な」


そう言って残りの甘酒を口に含む、その寸前で渚からの返答が帰ってきた。


「やっぱ飲む」

「あ」


時すでに遅し。甘酒は物理法則に則って、俺の口の中へと流れてしまった。


「あー!ちょっとー!」


抗議して来るが、これ俺悪くないだろ。早く言わなかったのが悪い。

ふと、鈴名にゴミを渡した時に、邪な考えが頭をかすめた。我ながらヤバいとは思うが、思いついてしまったのなら仕方ない。渚は一体どんな反応をするのか、未知への探究は止まらないんだ。

鈴名と海瀬がゴミを捨てに行った時を見計らって、甘酒を口に含んだまま、渚にキスをする。


「─!?」


抗議してたせいで開いていた口に甘酒を流し込む。俗に言う口移しというやつだ。

渚が苦しくないようにゆっくりと流し込んでいく。渚に触れている手で嚥下の振動を感じながら。

……なんか表現気持ち悪い気がする。

渚が飲み終わったのを確認して、口を離す。


「──何してんの!?」

「魔が差した」

「差しすぎ!」


うん、俺もそう思う。でも人間って止まれない時あるじゃん。今がそれだったんだよ。


「で、味は?」

「んなもんわかるかぁ!」


顔を真っ赤にした渚が襲いかかってくるのを凌いでいると、とあるものが目に入った。というより今まで忘れていた。

────クラスメイトいるじゃん。

向こうも何が起きたのか分からず固まっているらしい。そして、俺がどこを見ているのか気になったのか、渚も同じ方向を見た。


「どこ見て…………ぁ」


どうやら気づいたらしく、耳まで真っ赤にしながら、俺の服の裾を引っ張ってきた。


「ハルカ……サン?」

「マジですまん」


もちろん俺も耳まで真っ赤である。それもそうだ。だって「クラスメイトに甘酒を口移しで飲ませてる場面」を見られたら誰だってそうなるだろ。


「お待たせ……ってどしたの2人とも、顔真っ赤にして」

「「なんでもないなんでもない!」」

「どうせイチャイチャしていたんだろうさ。ほら、それよりそろそろ年が変わるよ」


言われて時計を見ると、年明けまであと5分をきっていた。

この5分のうちに、今一度今年を振り返ってみた。

何も無かった中学校の終わり。いずれ全てを捧げる人との出会い。癖の強い友達。自分自身の成長。そして、今横にいる彼女が出来た。

彼女の方を向くと、笑顔を返してくれた。さっきあったことなんて忘れてしまっているらしい。どうせ後で思い返して悶絶するんだろうけど。

そんな彼女に出逢えただけでも、今年は最高だったと言えるだろう。

残り10秒。カウントダウンが始まる。


『10、9、8、7……』


繋いでいる手に力を込める。そこにある繋がりを改めて感じた。これ以上のいい新年を望むのは欲張りだろう。ならせめて。


『3、2、1、0!』

「あけおめことよろー!」

「あけおめー!」

「あけましておめでとう」

「あけおめ」


新年は、前年と同じくらいでお願いしようかな。

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