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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第四章 文化祭
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墓参り

海の家でのバイトから数日後の世間ではいわゆるお盆休みの頃。

俺はお墓参りに来ていた。

「久しぶり、じいちゃん」

いつもと同じように墓石を綺麗にし、花を供える。

そして、線香をあげ、手を合わせる。

「高校に入学してから毎日めちゃくちゃ。まぁその分楽しいからいいんだけどね。中学校の頃とは大違いだよ」

高校に入学してから4ヶ月。それはもう大変だった。

いや、正確には3ヶ月か。

渚を助けたら他に2人も付いてきて、その後に王子様まで来てしまった。お陰様で毎日妬みの視線が突き刺さる。

勉強会だったり色々あった。まさか自分の過去まで話すことになるとは思わなんだ。

今思えば、もうあの頃から好きだったんだろうな。

「また来るよ。その時はもっと面白い話を沢山持ってくるからさ」

そう言って、祖父の墓を後にしようとした時、視界の端にとある人の姿が見えた。

けれど、わざわざ話す仲でもないため、そのまま歩みを進めた。




「あっつ……」

さすがに暑さで参りそうだったので、飲み物買って神社の日陰になっているベンチで休憩。

「温暖化って怖。36℃とか馬鹿だろ……」

暑さを紛らわすために愚痴を漏らすが、そんなもので涼しくなる訳もなく、ただ蝉の声だけが鳴り響く。

「隣、いいかな?」

思わず顔を上げる。

そこに居たのは、さっき墓参りの時に見た人だった。

「ど、どうぞ」

「失礼するよ」

儚さを纏う白い髪にサングラスの隙間から見える緑の瞳。パッと見は綺麗な外国人だが、俺はこの人が日本人で、同じ高校に通っている先輩だということを知っている。

「僕が間違ってなければ、君はおそらく後輩だと思うんだけど」

「合ってますよ、(みこと)先輩」

彼の名は雪葉命。ミステリアスな印象が人気の3年生。学校でたまに言い寄られているのを見かけることがあった。

「下の名前なんだ」

「あ、いやこっちの方が呼びやすかったので。嫌なら止めますけど」

「いや、いいよそのままで。そう呼ばれることの方が多いし」

「分かりました。………なんで俺の事知ってるんですか?」

この人と接点なんてなかったはずだ。

「3年生でも少し話題になっててね、可愛い女子3人を囲っている1年がいるって」

「………!?。何ですかそれ!?」

思わずむせそうになった。

「その様子だと、噂止まりみたいだね」

「そりゃそうでしょう!?そんなやつフィクションの中だけですって!」

「どうやら大変苦労してるみたい」

他人事だと思ってこの人は……。

あとこの人ずっと無表情。真顔のまま。

感情の起伏があまりない人なのか?

「君は誰のお墓参りをしていたんだい?」

ふと、目の前の先輩がそんなことを聞いてきた。

普通それ聞きます??まぁ別に家族だから言ってもいいんだけど。

「祖父ですよ。亡くなって3年ほど経ちます」

「そうか……」

「………………」

「………………」

えっなにこの沈黙。

「……君は聞いてこないのかい?」

それを待ってたんかい。

「あー、なんというか、そういうの聞くのってどうなのかなぁって思ってまして……」

「……なるほど、それは確かにそうだ」

「えっ」

もしやこの先輩天然か?

ミステリアスかつ天然……そりゃ人気出るわ。

「僕は別に気にしない。というかもはや聞いて欲しいまである」

「は、はぁ。ならお聞きしますけど、誰のお墓を?」

「幼馴染み。そうだね、亡くなったのは今から5年前になる」

幼馴染み。

家族とはまた違うベクトルで大切な立場の人。

「飲酒運転のトラックに轢かれてね、即死だったらしい」

「……………」

これは、先輩が語り終わるまで何も言わない方がいい気がする。

「僕が彼女をただの幼馴染みとして見れていたら、そこまで引きずらなかった」

そう言って、先輩は目を伏せる。

おそらくその頃を思い出しているのだろう。

先輩がその人をどう見ていたのか、この前までは分からなかっただろう。

けれど、今ならわかる気がする。

「………好きだったんですね」

「うん。初恋だった。それはもう引きずったよ。彼女がいない世界を生きたくなくて、中学校にも行かなくなって、部屋に閉じこもってただ日々を過ごしていた」

それでも、先輩は今ここにいる。

「そんな壊れた僕を、引っ張り出した人が居て。その子も幼馴染みなんだけどさ。いつも僕といるから多分君も見たことあるんじゃないか?」

「ああ、あの人ですか」

確かに、命先輩を見かける時にいつも一緒にいる人がいた。

名前は雨鳴(あまなり)羽那。黒髪ショートの元気な人。彼女もまたとても可愛らしく、男子達に人気があった。声も大きめで、ムードメーカー的な存在なんだろうなといつも思っていた。

「羽那にさ、"あの子が生きてた世界を、他でもないアンタが否定してどうする!"って叱られちゃって」

「いい幼馴染みじゃないですか」

「それは、そうなんだけど……」

率直な感想を述べただけなのに、先輩は少し恥ずかしそうに頬をかく。

「?」

「その後に"アタシが好きになったのは、そんなアンタじゃない!好きなあの子のために努力してたアンタよ!"って……」

…………これはまた複雑な。

命先輩はその亡くなった幼馴染みが好きで、雨鳴先輩は命先輩が好き。なんなら雨鳴先輩は命先輩がその人のことが好きなのを承知で好きになったと。

「なる、ほど」

「悪いね、君にこんな話をして。なぜか君に話したいと思ったんだ」

「それは構いませんけど……」

「なら続けさせてもらうよ。そんな感じで5年を過ごすうちに、どんどん羽那に惹かれていった」

もしかして、ここから先は惚気話なのだろうか。

「でも、彼女のことを諦められない自分もいる」

ごめんなさい、全然そんなこと無かった。

「どっちに振り切れればいいのか、ここ1年くらい悩んでいる。……君は、どうしたらいいと思う?」

「………そう来ましたか」

最初から悩みを聞いて欲しかったのか。

けれど、どうしたらいいと言われても……。

悩みが悩みだ。軽いことは絶対に言えない。

数分考えたあと、俺は口を開く。

「先輩は、その人に想いを伝えられなくて後悔しましたか?」

「………した。それはもう死ぬほど」

先輩は真剣な顔でそう答えた。

「なら、後悔しない方を選べばいいと思います。じっくり時間をかけて考えればいい。かと言って待たせすぎても雨鳴先輩が可哀相なので、程々に」

「…………そうか、そうだな。もう後悔はしたくない。ありがとう、急にこんなこと聞いたのにちゃんと答えてくれて」

どうやら俺の回答は納得のいくものだったらしい。

これが先輩が答えを出す助けになってくれるといいな。

「そろそろ僕は行くよ。本当にありがとう」

先輩はベンチから立ち上がり、俺に笑顔でお礼を言った。

「は、はい。また」

「それじゃ」

先輩が人気な理由がよく分かった。

いつも無表情の先輩の昂った感情が表情に出たら、それはもう殆どの女子は落ちるだろう。

実際男の俺もちょっと危なかった。

「イケメン怖……」

そのままベンチで少し休憩してから家に帰った。

今度じいちゃんに聞かせる話が1つ増えたな。

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