クリスマスパーティ、開催!
「おはよー遥」
「おはよう、父さん」
朝から瀕死の重傷を負った理性を何とか治療してリビングに顔を出す。
すると、言いにくそうな顔をした母さんがいた。
「あのー、ラブラブなのはいいんですけど、周りのことも考えて欲しいなぁと。朝っぱらからはちょっと気まずい」
「やってねぇよ!?!?」
「あっしてないの!?」
「どこをどう見たらそうなるんだよ!」
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。一体どうして……って、あれかあ。
確かにベッドをギシギシいわせてはいた。
「してないけどイチャイチャはしてた」
「してたんかい」
獣になりかけたのは黙っておこう。
「おはよう、ございます」
「おはよー渚ちゃん」
少しして渚も降りてきた。よく見ると、少し顔が赤い。その理由は言うまでもないし、そんな様子の渚を見ていると、さっきの渚の台詞がフラッシュバックしてこっちまで顔が熱くなる。
「お、おはよう渚」
「おは、よう遥」
互いに意識してしまって挨拶がガチガチになった。そして、そんな様子の俺たちを見逃すほど、母さんは甘くない。
「……やっぱやる事やったでしょ」
「やってないってば!」
「その雰囲気は事後しかありえん」
何を言い出すんだこの人は。一応渚もいるんだぞ。
ほら見ろ顔真っ赤にして固まってんじゃんか。
「決めつけるのは良くないぞ母さん。そう思った根拠はなんなんだよ」
「私たちがそうだったから」
「……………………」
…………何も言い返せない。根拠が実体験は強すぎる。あと親のそんな生々しいこと聞きたくなかった。
「まぁしてないならしてないで信じるけどさ。それより、今日結局クリパするの?」
「する……」
なんだろう、これ俺がおかしいのか?そんな簡単に切り替えれるものなの?ま、いいか。
今日、12月24日はクリスマスイブ。少し前からクリスマスパーティをしようと企画されていて、クジに負けた結果俺の家ですることになった。開始時刻はだいたい正午。今は9時半くらい。まだ約3時間ほど時間がある。
「あー、渚どうする?なんか必要なもの取りに帰る?」
「別にこれといって必要なものないんだよね。みんなで交換するプレゼントは学校の鞄の中にあったから」
一応予定としてはプレゼント交換をすることになっている。交換するということで誰に渡っても変じゃないものを選ぶのは骨が折れた。
「なら大丈夫か」
「んじゃ、私たちはお暇させていただきます」
「お暇って2人で買い物行くだけじゃん」
この家を使うので母さんと父さんには少しの間外出してもらう。といってもたまたま予定が噛み合っただけだが。
「あと3時間弱、水入らずで楽しんで」
「何をだよ」
「そんなの言わせないでよ」
「何を想像してんの!?」
変なことを言うだけ言って2人は家を出ていった。1回ぶん殴ったらスッキリするかなこれ。
「……飯でも食うか。渚は何がいい?って食パンしかねえ」
「なんでもいいよ。シェフのおまかせで」
「ならタバスコ入れるわ」
「ごめんやっぱ自分でやる」
それから2人で冷蔵庫にあるものを使って、いい感じの朝ごはんを作ることにした。共同作業してて思ったけど、なんかこれ夫婦みたいだな。
「なんかさ、こうしてると夫婦みたいだよな」
「へ!?──あ」
「あ」
言うタイミングが悪かった。渚はちょうど目玉焼きを作ろうと卵を割るところだった。そして俺の台詞に驚いた渚はそのまま卵をグシャッと潰してしまって、黄身も割れてしまった。
「はーるーかー!」
「すまん」
「こいつスクランブルエッグ行きね」
「へいへい」
俺の分の目玉焼きはスクランブルエッグになったりしたけど、何とか美味しそうな朝ご飯を作ることができた。
「「いただきまーす」」
「ん、美味い!」
「案外何とかなるもんだね〜」
俺たち2人ともお腹が減っていたらしく、ペロリと平らげてしまった。食べ終わったあとは2人でご馳走様をし、食器をササッと洗ってソファでくつろぐことにした。
「………………」
「………………」
沈黙が続く。けれど気まずくはないし、なんなら心地良いまである。隣に渚がいるということがこんなだとは思わなかった。
「なんか、まだ上の空な感じがする」
そんな沈黙を破ったのは、渚だった。朝の情報番組を眺めながら、そう口にした。
「上の空?」
「うん。今まではさ、色々考えてたんだよ。どうやったら楽しい一日を過ごせるのかって」
「あー」
確かに今までの彼女は高校卒業というタイムリミットがあった。
「だからさ、こんな風に何も考えずにゴロゴロしてていいのかなって考えちゃう」
でも、今はそれがない。俺がそうしたんだ。確かに今まで普通にやってたことを急にしなくてよくなるのは不安に感じるだろう。けれど、それでいいんだよ。
隣に座る渚を引き寄せて、渚の頭に手を伸ばし、肩に乗せて撫でる。
「いいんだよ、何も考えずに過ごしたって。逆に今まで頑張って、なんなら頑張り過ぎだったんだから、俺としては休んで欲しいし。焦らなくても、俺はずっと傍にいるから」
「……うん」
「だから、今は思う存分甘えてくれ」
多分渚の性格上有り得ないけど、俺は渚を養う覚悟も準備もできてる。今まで一人で頑張ってきたんだから、これからは他人を頼ることも覚えて欲しい。
「……なら、膝枕」
「へ?」
「膝枕、して」
自分の欲を出すのが恥ずかしいのか、渚は少し頬を赤くしながらそう言った。
「いいよ」
可愛い彼女の頼みとあらば仕方ない。撫でてた手を離して、ポンポンと自分の太ももを叩いて催促する。
すると、肩に乗っていた頭がそのまま太ももまで下がってきた。
「思ったより筋肉あるね」
「まあ、筋トレしてるからな。モデルって体型維持大変なんだよ」
「服入らなくなったら困るもんね」
「椿さんにドヤされるんだよなぁ」
左手で頭を撫でながら、右手で髪を梳く。頭を撫でられるのが気持ちいいのか少しずつ表情が緩んできた。髪もサラサラで、心地良い。
「ね、遥」
「ん?」
ちょいちょいと手招きをしてきた。
……なんかこの後の展開予想できるぞ。なら、先手必勝。
言われた通りに顔を近づけて、そのままノータイムでキスをした。
「んん!?」
「あれ?違ったか?」
唇を離しながらそう聞くと、渚は目線を逸らし、口を尖らせながら不満そうに口を開いた。
「いや、違わないけどさ……」
「けど?」
「こんなに分かられてるのがちょっとムカつく」
「なんでだよ」
「だって私は遥が何考えてるかわっかんないし」
なるほど。俺個人としては理解するために頑張ってくれる渚はとても可愛いので是非ともそのままでいて欲しいのだが。
「これから分かるようになると思うぞ」
「まあずっと一緒にいるんだしね」
「ずっと一緒に居て分からなかったら普通にショック」
「ふふっ、なら努力しないとだね」
「他人事みたいに言ってるけど頑張るのお前だからな」
それからも渚を撫でながら他愛のない話をしたり、普通にイチャコラしたりしていたら、インターホンが鳴った。
「ん?」
「へ?」
時間を確認すると既に12時近かった。あっという間に時間が経っていたらしい。
画面を確認すると、いつもの4人が見えた。本来なら渚は用事があるとかで今日は少し遅れての参加だった。でも俺が引きずり込んだので誰よりも早く着いていることになる。
このうち俺たちの状況を知っているのは海瀬と鈴名だけ。残りの2人はどんな反応をするんだろうか。
「はいはーい」
『来たよー』
「今開けるわ」
インターホンの通話を切って玄関に向かう前に渚に提案してみる。
「2人で出てみない?」
「アリ。それならちょっと待ってて」
「?」
そう行って渚は上に上がってしまった。なんか忘れ物でもしてたのかな。
そう思いながら待っていると2分くらいで降りてきた。
「何して……はい?」
そこに居たのはさっきまでの服とは全く異なるものを着ていた渚だった。
あれ、彼シャツってやつ。なんで場所知ってるんだとかそんなものどうでもいい。眼福過ぎる。俺の方が体格はゴツイので渚にとっては結構なオーバーサイズらしく萌え袖の形になっていたのがさらに刺さる。
「感想は?」
「控えめに言って最高」
「100点満点の回答ありがと。よしこれで行こう」
「マジかよ」
そのまま渚の後ろをついて行き、玄関の扉を開けた。
「「お邪魔しまーす」」
「「お邪魔しまー……え?」」
何も知らない2人は渚を視界に入れた瞬間に固まってしまった。教科書に乗るレベルの模範的な反応。素晴らしい。
「「いらっしゃーい」」
「プレゼントはご祝儀だったか ……」
「彼シャツとは最初からイチャイチャしてはりますな〜」
事情を知っている2人はいつもみたいに茶化してくる。ご祝儀はどうせいつかたかるので今はしまってて欲しい。
「え、はい?」
「えっと、つまり?」
「あれです、『私たち付き合い始めました』ってやつです」
「「ええええええええええええ!?」」
クリスマスパーティは陽菜さんと喜野の元気な声から始まった。




