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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第四章 文化祭
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夏休みの終わり

夏休み最終日。親も仕事でおらず、もちろんやることもないのでダラダラしている。最終日くらい何も考えずにグータラしても許されると思いたい。

そう思い、いつものように動画アプリを開こうとしたとき。

『ピーンポーン』

インターホンが鳴った。

「宅配か?」

俺は何か買った記憶はないし、母さんのかな。

リビングへ行き、インターホンに出……ようと思ったが、画面に映った人を見た途端にその気が失せた。

椿さんである。なんかもう居留守使おうかな………。

出るかどうか迷っていると、スマホが震えた。そこには、『いるのは分かってるんだからな~』というメッセージが。

出ればいいんでしょ出れば!

「はいはい、なんの用ですか」

『あ、やっと出た。とりあえず開けてくんない?』

「俺今用件聞いたはずなんですけど」

『中で話すから。さっさとあけてよ~』

「はぁ…わかりましたよ」

絶対面倒なことになりそうだなと思いながら、玄関まで行きドアを開ける。

「おっひさ~」

「昨日会ったばかりなんですけど。光速で生活してます?」

「つれないな~。あ、喉乾いたから水かなんかちょうだい」

な、なんという厚かましさ。凄いな、人ってここまで厚顔無恥になれるんだ……。

「態度デカ」

「ん?なんか言った?」

「いえ何も」

文句の一つや二つ言ってやろうと思ったけど、ヘッドロックの構えをされてはどうしようもない。

リビングまで椿さんを案内した後、言われた通りにお茶を出す。

「ん~~ぷはっ。生き返るわ~」

「で、なんの用ですかこんな絶妙な時間に」

そう、現在時刻は16時。夕方と言って差し支えない時間帯だ。

「プリン買ったからお裾分け」

なるほど。ただただ美味しいプリンを買ったからよければどうぞと。

「それくらいのことなら玄関先で言ってくれないかなぁ!?」

「………前から思ってたけど、遥って私に対してだけ遠慮ってもんが無くない??」

「そうですけど」

何をいまさら。

「なんで!?」

「え、日ごろの行い」

「ちくしょう何も言い返せねぇ!」

自覚あるんかい。それなら普段からちゃんとしてくれればいいのに。というかしてくれ、頼むから。

「毎回仕事終わりに愚痴聞かされてるこっちの身にもなってくれます?」

「それはごめんとは思ってる」

なるほど。悪いと思ってるのにやっていると。てか言い方的にこれからもやられるんだろう。

早くいい人見つけて結婚してくれないかな……。

「んじゃ用終わったならさっさと帰ってください」

「え~、もうちょっとお姉さんとお話ししようよ~」

「性格言葉使い立ち振る舞い直してから出直してくださーい」

「顔以外全部じゃん!?」

ふむ、どうやら言語処理能力は問題ないらしい。

「遥、もしかしてめちゃくちゃ失礼なこと考えてない?」

「はい」

「そっか~、さすがにそこまでひどくはないかー……って"はい"!?そこは「考えてませんよ」って否定しなよ!」

……なんだろう、この人からかうのすっごい楽しい。もっとしたい。

「考えてたのは事実ですし」

「なんと可愛げのない……」

「椿さんに割く可愛げはないんで」

そのあとも、お互いにわーきゃー言い合った。

ふと時計を見ると、すでに18時を過ぎていた。

「うげ、もう18時?」

その言葉に椿さんも時間を確認する。

「うわホントだ。え、なに私たち2時間も言い合ってたの?」

「考えたくないですけどそうですね」

スマホの溜まった通知を消化していると、母さんからのメッセージが目に留まる。

『今日残業確定。食事自作頼』

なぜ偽中国語なのかは置いといて、晩御飯かぁ。

「冷蔵庫になんかあるかな……」

キッチンへ行き、冷蔵庫の中身を確認する。

………何もない。自炊しない一人暮らしの社会人くらいなにもない。

これはひどい。さすがに家でゴロゴロしすぎた。

「何、凛さん残業?」

頭を抱えた俺が気になったのか、冷蔵庫を覗きに来た。

「……自炊しない一人暮らしの社会人?」

「買いに行かないとですねぇこれは」

「ね、遥。お金出すから私の分もお願いしてもいい?」

手を合わせ、ウインクしながらお願いしてくる。

「まぁ、1人も2人も変わらないからいいですけど」

「やった!」

子供みたいに喜ぶ椿さん。この人こういうところは可愛いんだよな。

「じゃ、食材買いに行きますけど、何食べたいですか?」

お金を出してくれるなら、内容は椿さんの好きなものにしようと聞いたところ、キョトンと首を傾げられた。

「何言ってんの、私もついていくけど」

「え?」

「料理できなくても荷物持ちくらいならできますー」

と口を尖らせながら言う。

「ならめちゃくちゃ買いますけどいいですね?」

「お姉さんに任せなさーい」

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