後夜祭
「よし、それじゃあ実行委員最後の会議を始める……が、まぁ最後だし別にいっか。みんなお疲れ様!」
「「「おつかれー!」」」
みんなが踊っている中、実行委員は最後の会議が始まった。最後ということでもう形式とか知ったこっちゃない。もうみんな好きなようにしてる。
「えーっと、何やるんだっけ」
「学校に文化祭中に何があったのかを報告するんですよ」
「あーそうそう。ありがとう」
みんな適当すぎるしやる気もなさすぎる。それも仕方ないか。だってここにいるってことはダンスを踊れないってことだから。
「何があったかって言われても……大きすぎる問題が全部持ってった感はある」
「その節は大変ご迷惑をお掛けしました……」
改めてここにいる全員に謝罪する。母さんの分までそれはもう深々と頭を下げる。
「いやぁあれは凄かった」
「なんかもうモラルどっかいってたよなみんな」
「確か全学年で注意入ったんだっけ?」
そう、さすがに問題視されたらしく全学年で指導が入ったらしい。本当に申し訳ない。
「まぁこれで懲りるでしょ」
「だね。というか、もしかしなくてもそのことだけ書けば終わるんじゃ?」
「「「……………………」」」
誰かのそんな一言に俺を含む全員の雰囲気が変わった。
そして実行委員長が口を開く。
「よし!全員見聞きした意見をまとめろ!そして一ノ瀬!当事者として感じたことを全部出せ!さっさとこんなクソみたいな仕事終えて帰るぞ!」
「「「「おおーー!!!」」」」
そこからは全員とてつもない速度で書き出し、ついに報告書を作り上げたのだが、終わったのはみんなが帰った後だった。
「はあ……」
教室に荷物を取りに向かいながら、窓越しに校庭を見る。人影はほとんどなく、いるのはキャンプファイヤーの後片付けをしている人たちだけだ。佐々木はちゃっかり自分の荷物を持ってきてたから直帰していた。つまり俺一人で余韻に浸っている。悲しい。
教室に着くと、どうやら誰かが鍵をかけ忘れたらしく扉が少し空いていた。
不用心だなと思いつつ、その扉を開けて荷物を取りに行く。
「わあ!」
「!?―――っつ……!」
誰かの大きな声に驚いて、脛を椅子にぶつけた。
「あははは!驚きすぎやろ!」
笑いながら教室の電気を点ける人の声と口調に聞き覚えがある。というかここ最近毎日聞いている声だ。
「た~ち~ば~な~!」
「ごめんやん?そんな驚くとは思わんかってん」
アネゴこと橘だった。
「てかなんでまだいるんだよ。もうみんなとっくに帰ってるだろ」
「忘れ物を探しっとったんよ。そしたらこんな時間になっとって帰ろうとしたときにふと思ってな。『これそろそろ一ノ瀬はん帰ってくるな?』って。んで電気消して隠れてたんよ」
「小学生みたいな思考回路に引っかかったのが悔しい。ここ閉めるからさっさと帰れよ」
さっさと帰ろう。そう思って荷物を取って教室を出ようとしたら、アネゴに呼び止められた。
「ちょい待ちーな」
「ん?」
アネゴのほうを振り返る。その顔がちょっと顔が赤い気がするが気のせいだろうか。
「後夜祭踊れなかった一ノ瀬はんや、ウチと一曲踊ってくれへんか?」
「……まじ?」
「マジ。さすがに踊れんかったのは可哀そうやしな。ここは一肌脱いでやろうやないかってわけよ」
そう言って、教室の机を動かして踊れるスペースを作るアネゴ。どうやら踊る気満々らしい。こちらとしても断る理由はないし、アネゴと踊ろう。
「――喜んで」
舞踏会なんかでよく見る上品なダンスじゃなく、みんなで楽しむための簡単な踊り。けれどそれが楽しくて、互いに笑いながら踊った。
急造の舞台は狭くて、踊っている途中で何度も足をぶつけてバランスを崩した。
他にも互いの足を踏んでこけたりしながらも、あっという間に踊り終わった。
「ありがとうな、踊ってくれて」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
互いにお礼を言って、それぞれ荷物を持ち、鍵をかけて歩き出す。方向が違うため校門でのお別れになるから、そこまでは今日あったことについて話した。
他人から話を聞けば聞くほど、今回の騒動の深刻さを感じる。中学のころとは違う、また別の。けれど、『やばい』以外の感想は出てこなかった。今までなら過去がフラッシュバックして気分が悪くなったり吐いたりしていたのに、どこか他人事のように考えている。
この成長は良いことなのかはわからない。でも、少なくとも前には進めているのだと、そう思うことにした。もし詰まっても周りを頼ればいいって、アネゴが教えてくれたから。
そんなことを考えていると、いつの間にか校門に着いていた。
「んじゃ、またな」
「また休み明けになー」
アネゴに別れを告げて、帰路についた。
こうして、激動の文化祭は終わりを迎えた。




