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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第五章 夜明け
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ハロウィンパーティー

「ハッピーハロウィーーン!!」

「「いぇーーい!!!」」

文化祭と中間テストを終え、ハロウィンがやって来た。誰かが「パーティしたい」と言い出したのがきっかけで今回のハロウィンパーティーが渚の家で開催された。

メンバーはいつも5人+陽菜さんの6人。もちろんみんなそれぞれ仮装をしている。

鈴名はゾンビナース。怖いメイクも彼女の明るさの前では霞んでしまっている。

海瀬はキョンシーゾンビ。話を聞くにどうやら鈴名のリクエストらしく、少し恥ずかしそうにしている。文化祭で着たメイド服の方が恥ずかしいと思うんだが。

陽菜さんは悪魔というかサキュバスというか、曖昧な仮装だ。どこをどう見たって喜野を殺しに来ている気しかしない。

渚は魔女。フリルなどがついた可愛いやつかと思いきや、黒一色のかっこいいタイプだった。それでも充分可愛いから俺としては満足なんだが。

「あのさ、1ついい?」

各々食べたいお菓子などを食べようと手を伸ばしていると、陽菜さんがみんなを止めた。

「どうした陽菜姉」

「どうしたもこうしたも……2人だけガチすぎるでしょ!」

そう言って俺と喜野を指さした。

まぁ、陽菜さんの言ってることも分からなくは無い。なにせ俺と喜野だけメイクのレベルが段違いなのだから。

事の発端は少し前。男女で別れて着替えようとなった時に遡る。

「喜野ってなんの仮装すんの?」

「フランケンシュタイン。そっちは?」

「ドラキュラ。あっちはどんな感じなんだろうな」

「多分集合したときに世の男子が羨む光景が広がってるんだろうな」

そのとき、俺たちは仮装について話しながら着替えていた。そして服を着てあとはメイクだけとなった時に、俺は提案したのだ。

「俺がメイクしようか?」

と。モデルの仕事の時はメイクさんにやって貰っているが、一応それなりにちゃんとしたメイクは出来る。なのでよければと思ってやった結果がこれである。

メイクというかもはや特殊メイクになってしまった。フランケンシュタインの縫い目なんか本物にしか見えない。俺も俺でウィッグやカラコンもしっかり用意しておそらくこの中で一番ガチな見た目をしている自信がある。

「職業病ですねぇ……。火がついたというかなんというか」

「来年は私もお願い!」

「まさかのそっち!?」

まさか自分も誘って欲しかったという文句だったとは。まぁ別にメイクすることは問題じゃないんだよ。問題はガチメイクした陽菜さんに喜野が耐えられるかなんだよ。今でも若干怪しいし。よく見ると必死に歯を食いしばって耐えてる。

…………早めにお開きにしてやろう。

「んじゃ、いただきまーす」

「あっ、ずるい!」

みんなが止まっている隙に自分の食べたいお菓子を取る。渚からなんか言われたが、気にしない気にしない。

「私もー!」

「なら私も」

俺を皮切りに、みんな食べたいお菓子を食べ始めた。

しばらくすると、スマホに通知が来た。中身を確認すると、アネゴからの写真だった。どうやら手芸部でハロウィンパーティーらしい。相変わらず仮装のクオリティがおかしい。商品化したら飛ぶように売れるようなデザインの仮装が写真に写っている。

それをみんなに共有すると、「こっちも写真撮って送ろう」と鈴名が言ったため、みんなでいい感じの画角を探して撮った写真をアネゴに送り返したりなんかもあった。

みんなでワイワイしながら食べるお菓子はとても美味しかったが、クッキーなどを食べているとやはり喉が渇く。

すると、タイミングよく誰かが部屋に入ってきた。

「はーい、みんな飲み物どうぞ〜」

「「「ありがとうございまーす」」」

入ってきたのは浅葱紗枝あさぎさえさん。渚の叔母さんで、この家には渚と紗枝さんと、あと叔父さんの浅葱勇斗あさぎゆうとさんと3人で住んでいるらしい。

昔なじみの鈴名と海瀬、そして最近何度か家に呼ばれている俺とは面識があって、たまに話したりする。なんで叔父叔母と住んでいるのかは気になるが、他人の家庭環境に口を出すのはご法度だ。

「みんな何時にお家に帰るの?」

紗枝さんから貰った飲み物を飲んでいると、そんなことを聞かれた。俺は晩御飯の用意などもあるだろうし、そこまで長居する予定はないが、家の鍵を忘れてしまった。親に開けてもらおうと思っても、帰ってくるのが少し遅いらしい。なので18時くらいにここを出ようと考えている。

「うーん、17時くらいですかね」

「私も」

「俺もそれくらいですね」

「タカがそう言うなら私も」

どうやらみんな17時までらしい。

……どうしたものか。流石に1時間何をするでもなくただ外にいるだけというのも困る。

「俺は18時ですね。今日家の鍵忘れちゃって。しかも親が帰ってくるのが少し遅いらしいので」

「ツイてないなぁお前」

「ほんとにツイてないわ最近」

同情の眼差しを送ってくる喜野。

というのも、ここ最近、車に泥水をかけられたり、乗った電車が止まったり、自転車がパンクしていたりと不運なことしか起きていない。

「みんな帰ったあと……は暇になるから、片付けでも手伝おうかなと。ここで徳を積んで不運を断ち切りたい」

「え、いいの?」

「このゴミたちも放置でいいと?」

「いえす」

そう言った途端に、全員から尊敬の眼差しで見られた。俺としてはただ不運すぎて迷信じみたものに頼らざる得ないからなんだが。

──ん?全員?

「いや、渚は手伝えよ?みんな帰ったらお前もやることないだろ」

「ちくしょう見逃されなかった!しれっといけるかと思ったのに!」

「ちなみにお前が手伝わんのなら俺は片付けん」

「拒否権がない!」

悔しそうにしているが、ここお前の家だしお前の部屋だろ。片付けなきゃ自分の部屋が汚くなるだけだぞ。

「というわけで、俺と渚が片付けるからそのままで大丈夫です」

「「「はーい」」」

「えーーー」

1人不満そうな声が聞こえたが無視無視。そしてそんな渚を見て、紗枝さんは微笑ましそうにしていた。

でもやっぱり、いつかの渚と同じように、その顔はどこか寂しげな感じがした。

「それじゃ、ごゆっくり〜」

紗枝さんが退出した後、今度は喜野が「クラスのみんなに写真送ろうぜ」と言って、もう1枚写真を撮ってそれをクラスラインに送………ろうとして失敗しやがった。

「あ、やべ」

見るからに焦ってそうなセリフを吐く喜野の方を見ると、本当にヤバいと思っているらしく、冷や汗が止まらない様子だった。

「おい待てどうした。そこまで焦るってよっぽどだろ」

「送る写真間違えた」

「何を送ったんだい?」

「夏のあの2人の車でのツーショ」

俺と渚以外のみんなは、「あ〜」と喜野が犯したミスを理解したらしいが、俺たちには全く分からない。分からないが、ポケットの中でとてつもない量の通知音が鳴っているスマホのことを考えると、特級呪物のようなものを送ってしまったのだろうか。

「ちょっと何送ったか見せろ」

「……これを、間違えてクラスラインに送りました」

弁明する気もないらしい喜野が素直にその写真とやらを見せてきた。それを俺と渚は覗き込む。

そこには、互いの肩に寄りかかり、挙句の果てには手を繋いで寝ていた俺と渚が写っていた。

「「!?!?!?」」

この写真に写っている行為をしていたという事実に顔が熱くなる。隣を見ると渚も同じように耳まで真っ赤だ。

「ま、待て!お前、これ送ったのか!?」

「マジですまん。何でもするから許してくれ」

「マジかよ……」

おそるおそるポケットからスマホを取りだしてラインを確認する。爆速で流れていくため、誰が何を書いているのか全く分からない。かろうじて怨嗟の声が見えたくらいだった。

手遅れかもしれないが、一応弁明しておく。

『これは、車の揺れでこうなっただけだから!お前らが思ってるようなことは起きてないので!』

そう伝えて、スマホの電源を切り、喜野に向き直る。

「……何でもするって言ったよな?」

「あっいや、そう言いましたけど」

何をされるのかと不安気な喜野。安心しろ、別に変なことはしない。ああしないとも。

「陽菜さん。都合よく喜野にサイズぴったりな服をそれなりに持ってたりしませんか?」

ただ着せ替え人形にするだけだ。

「都合よくあるんだよね〜」

さすがは喜野ガチ勢。いい感じにちょっとおかしい。

「おい待て!な?俺たち親友だろ?」

「ああ、親友だとも。だからこれで許してやるって言ってるんだよ。陽菜さん、GO」

「ラジャー」

「ちょっ、ぎゃああああああああ!」

そうして、俺が満足するまで喜野は陽菜さんに着せ替え人形にされた。

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