罰ゲーム
「というわけで、3日間お疲れさまでした!乾杯!」
「「かんぱ~い!」」
あれからみんな合流してそのまま帰宅。話を聞いたところによると、どうやら2人ともうまくいったらしい。よかったよかった。で、そのあとみんなで遊ぼうとなって、人生ゲームをすることになった。
「え~っと、『ゲームの大会で優勝した。100万もらう』!?やったぁ!」
「『結婚詐欺にあった。200万失う』だぁ?おい待て借金しなきゃじゃん!最悪」
「こちら債券となっております」
「このままじゃ遥君ビリになっちゃうよ~?だいじょぶそ?」
今回のワースト2は罰ゲームとして、少し先にあるコンビニまで行ってお菓子や飲み物を買うことになっている。
負けられない、負けられないのだが、ゴール付近で借金を背負った時点でどう頑張ったって負け確である。
こうなったら……!
「よし決めた」
「ここから逆転するとでも?」
何か秘策があるのかと喜野が聞いてきた。秘策なんてない。俺にできるのは1人でも多く道連れにすることだけだ。
「いや、ありとあらゆる手を使ってお前を道連れにする」
「………冗談だろ?」
おそるおそる聞いてきた。真夏の夜は蒸し暑い。クーラーがガンガン効いた部屋から出たくないのは皆一緒だ。だからこそ1人持っていく。
「喜野」
俺は喜野に呼びかけながら、自分が止まったマスを軽く叩く。そこには。
「『ルーレットを回して、出た目の数×100万円を失う。失うプレイヤーもランダムで決める』?待て待て待て待て!なんだよこれ!止まったやつが払うんじゃねぇの?!」
終盤によくあるはっちゃけた額の増減マス。俺も止まったやつが払えよとは思うが、今回はありがたく利用させてもらおう。
「ここに都合よくサイコロがあるじゃろ?出た目の順位の人が支払おうじゃないか」
「私たちもかい」
「ま、私は勝ちが確定してるからいいんだけどね」
ドヤ顔で勝ち誇った顔をするのは渚。こいつだけぶっちぎりでおかしい。なんだよ所持金3000万って。どこまで上振れたらそうなるのか素直に教えてほしい。
「まずは支払う金額は、っと」
回したルーレットが示した数字は10。最大値の1000万キタコレ。
「なんで最大値出すんだよバカ!」
「面白くなってきたなぁ!」
そしてサイコロを振る。今回はゴールした順番とその時持ってた金額によって順位が出される。一文無しで最初にゴールしても意味ない。現在の順位は1位から順に、渚、海瀬、陽菜さん、喜野、鈴名、俺。つまり4を出せばいい。
サイコロの出た目は————————4。
「いよっしゃあ!」
「うそ………だろ」
これにより、どう頑張っても喜野がワースト2になることが確定した。ハハハ!貴様も道連れにしてくれるわ!
そのまま進んで全員ゴール。結果は言わずもがな。
「はいじゃあ、タカと遥君頼んだ!」
「はーい」
「ちくしょう……」
□
「みんなめちゃくちゃ頼みやがって……」
全員の欲しいものを買ったら大きめの袋2つ分くらいになった。あといま俺たちが飲んでいるものもある。いくら何でも多いと思う。
「まったくだ」
道連れにしたお方も同じ気持ちらしい。
「海沿いのおかげでまだ涼しいほうでよかったな」
「まったくだ」
運よく潮風が吹いてくれたので、俺たちはあまり暑さを感じなかった。少し磯の匂いが強かったが、汗だくになるよりマシだ。
「………………………」
「………………………」
しばらく静かな時間がすぎたかと思うと、ふと喜野がこんなことを聞いてきた。
「一ノ瀬ってさ、蒼野のこと好きだろ」
「ぶっ!?ゴホッゴホ!」
「アタリか」
なんてことを聞いてくるんだこいつは。おかげでジュース噴き出したじゃん。
「な、なんで?」
「なんか他の人たちとは、こう接し方が違うような気がして」
「い、いつから?」
「……1か月前くらいか?」
「マジか」
驚きを隠せない。喜野に見破られたことも重要だが、それよりも、好意を自覚する前から駄々洩れだったということのほうが重要だ。ほかの人にもばれてるかもしれない。
「そんな分かりやすい?」
「わからん。俺もふと気づいただけだし。まああとはさっきの話とか」
「うんそれはそう思っても仕方ない。というかもはや気づかないほうがバカレベル」
「で、どうなの。さっさと告白しなよ」
「阿呆、まだ早いわ」
「早いってことはないだろ。もう知り合って3か月だろ?」
そう、確かに喜野の言ってることは正しいのだが………。
これ言いたくないな。でも言わなきゃ終わんないよなこの話。
「お恥ずかしい話ではありますが、その恋心を自覚したのがついさっきでして」
「マジ?」
「マジ」
なのですぐ告白とかできたもんじゃない。まぁ仮に時間がたっても告白することはないが。
「なんかねぇ、こうちょっと違くて」
「違うってなにが」
「”自分が幸せにしたい”とかじゃなくて、”幸せになってほしい”って感じなのよ」
中学の頃のせいで、他者からの好意を気味悪く感じるようになった。他者対他者なら問題ない。なんなら大歓迎である。けれど、他者から自分、もしくは自分から他者の場合は無理。どうしても純粋な好意として受け取れない。必ず裏があるのかと考えてしまう。
「だから、俺は幸せになっていくのを見たい。それだけでいいんだよ」
「なるほどな。まぁ多分その考え方がいつか変わると思うぜ」
「だといいがな」
▢
「「ただいま〜」」
「「「おかえり〜」」」
買ってきたものをそれぞれに渡して食べていく。
「コンビニのスイーツ久しぶりに食べたけど美味しいな」
「美味し〜!」
「あ、遥」
渚がシュークリームを食べていた俺を呼んだ。一口欲しいのだろうか。
「ん?」
シュークリームを少し振って"ほしいのか?"と聞いてみた。
「そうじゃなくて、クリームついてる。ほら、ここ」
そんなことを言いながら、俺の口元のクリームを取って食べた。
───食べた?
「…………ぇ」
驚きすぎて声が出ない。前にもこんなことがあったようななかったような。
「おぉ……」
陽菜さんは少し驚いたような声を上げ。
「ほう………」
海瀬は何故か感嘆し。
「わぁ……」
鈴名は目を輝かせて。
「一ノ瀬……」
喜野は、同情するような目を向けてきた。
「あれ?みんなどうし───あ」
どうやら自分が何をしたのか理解したらしい渚の顔がみるみる赤くなっていく。
そして、俺を見た。恐らく俺の顔も渚と同じくらい赤くなっているだろう。
さらに渚の顔が赤くなる。涙目になってもう耳まで真っ赤だ。可愛いな。
「な、なぎ」
「わ、忘れろぉ!!」
「ゴハァッ!」
俺の腹に見事な右ストレートがクリーンヒット。
「お、おま……」
俺の呼びかけにも答えずに、渚は寝室まで逃げていった。
「お開きにしようか……」
「ですねぇ」
それを追うように他の女子達が寝室へと戻っていく。
「大丈夫か、一ノ瀬」
「………いいもん見れた」
「お前すげぇよ」
ノートPC買ってからなんかモチベすごいんですよね。休みなんでポンポン上げていきますよ。




