文化祭準備その1
9月。それは秋の始まりであり、学期が変わる時期。
この時期にはほとんどの学校でとあるイベントが開催される。
「えー、それじゃ、文化祭の出しものを決めまーす」
「「「いええええええええええええい!!!!」」」
そう、文化祭である。クラス一丸となって取り組む一大イベントだ。俺も楽しみではあるが、1つだけ誤算というか、ちょっと納得いっていないことがある。
「熱量があるのはいいんだけど、それを開放するのは何やるか決まってからで頼む。今は仕舞っててくれ」
俺は今、黒板の前に立って、進行役をしている。あれだ、文化祭の実行委員ってやつだ。
体育祭の振り分けをランダムに選んで決めたうちの学校は、今回もくじ引きで実行委員を決めることになった。
で、その結果俺が選ばれたってワケ。もう1人、女子のほうは佐々木。数回話した程度の仲なのでちょこっとだけ気まずかったり。やっぱこの学校おかしいとは思うが、選ばれた以上真面目にやらなくては。
「んじゃ、案ある人からじゃんじゃん言ってくれ」
「縁日!」
「お化け屋敷!」
「カジノ!」
出てくる案を佐々木が黒板に書いていく。1年は3年みたいに模擬店を開けないので、定番のものが黒板に増えていく。
「コンカフェ!」
おい待て今変なのいたぞ。
「誰だコンカフェ出したやつ」
「はい!」
元気な返事をするのは戸崎。このクラスのお調子者。
「提供するのは市販のやつ?」
「そうそう、いい感じによそえばそれっぽくなるだろ?」
ふむ、確かにそれなら問題ないか……。
「ならありか……」
とりあえず黒板に書いてもらう。
「ヘイ一ノ瀬」
と、そこで見知った顔から呼び止められた。いつぞやの体育祭で詰め寄ってきた近藤である。
「どうした近藤」
「コンカフェって何よ」
「あー……」
近藤の疑問は最もだ。コンカフェなんて知ってるやつそうそういないもんな。
「コンセプトカフェって言うんだけど、そうだなぁ……分かりやすい例を挙げると、メイドカフェとか?あんな感じでとあるコンセプトに則った接客だったり恰好をするやつのことだな」
前にテレビで見た情報だからうろ覚えだけど。
「なるほどなぁ。恰好ってコスプレ?」
「そうなるな。自由度の点で見るとこれが一番自由だとは思う。コンセプトも決めなきゃだしな」
考えなきゃいけないことはたくさんあるけど、その分自分たちの考えを反映させやすいのは確かだと思う。まあ問題はそれをほかの女子とかがどう思うのかだな。
「コスプレ……ありじゃない?」
「メイド服とか着てみたいよね」
「絶対かわいいよね!」
おや?どうやら女子たちには好印象らしい。
「なら俺たちはタキシードか?」
「アリだな」
ん?なんかメイド・執事喫茶になる方向で話が進んでないか?というか本当にコンカフェでいいのか!?
提案した戸崎でさえ思いのほか受け入れられて困惑してるぞ。
「……ほかに案は、ないよな?」
一応聞いてみるが、特に新しい案が挙がることはなかったし、もうクラス全員がメイド・執事喫茶をやる気になっている。
「これ……投票しなくてもいいよな?」
「私もやってみたいし満場一致ってことにしちゃおう」
佐々木も同じ意見だったらしく、結果として投票はせず俺たちのクラスの出しものはメイド・執事喫茶になった。そして俺は確信した。このクラス、いい意味でやばいクラスだなと。
「メイド・執事喫茶に決まったけど、衣装はどうするんだ?」
出しものが決まって騒がしくなった教室に質問を投げかける。
「はいはーい!ウチらに任せとき!」
「アネゴ?」
彼女は"アネゴ"こと橘由美香。真っ赤なポニテと器の広さと関西弁のフレンドリーさからクラスでは"アネゴ"と言われるようになった。周りにいるのはアネゴと同じく手芸部の長谷川と大平。
「衣装って言っても着回すからそんな多くないやろ?男女合わせて10着ちょっとくらいやろうし、そんくらいなら手芸部のウチらがちょちょいと作ったるわ!」
「「「アネゴ……!」」」
クラスメイト全員が感動している。さすがに姉御肌が過ぎるだろ。
「まあ、そっちに付きっ切りになるから装飾とかはあんま参加できんやろうけど」
「いや、十分すぎる。もし人手が必要なら遠慮なく言ってくれ。多分全員快く引き受けてくれるから」
みんなのほうを確認すると、全員首が取れるくらい頷いていた。
「ならそのときは甘えさせてもらうわ」
こうして、俺たちは月末の文化祭に向けての準備を始めることになった。




