可惜夜に君を想う
いい感じにみんなと逸れ、俺と渚は陽菜さんに教えてもらった穴場に来ている。3つもある時点で穴場と呼べるのか怪しいがそれは置いておこう。2人とも、上手くやれているだろうか。喜野と陽菜さんの方は両想いだし問題ないけど、鈴名の方は海瀬がどう思っているのかが分かってないから、もしかしたら、なんてこともありえる訳で。告白するのは自分じゃないのに、めちゃくちゃドキドキしてる。
「遥ー?」
「ん?どした?」
「なんか考え込んでるみたいだったから」
……結構顔に出てたらしい。
「いや、なんでも。ちょっとな」
「ふ~ん」
渚は、俺が何か隠しているのが気に食わないのか、少し口を尖らせている。ここで気軽に話せるようなもんじゃないんだ。すまんな。
「そんな顔すんなって。ほら、もう花火始まるぞ」
「はいはーい」
『ヒュ~~~~~~~~~~~~、ドン!』
夜空を花火が照らす。穴場というだけあって、とても綺麗に見える。都会じゃこうはいかないだろう。
「綺麗だな」
「ねー」
お互いに花火を見るのに夢中になって、淡々とした会話だけが続く。
「今ごろ、優芽と陽菜さんは上手くやれてるのかねぇ…」
「やれてるといいな………ってなぜそのことを!?」
まさか知られているとは思うまいよ。ホントにどこで知ったんだよ!
「い、いったい、いつからご存じで…?」
「優芽は~知り合って1年くらいたった頃だったかな?陽菜さんは、いろいろ話してるうちにふと気づいた感じ?」
「気づいた理由は?」
「女の勘ってやつよ」
出ました“女の勘”。この世の全ての女性が持つとされている、万物を見通す力。
「女の勘って便利だなぁ」
「いやぁ、楽しみだねぇ終わった後にみんなで合流するときが。手とか繋いじゃったりして」
花火そっちのけでこれからに期待を膨らませている渚。なんというか、その。
「おっさんみたいだなお前」
「はあ!?女の子にそんなこと言う普通!?」
「今にもグヘへへとか言い出しそうな顔してたぞ」
割とニヤついてたし、おじさんそのものだったと思うんだが。
「ぐっ、否定できない…!」
渚の反応から、どうやら自分でもその自覚があったらしい。自覚があるなら怒らないでほしかったが。
「まぁそうなる気持ちもわからんでもない」
「でしょー?」
「それ半分、その他半分ってとこだな」
「残りの半分?」
その他の部分が気になったのか、渚が上目遣いで聞いてくる。思わずドキッとした。………心臓に悪いからやめてほしい。
「の、残りの半分は心配。鈴名に対してのな。いろいろ相談受けてたけど結局海瀬がどう思ってるのかわからずじまいだったから」
それとなーく聞き出そうとしたりしたのだが、うまい具合に流されて聞けなかった。なので、さっきも言ったが、内心ビビり散らしてる。
「あの2人も大丈夫だと思うよ?」
「根拠はやっぱり?」
「女の勘」
「ですよね~」
便利すぎないか女の勘。俺も欲しいよそれ。
「ま、そんな気張らなくてもいいんじゃない?私たちは私たちで花火を楽しもうよ」
「そうだな」
いつの間にか花火も終盤に差し掛かっていた。結構話してたらしく、最後によくある、やけくそかと思う量の花火が始まってしまった。
「もう終わるじゃん」
「話しすぎたなこれは」
そう言って、2人して笑い合った。この時、何故か思ってしまった。今、この瞬間が、ずっと続けばいいのにと。
□
「終わっちゃったねぇ」
「終わってしまったな」
名残惜しそうに、俺たちは煙が残る空を見上げる。………もうちょいちゃんと見たらよかったな。
「さ、みんなと合流しよっか」
「そうだな」
渚にそう言われ、ついていこうとした。けれど、なぜか一瞬躊躇った。
「遥?」
「あ、いやなんでも。さっさと行こう」
「はーい、あ、電話だ。優芽からだ」
俺は平静を装って、渚より前に行く。
………なんで躊躇った?いや、それだけじゃない。花火の最後のあれもそうだ。なんでああ思った?
まるで———————
「……………ぁ」
そうか、そうだったのか。気づいた。気づいてしまった。さっき躊躇ったのも、あのときあんな風に思ったのも、全部、俺が渚と2人きりでいたかったからだ。俺は、渚が好きなんだ。渚が電話してくれていて本当によかったと思う。多分今めちゃくちゃ顔赤いから。
「みんなもう集まってるってさ。急ご!」
そう言って、渚は俺の手を引く。たったそれだけで、俺の体は面白いように跳ねた。渚への好意に気づいた途端これである。我ながら初心すぎると思う。そして、まだ2人でいたいという思いも強くなっていた。
神なんて信じていなかったけれど、この時だけは切に願った。
神様、もう少しだけ2人でいさせてください。そして願わくば、この夜が永遠に続きますようにと。
そういえば、古典の授業でやったっけ。こんな風に明けてほしくないほど素晴らしい夜を、”可惜夜”と言うんだったな。
50話もいってないのにタイトル回収はさすがに早い気がしなくもないです。




