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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第四章 文化祭
46/78

場所を問わず咲く

「暇………」

夏休みも終盤に差し掛かり、怠惰な学生達が悲鳴を上げる頃。

先に宿題を終わらせている俺は、何をすることもなく、ただただゴロゴロしていた。

「ソシャゲのイベントも終わらせたしな……」

暇を埋めるために、何かないかと考えを巡らしながら部屋を見渡すと、ふとクローゼットが目に留まる。

そういえばこの前断捨離したせいで秋服が少なくなったんだっけ。

時計を見ると、14時を示していた。

「ちょうどいいし買いに行くか」

そう決心し、軽く身支度を整え、家を出た。



  □



「…………買いすぎたなこれ」

モールに着いて約2時間。

あれもいいなこれもいいなとポンポン服を買ってしまった。おかげ様でもうそろそろ両腕が埋まりそうだ。ウィンドウショッピングで済ませようと思ったのが間違いだったと腕から伝わる重さで痛感する。

「我慢を覚えようぜ、俺よ」

口ではそう言いながらも、体はふらふらと別のお店に向かおうとする。

「はっ!」

危ない危ない。まだ見てみたいものがたくさんあるんだ。こんなところでポンポン服買ってたら最後まで財布がもたない。

「あれ、一ノ瀬?」

「あ、遥っちじゃん」

そんなことを考えていると、聞き覚えのある声が俺を呼んだ。その方向を見ると、思った通りの見知った顔がいた。

「海瀬に鈴名。奇遇だな」

海瀬湊に鈴名優芽。もう当たり前のように恋人繋ぎをしていて、現在進行形で百合の花を咲かせているお2人だ。

「お熱いことで」

「えへへ」

冷やかしに対して、恥ずかしそうに頬を緩める鈴名。そしてそんな彼女を愛おしそうに微笑みながら見つめる海瀬。

甘い。甘すぎる。胃もたれまっしぐら。

「そっちは2人で買い物デートか?」

「うん。そっちは……豊作だねえ」

両腕にぶら下がった服たちを見て、鈴名がそう漏らす。

「あれもいいこれもいいってポンポン買っちゃって……完全にペース配分ミスった。ここ来てまだ2時間しか経ってないのになあ」

「どれどれ……結構いいセンスしてるじゃないか。このシャツなんかいいな」

センスという言葉を聞き、ふと2人の服装を見る。

海瀬は黒と白のボーダー柄のTシャツを紺色のジーパンにインしたカジュアルな服装。シャツインしているおかげで足が長く見え、中性的な顔立ちとも相まってとてもクールな仕上がりになっている。

さすが同業者。いいセンスをしているな。

対して鈴名は、へそが少し見えるほどの丈の白いTシャツにハイウエストのショートパンツ。鈴名らしいと言えば鈴名らしいコーデだが……その上から1枚シャツを羽織っている。見るからに鈴名が選びそうな色じゃない。どちらかといえば海瀬が選びそうな色合いの………。

そう思い海瀬のほうを見ると、俺の考えていることが分かったのか苦笑いを浮かべた。

「ちょいちょい」

鈴名が手招きしてくる。どうやら耳を貸せ、とのことらしい。

指示に従って、鈴名の近くまで行き耳を貸す。

「なんだよ」

「これね、湊のなんだよ」

と、羽織っていたシャツを少し引っ張りながら俺に教えてくる。

「だろうな。お前より海瀬が好きそうな色だし」

「モールの中は冷えるからってかけてくれたんだ」

「ほう」

「別にいいって言ったんだけど、『いや、その、優芽のその姿を、あまり他の人に、見せたくないから』って!私の彼女可愛すぎない!?」

とても興奮している様子で自慢してくる鈴名だが、すぐそばに当の本人がいることを忘れてないか?

「優芽」

ほら言わんこっちゃない。

海瀬は繋いでいた手を自分のほうに引き寄せる。そしてされるがままに引っ張られる鈴名。

「あのー、これはですね?ちょっと自慢したくなったといいますか」

自分がやってしまった自覚はあるらしく、必死に言い訳を探す鈴名。正直ちょっとおもろい。

そんな鈴名に対し怒るのかと思いきや。

「そういうのは、2人だけの秘密にしてほしいんだけど」

と、むうっと頬を膨らませながら答えた海瀬。

……あざとい。じつにあざとい。いつものクールな海瀬ばかり見ていたからなおさらそう感じる。不覚にもかわいいと思ってしまった。ただの友達の俺ですらここまで効いたのに、彼女の鈴名は大丈夫なのか。

そう思い、鈴名のほうを見ると……。

「—————————」

固まっていた。どうやら彼女のキャパを超えてしまったらしい。無理もない。クールさが特徴の大好きな彼女が、子供っぽい独占欲を見せてきた。人によっては死ぬレベルだ。

「……優芽?おーい、優m———!?」

「…………Oh」

目の前で熱いベーゼが交わされる。キャパオーバーからの思考ショート、そして本能のままに。

正直、ちょっと気まずい。

「んーーー!んーーーー!」

彼女の肩を叩きながら抗議する海瀬。それでも鈴名は止まらない。止まらないどころか、その行為が煽情的だったのか舌を入れだした。

「んん″!?」

突然の刺激に目を見開き、肩を跳ねさせている。

俺は思わず顔を背ける。さすがに見てられない。

「ん………んぁ……ぅん……」

早く終わってくれないかなぁ!?

気まずいとかいう次元超えてるって!ここ外よ!?ショッピングモールよ!?めちゃくちゃ公共の場よ!?他のお客さんいるよ!?

心の中で文句を言っていると、視界の端に小学生くらいの男の子が赤い顔でこちらを覗き見ているのが見えた。

少年の性癖が壊れる音がした気がする……。

「………ぷはっ」

時間にして2分くらいだろうか、永遠にも思われる時間が終わった。

彼女たちのほうを見る。………まだ見ないほうがよかった。

2人はあくまで重ねた唇を離しただけ。

海瀬は惚けた顔で続きをねだってるし、鈴名はまだ海瀬の頬に手を添えてるし、何なら2回戦を始めようとしてるし。

…………続き?2回戦?

「待て待て待て!さすがに!さすがに!!!」

慌てて2人を制止する。

「「…………あっ」」

我に戻ったのか、2人とも顔を真っ赤にして蹲る。

「「~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」」

声にならない叫びが耳に届く。

完全にこいつらだけの世界に入ってたな………。

「……じゃ、じゃあ、俺、もう行くわ」

ここはそっとしておいたほうがいいだろう。

「ま、またね」

「あ、ああ」

そうして、俺は逃げるようにその場を後にした。

そのあと、2人から謝罪と弁明のメッセージが大量に送られてきたが、それに対して『気にすんな』としか返信できなかったのは仕方ないと思いたい。

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